母親
何はともあれ、とりあえずは天音さんたちのお母さんがどういう状態なのか……ここに尽きる。
というわけで、僕は天音さんたちのお母さんが入院しているといる病室の方へと一人でやってきていた。
「……なるほど」
びっくりするくらいに広く、VIP待遇で入院している天音さんたちのお母さん。
ベッドの上、やせ細った姿で横たわっているその姿を見て、僕は頷く。
「……これは、天音さんたちには見せられないね」
たった一人で僕が天音さんたちのお母さんが入院している病室にやってきた理由は、今、寝ているお母さんの意向だ。
自分が入院している間の姿を天音さんたちに見せたくないというお母さんの願いであり……その、願いに僕も頷ける。
やせ細った体に通されている何本もの管。
完全に抜け落ちた髪。
時折痙攣する手足。
かさかさの口元から漏れている泡……個人的に、色々な状態の人の姿を見たことはあるが、ここまでの状態というのは初めて見た。
この姿を、己の子供に見せたいという親はいないだろう。
「……確かに、病気がらみじゃないな」
それで、僕がここに来た本題であるわけだけど……まず、病気でこうなっているわけじゃないことはほぼほぼ間違いない。
多分、コッチがらみの話だ。
お医者さんの方も、何の病気か全くと言っていいほど突き止められていないと話していたしね。
「誰か。それが問題か」
天音さんたちのお母さん。
その姿を前にして、僕には悪霊などの気配は感じなかった。
この世界には悪霊に取り憑かれ、体調を崩すということが遥か古代の時からずっとおき続けている。表舞台には出ていないけどね。
基本的に、そういう場合は、その悪霊を祓うだけでいい。
僕は辺境の神社の神主であるが、その経験くらいは少ないけどちゃんとある。別に問題なく祓える。
「悪霊じゃない」
でも、天音さんたちのお母さんからは悪霊などの気配を感じない。
つまり、悪霊たちが悪さしているわけじゃない……。
「神様」
病気でも、悪霊でもない。その二つでもないというのなら、もう他の選択肢なんてほとんどないかもしれない。
その中で、真っ先に考えられるのは神様の怒りを買った。
というか、それくらいだ。
「……」
一神教だとホラーは神に見捨てられるところから始まるが、神道の場合は神に見つかるところからホラーが始まる。
我々の世界で、神様に目をつけられるというのは良いことばかりじゃない。
「……まずいなぁ」
いや、神様の怒りを買ったなら、もう……無理じゃないかなぁ?僕の神社のダンジョンにあるもの使ったところで、何か出来るとは思えないけど。
もしかすると、まだ僕が行けていない下の階層には神様の怒りを鎮められるようなものがあるというのか……?神様の怒りを鎮めるなんてほとんど無理だけど。
国がかりで神社を建てて祀るくらいしかないぞ?
「……って、これは?」
そんなことを考えながら、天音さんたちのお母さんの体を眺め、その体の中に流れているものを視ていた僕はあることに気づく。
「……あぁ」
そして、……僕は、天音さんたちのお母さんが今の状態になっている理由に気づいた。
……。
…………これは、代償。
確かに、これは僕のところの神社の案件、だね。
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