少女

 僕の前に今、いるのは哀れな実験体である。

 人理教の手により、魔物と体を一体化させられたような。


『ァァァァァアアアアアアアアアアアアア』


 そんな子が、その口より壊れた声で叫び、魔物の半身が暴れ出す。

 少女は立ったまま、それでも、半身だけが膨れ上げって動き出し、僕の方へと向かってきていた。

 突っ込んでくる魔物たちのことを回避し続ける僕は静かに少女並びに、相手の魔物のことを観察していく。


「……魔物にさえ、なりそこなっているかも」


 魔物であれば、僕の調伏があれば何とかなった可能性があった。

 自分の手のうちに入れてしまえば、目の前にいる存在の状況を確認し、うまく操れてかもしれないが……そもそもとして、目の前にいる子は僕の調伏の対象外。

 まだ、人扱いだった。

 かなり無茶をすれば、行ける可能性は少しあるかもしれないが、僕の調伏では神様を抑えておく必要もある。

 ここで無茶するわけにもいかないだろう。


『ァァァァァアアアアアアアアアアアアア』


「ふぅむ……」


 少女を傷つけないよう、魔物の攻撃を回避し続けている僕はどうするかを悩む。

 ここで、殺してしまうのは流石に忍びない……できれば、助けてあげたかった。


「……捕らえるくらいなら行けそうだけど」


 今の僕に、少女のことをどうにか出来る気はしない。

 だけど、目の前にいる少女のことを捕まえるくらいなら出来そうだった。

 研究所を破壊していることからもわかるように、目の前の少女はかなりの力を……その半身にへばりつき、大暴れしている魔物はかなりの強さを見せている。

 膨張し、迫ってくる速度もかなり早く、一発、一発の攻撃力もかなり高いように見受けられる。

 ただし、それでも僕の相手ではない。


「……捕らえるか?」


 僕は一応、手に持った剣を降ろし、ここで少女のことを捕らえ、何処かの研究機関で何とかしてもらうように頼むことを本気で考え始める。


『ァァァァァアアアアアアアアアアアァ、ァァァアアア……ころ、して?』

 

 その瞬間だった。

 殺気の有無に反応した、少女が悲鳴の中で懇願の声を漏らしたのは。

 

「……」


 何時でも、少女の首を斬り落としに行ける位置取りをしていた僕は地を蹴る。


「ごめんね」


 そして、僕は手に持っていた剣を振るい、少女の首を斬り落としてみせるのだった。

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