脇役剣聖、ルール確認

 団長の傍に、俺たちは集まった。

 俺、サティ、ルシオ、イチカの師弟チーム。

 ラストワン、アナスタシア、フルーレの三人。

 ランスロット、イフリータ、ミカゲの家族チーム。

 そして団長の隣にバーミリオン、そしてエミネム……んん? 団長の背後にロシエルもいた。

 というか、七大剣聖がみんな揃って……って、おいおいおい、まずいだろ。


「あの団長、質問」

「なんだ」

「いやその、こんな寂れた場所に、七大剣聖が全員と、神スキル持ちが勢ぞろいとか……王都の守りってどうなってるんです?」


 頭を掻きながら言うと、ラストワンが俺の背中をペシっと叩く。


「王都なら心配いらねぇよ。オレが『増やして』おいたからな」

「おい……お前、『UnlimitedアンリミテッドDopperIドッペルgangerゲンガー』使ったのか」


 その技の意味を、俺は知っている。

 知らないのは団長を除いた全員だ。みんな俺が険しい顔をしていることに驚いている。

 あれはラストワンの切り札。使ったら無限にラストワンを増殖し、全てが終わったら最後の一人になるまで殺し合いをする。そして、残った一人が『ラストワン』になる。

 あんなの、技じゃない。俺はそう思っているが……ラストワンは肩を竦めた。


「ま、お前が何考えてるか理解してる。でもよ……忘れんなよ? オマエがサティちゃんたちを鍛えたように、オレらも限界超えてんだ。使ってもいい理由ができた……そう思っておけよ」

「…………へえ」

「へへ。まあ楽しみにしておけ」


 この自信……警戒しなきゃな。

 団長は咳ばらいをすると、話を続ける。


「今回、我々七大剣聖と、神スキル持ちの実力向上のための模擬訓練を行う」


 サティとイフリータ。

 エミネムとデボネア。

 俺とランスロット、そして俺とラストワンとアナスタシアとフルーレの摸擬戦だ。

 すると、バーミリオンが挙手。


「おい兄貴、テメェはやらねぇのかよ」

「ワシは見届人だ」

「ケッ……退屈なら、オレが相手してもいいんだがな」


 好戦的……団長は冷静沈着って感じだけど、バーミリオンは正反対だ。

 すると、バーミリオンがニヤリと笑う。


「じゃあこうするか。そこのヒヨッコの二人、オレが稽古付けてやるよ」

「えっ」

「……ほう」


 なんと、バーミリオンはルシオとイチカを指差し、ニヤニヤ笑っていた。

 ルシオは愕然としていたが、イチカは今にも剣を抜かんばかりに殺気立っている。


「兄貴、いいだろ?」

「…………ラスティス」

「え、ああ。う~ん……イチカはともかく、ルシオはどうする?」

「え、えと、いきなり言われても」


 ルシオはどうすればいいかわからないようだ。というかみんなから注目されてオドオドしてる。

 するとサティ、ルシオの手をガシッと掴んでまっすぐ目を見た。


「大丈夫!! ルシオくんは強い!! 大丈夫大丈夫!! がんばろっ!!」

「え、あ……」


 おお、ルシオの顔が真っ赤になっていく。手をしっかり握られて照れているのか、耳まで真っ赤になり小さく頷いた。

 この一連のやり取りだけで、アナスタシア、ラストワン、そして俺の見た感じイフリータが何かに気付いた。ラストワン、アナスタシア、その「へえ……」みたいな微笑やめろ。


「決まりだな。へへへ」


 バーミリオンは「いい暇つぶしできたぜ」と言わんばかりに腕をブンブン振っている。

 団長は再び咳ばらい。


「ゴホン。では、さっそく第一試合から始めるか」

「あ、ちょっと待った団長」

「……ラスティス。今度は何だ」

「俺とやるの、ロシエルも入ってますよね? その時、四対一にしてください」

「……正気か?」

「ええ。それくらいやらないと、俺の修行にならないんで」


 ロシエルがぴくっと目元を動かしたのが見えた……ああ、バカにすんなって思ってんだよな。

 

 ◇◇◇◇◇◇


 さて、ルール確認だ。


「全力を出しての摸擬戦だ。だが、命の危機を感じた時は、ワシが止めに入る。それと、神器の使用は許可、臨解の使用も許可する」

「え……団長、臨解もすか?」

「うむ。ここなら、臨解し神が顕現しても、被害は最小限に留めることができる」


 団長が言うならそうなんだろうが。

 だが、神スキルの臨解がどれほどのモンか……とりあえず、試合していないときは俺も動けるようにするしかないな。


「よし。ではこれより摸擬戦を開始する。第一試合は……」


 すると、エミネムがデボネアと睨み合っていた。

 エミネムは静かに燃えているが、デボネアは人差し指と中指を合わせ、首を斬るような動作をする。


「お父様。第一試合は私が」

「……いいだろう。では、第一試合はデボネア、そしてエミネムの試合とする!!」


 二人以外は、少し離れた場所にある高台へ。

 エミネム、デボネアは向かい合う。


「……お久しぶりですね」

「そーね。ま、どうでもいいけど」

「小難しい会話は必要なさそうですね……では、戦いましょう」

「ええ。前は引き分けだったし……今回は、楽しい決着を」


 エミネムは槍、デボネアは手に二本のナイフを持ち構える。

 団長が、二人の前に出て言う。


「それでは……互いに最善を尽くすように。始め!!」


 こうして、ついに始まった。

 人間同士で、恐らく歴史上で最も派手な、神スキル持ち同士の戦いが。

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