第三章 騒乱
混沌
335階層から地上へと戻ってきた僕と時雨さん。
「うそ、でしょ……?」
そんな自分たちの視界に映るのは地獄絵図となった地上の光景だった。
多くの人々が
そんな中で、僕は一切迷うことなくスマホを取りだす。それで確認するのは現状の状況だ。SNSを使い、今、どういう状況なのかを探っていく。
魔物が地上に出てきた。
そんな投稿が散見され始めたのは本当に、ほんの少しだけ前の話だった。
「……五分前」
つまりは、僕たちが配信を終わらせ、マーカーを設置。
それで地上に上がってきたまでの本当に短い時間での出来事であるらしい。
「完全開放」
ここに来て、僕がやることなんて一つだ。
僕は自分の中にある魔物をすべて召喚だ。
召喚の為に燃えあがる御札が散らばり、新宿ダンジョンの周りが炎に包まれていく。
「人命を救い、他を潰せ」
そして、次々とこの場へと顕現する魔物たちへと命令を下し、早急に行動を起こさせる。
「せ、千夜……っ、私たちは」
いつもは感情を見せることのない時雨さんだが、この時ばかりは流石に動揺したのだろう。
明らかに動揺の色を見せる時雨さんが僕の方へと声をかけてくる。
「まずは状況を把握することが先決だと思いますね。家に帰りましょう。まずは、輝夜からでしょう。彼女なら何か知っているかもしれません」
それに対して、僕はスマホを使っての情報収集を続けながら、答える。
「そ、そうね。行きましょう……二人ともっ」
「えぇ」
僕は時雨さんと共に、新宿ダンジョンの方から一気に地上を駆け抜け、家の方に向かって行く。
「……見えたっ!」
僕と時雨さんが全力で駆け抜ければ、まさに一瞬だ。
すぐに東京を駆け抜けた僕たちの視界に入ってくる天音家。
そこは今、魔物たちを襲撃を受けているような最中であった。
「こんのっ!家には入れないわよっ!」
それでも、その天音家は甘夏が手傷を負いながらも、しっかりと守りぬいていた。
「ありがとうっ!」
それに対して、時雨さんは甘夏へとお礼の言葉を口にしながら、家の周りにいた魔物をすべて一刀で斬り伏せる。
「時雨さんっ!?」
「僕もいるよ。頑張ったね、甘夏。とりあえず家の中に入って。結界でここを囲ってしまうから」
そんな二人の元に少し遅れながら合流した僕はそのまま流れるように二人を家の中に入れ、ここに来るまでで準備していた具現領域を使い、ここ一帯を閉じてしまう。
具現領域は世界を自分の色に染める。
そして、己の色に染まった部分の世界は僕がその空間を司る者であり、その内部に入ってこられるか、こられないかを設定するのは自分の意思だ。
「さて、と。輝夜さん」
そんな具現領域でもって誰も入ってこれないように囲い、景色は元のままにしてある家の中で、甘夏のことを心配げに見ていた天音さんと輝夜さんの二人。
その輝夜さんの方へと僕は声をかける。
「何か、見えていた?」
「し、知らないっ!?こんなの、私は知らないっ!私が知っているのは……千夜が近い将来活躍するくらいで」
ささやかな希望を込めての言葉は、輝夜さんの動揺に満ち溢れた言葉によって、かき消される。
「なら、それが今回だったのでしょう。自分の強さというのはこういう時に一番発揮されますから」
「既に魔物は放っているのかしら?」
「えぇ、放っていますよ」
「そう……うちの企業も既に動き出させているわ。その中で、貴方の魔物と戦わせることになったら最悪。何か、貴方の麾下の魔物だとわかるような印はないかしら?」
「それじゃあ、全員に天音さんの企業ののぼり旗でも持たせておきます。所持品を持たせることくらい出来ますので」
正しく言うと、所持品を持たせているわけではなく、そのように見させているだけだが……そこまで厳密に話す必要もないだろう。
「……出来るの?なら、お願い。下に連絡しておくわ」
「了解です」
未だ、時雨さんに輝夜さん。甘夏も動揺と困惑を抱いている中で、一人、冷静さを保っている天音さんと僕は言葉を交わしていく。
「……それで、国との繋がり、とかないでしょうか?僕は本当に何処ともつながりを持っていないので、うまく動けないのですけど」
「ごめんなさい。この緊急時でも使える連絡網はないわ。向こうとの距離が近すぎると、汚職だ、何だとうるさいから」
「そうですか……まぁ、でも、大丈夫です。何とかなるでしょう」
国と連携できるのなら一番だったのだけど……。
「さっきも言いましたが、こういうときに力を発揮するのが僕ですから。一人モンスタースタンピード。一人百鬼夜行をお見せしましょう」
数の勝負では負けるつもりない。
「……と、言いたいところですが、事情も変わりましたね」
なんて力強く言い切ろうとした僕だが、それを途中で止める。
「空に浮かぶダンジョンがあったとして、どうしろというのでしょうか?」
それを止めた背景。
そこには、リビングの窓から見える空。そこに浮かぶ見たことのない天空城───そこから、大量の魔物が降ってきているような光景だった。
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