脇役剣聖、弟子をメシに誘う
さて、やってきたのは焼き肉屋。
個室を借り、鉄板を温め、大量の肉を注文。
三人に果実水を注文し、俺はエールを注文……全てが揃い、俺はジョッキを手にした。
「じゃあ、今日はお疲れさん。かんぱーい」
「乾杯ですー!!」
「か、乾杯……」
「うむ、乾杯」
グラスを合わせ、俺はエールを一気飲み……キンキンに冷えた酒が喉を通るこの感覚、やはり最高!! 風呂上りだったらもっとよかったけどな。
俺はジョッキを置き、さっそく肉を焼き始める。
「さあさあ、明日から地獄の訓練だ。今日はいっぱい食べて明日への力にしろよ」
「じ、地獄なんですね……」
「……ボク、大丈夫かな」
「拙者は楽しみです!!」
鉄板に肉を乗せるとジュウジュウ焼ける。俺は焼けた肉をそれぞれの皿に盛る。
「そういやルシオって家があるんだよな。ノリで家に来いなんて言ったけど、どうする?」
「えと……一か月くらいなら、お世話になりたいです。一度、母さんにちゃんと言わないといけないですけど」
「よし。じゃあ、メシ食ったら行くか」
「え……し、師匠もですか?」
「そりゃ、大事な息子さん預かるんだ。俺が挨拶に行くのは当然だろ」
「え、ええと……な、七大剣聖のラスティス様が、わざわざ来ることでは」
「んな肩書関係ねぇよ。サティ、お前はイチカと一緒に、イチカに必要なモン買いに行け」
「必要なもの? イチカさん、何かあります?」
「うむ。この身一つあれば問題ないが」
「いや、着替えとか必要だろ……お前、マジで着の身着のままだし」
俺は喋っている間も肉を焼き、三人の皿にのせる。
もちろん、俺も食う……うん、うまい。
せっかくの機会だし、いろいろ聞いてみるか。
「イチカ。お前って賞金稼ぎだったんだよな?」
「はい。拙者、東方でもののけ狩りを生業としておりました。祖父と二人で狩りをしていたのですが……祖父が亡くなってからは一人で。そして、祖父の手紙を見てラスティス様に会うと決め、アルムート王国にやって来たのです。途中、凶悪なもののけに遭遇し、死を覚悟しましたが……ランスロット殿に助けられ、こうしてここにいるのであります」
ランスロットから聞いた話、まんまだな。
サティ、ルシオも「そうなんだ……」みたいな感じで聞いているし。
これから共同生活だし、互いのことを知るのは悪くない。
「ルシオは……兵士に志願だったな」
「はい。母に楽をさせてあげたくて……兵士なら給金もいいし、功績を立てれば昇格して、お金も多くもらえるので。でも、まさか試験で『神スキル』が発現するとは思わなくて……実は、今も少し混乱しています」
ルシオは苦笑し、頭を掻いた。
するとイチカが言う。
「母のために、か。父はいないのか?」
「うん。小さいころに亡くなってね……母はずっと苦労してきたから。だから、少しでもお金を稼いで、母に楽をさせてあげたい」
い、いい子だ……なんか泣ける。
サティはウンウン頷いているし、イチカは真っすぐルシオを見ていた。
「お主の、母を想う気持ちは尊い。その気持ち……拙者は素晴らしいと思うぞ」
「……イチカさん」
「イチカでいい。拙者も、お主をルシオと呼ばせてもらう」
「……うん、わかったよ、イチカ」
おお、互いに認め合う瞬間……チラッとサティを見ると、少しムスッとしていた。
「あのー!! あたしのことも聞いてください!!」
「む……そういえば、サティ殿のことは何も知らんな。ラスティス師匠の弟子としか」
「師匠の弟子で、魔族とも戦ったと聞きますけど……」
「ふっふっふ。ルシオくん、イチカさん!! あたしの活躍を聞いたら驚きますよー!!」
サティは、魔族との戦い、修行、そして神器と臨解の覚醒を話した。
二人は目をキラキラさせ、サティの話を聞いた。
「───って感じで、あたしは師匠の弟子になり、数多の激闘を制してここにいるんです!!」
「す、すごい……サティさん、本当に強いですね!!」
「むう……潜った修羅場の数が違う。さすが姉弟子だ」
「ふっふっふ。あ、あたしのことはサティで!! あたしも、ルシオとイチカって呼ぶので!!」
