押し付け

 ダンジョンの中に入ると共に。


「時間がないっ!」


 僕は青龍を召喚して、その背中へと飛び乗り、かっ飛ばさせる。

 ここから僕は須比智邇神様の助言に従って、神社のダンジョンの最下層に向かわなければ、300階層にまで向かわなければならない。

 悠長にやっているような時間はまるでなかった。

 僕が移動用に最も使っている青龍はそんな期待に応え、順調にダンジョン内を突き進んでいっていた。


「……そろそろきついか」


 青龍は移動速度がかなり速いのだが……戦闘能力の方はそこまで高いわけじゃない。

 ダンジョンの階層が下に行けばいくほどきつくなっていく。


「やってみるか」


 そろそろここで青龍から降りてもいいけど……せっかくなのだし、須比智邇神様の御力で便利度が著しく向上した僕のスキルを使ってみるのもありか。

 出来る、という確信はある。

 だが、それで実際にやってみたわけじゃない。

 ここらで試運転はするべきかも。


「ガァァァァァァアアアアアアアアアアアッ!!!」


 ダンジョン内を青龍に乗ったまま、突き進んでいた僕たちの前に現れた一体の獣、魔物。


「……具現領域」


 そんな魔物を前に僕は口を開き、言葉を一つ。

 僕は具現領域を発動させる。

 それによって、引き起こされること───それは、目に見える形で起こることはない。

 ただ。


「ごぽごぽごぽごぽごぽごぽごぽごぽごぽごぽごぽ……ッ」


 自分の前にいる魔物にだけが大きな異変が起きていた。

 僕の前に現れた魔物は突然息が出来なくなったように暴れ出し、白目を剥き始める。


「いっちょ上がり……うん、うまく行けた」


 完璧、まさに完ぺきだ。

 自分の前で倒れた魔物を見て、 僕は頷く。

 新しくなった僕のスキル……とうとう、僕のスキルである具現領域はこの場に領域を作り出すのではなく、相手の肉体だけに自分の作り出す領域を強引に押し付けられるようになっていた。


「完璧」


 完璧な出来に僕は再度、頷く。

 とうとう僕のスキルが完成した、と。


「ほら、足を止めないで、青龍」


 そして、僕は青龍のことを蹴って更にもっと早く進むよう促すのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る