「えっと……さ、サティ、でいいかな」
「はい!! えへへ、男の子に呼び捨てされるの、少し恥ずかしいですね」
「ッッッ……」
「ではサティ、姉弟子、よろしく頼む」
「はい!! えへへ、師匠、みんなと仲良くなれそうです」
「ああ、そうだな」
こうして、焼き肉屋での時間は楽しく過ぎるのだった。
◇◇◇◇◇◇
サティ、イチカは買い物、俺はルシオとルシオの家へ向かった。
ルシオは言う。
「あの……本当に、いいんですか?」
「ああ。手土産も買ったしな。なあ、クッキー系で良かったと思うか?」
「え、ええ……」
しばし歩き、向かったのは……古ぼけた居住地区。
貧困層が住む区画にある一軒家に到着。ルシオがドアを開けた。
「ただいま、母さん」
「ルシオ。おかえり……あら、お客さん? お友達かしら?」
「ち、違うよ。こちらはその、ボクの師匠になったラスティス様。七大剣聖のラスティス様なんだ」
「へえ、七大剣聖……って、七大剣聖!? まあ!!」
「それで、ちょっと話があるんだ」
そこまで言い、俺が前に出た。
「初めまして奥さん。七大剣聖序列六位、『神眼』のラスティス・ギルハドレッドです。あ、これつまらないものですが……」
「ど、どうもご丁寧に……ルルシエと申します」
クッキー缶を渡すと、おずおずと受け取った。
ルシオの母、ルルシエさん。若いな……三十代半ばくらいか、ルシオの童顔は母親譲りなのか、母親も二十代半ばくらいにしか見えない若々しさだ。
椅子に座らせてもらい、さっそく俺は説明する。
「ルシオくんは『神スキル』に目覚めました。そして、その力を伸ばすための師として、自分が選ばれました。一か月ほど、ルシオくんをお借りしてよろしいでしょうか?」
「借りる、とは」
「貴族街にある私の屋敷で、他の弟子と一緒に共同生活を送らせます。朝から晩までの修行となるので……」
「なるほど。ルシオ……あなたはいいの?」
「うん。ボク、師匠の元でもっと強くなるよ。それに母さん……母さんも、ハイジおじさんと一緒に過ごす時間、欲しいでしょ?」
「この子ったら、親に余計な気を遣わなくていいの!!」
ハイジおじさん? なんだ、唐突な新キャラに思わずルシオを見る。
「実は母さん、仕事先のパン屋のハイジおじさんと、いい感じなんです」
「も、もう、そういうことは言わなくていいの。この子ってば」
「あはは、でも……ハイジおじさんはいいヒトだと思う。母さんのこと、きっと大事にしてくれる……父さんも、きっとそれを望んでいると思う」
「ルシオ……」
「ボクは、ハイジおじさんが母さんを大事にしてくれると思う。だから母さんも、幸せを掴んで欲しい」
「……この子ってば」
いやいい子すぎだろ!! なんか泣けるんだが!!
すると、なんというタイミングなのか、ドアがノックされた。
ドアを開けると、恰幅のいい眼鏡の男性が、カゴいっぱいにパンを入れて微笑んでいた。
「あ、あの、ルルシエさん。その……新作のパンが焼けたので、よかったら一緒に……」
「ハイジさん……いつもすみません」
「い、いえ。お、ルシオくん……と、え? ど、どちら様ですか?」
……なんか勘違いされる気がする!! いや確かに家に上がってるけど、俺はそういうんじゃないぞ!! 俺の存在で面倒なことになるのはごめんだぞ。
すると、ルシオが言う。
「ハイジおじさん。こちら、ボクの師匠のラスティスさん。しばらくラスティスさんの家にお世話になるから、母さんに説明しに来たんだ」
「そ、そうなのか。うん……よかった」
いや、マジで気が利くぞルシオ……本当にすげえ。
とりあえず、邪魔しちゃ悪いので、そそくさと立ち上がる俺。
「では奥さん、ルシオをお借りします」
「は、はい。ルシオをよろしくお願いいたします」
「はい。ルシオ、俺の屋敷はわかるな? 着替えとか準備して来てくれ。俺は先に帰ってるからよ」
「はい!!」
俺は家を出て、ササッとその場から離れるのだった。
さて、明日から本格的な修行だ。いろいろ準備しないとな。
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