脇役剣聖、珍しく気合いを入れる
翌日。
王都を出た先にある岩石地帯に、俺たちはいた。
俺、サティ、ルシオ、イチカの四人は馬車から降り、ただっ広い平らな岩石地帯を眺める。
かなり広い。岩石地帯を無理やり更地にしたような場所だ。
イチカ、ルシオが言う。
「ほう……ここなら、派手な戦いができそうですね」
「た、確かに。あの、師匠……ここが、サティさんの戦いの舞台、ですか?」
「ま、そういうことだ。というかここって」
すると、別の馬車が到着……降りてきたのはなんと、団長だ。
そして、もう一人。
「……新規臭ぇところだな」
「フン。ワシの訓練場だ。元は岩石地帯だったが、いつの間にか更地になってしまった」
「ケッ」
誰だろう? すっげぇガタイに、傷だらけの身体、右目に眼帯をして、髪は逆立っている。
俺をジロっと見ると、ズンズン向かって来た。
「……」
「え、えっと……その、どちら様で?」
「おめぇ、強ぇな」
なんだこいつ……目が尋常じゃないくらい力強いぞ。
服装は山賊っぽい。剥き出しの二の腕は筋肉がみっちり詰まり傷だらけ。右目に眼帯をして、左目にはクマが引っ掻いたような三本傷。そして背中にはアホみたいにデカいハンマーを背負っていた。
見下ろされていると、団長が近づいてきた。
「ラスティス。こいつはバーミリオン。ワシの弟だ」
「お、弟ぉ? だ、団長の?」
「ああ。二十年前、ワシがグレムギルツ公爵家から追放した」
つ、追放って……当たり前のように言いやがる。
ああ、公爵家で、兄弟そろって神スキル持ち。まあ……跡目争いとかあったのか?
なんとなく察すると、団長が言う。
「バーミリオン。約束は忘れていないな?」
「おう。ガキに手ぇ出さねぇ、魔族殺しだけすればいいんだろ。テメーこそ忘れてねぇだろうな」
「ああ、報酬は白金貨五千枚と、王都郊外にあるグレムギルツ公爵家が管理する土地、そこに傭兵団の本拠地を構えるだったな」
「もう一つあるだろ」
「……ワシを一度だけ、全力でブン殴るだったか。好きにしろ」
「フン。わかってんならいい」
「……よ、傭兵」
ルシオがゴクリと唾を飲み込むと、バーミリオンがジロっとルシオを見てにんまり笑う。
「おめぇ、傭兵に興味あるか? 神スキル持ちなら、すぐに一部隊任せてもいいぜ。くくく、傭兵は稼げるぜぇ?」
「え、あ、いや」
「バーミリオン、約束を忘れるな」
「へいへい。ガキに手ぇ出すなだろ。これはただの会話だ。なあ?」
「あ、はい……」
ルシオはそそくさと俺の後ろへ……わかる。このオッサン、威圧感すげえもんな。
なんとなく団長と見比べると……うん、目元とか似てるかも。
そんな風に思っていると、馬車が三台到着。
「よーうラス、ひっさしぶりだなぁ」
「おうラストワン。なんだお前、グラサンのデザイン変わったか?」
「変わってねぇよ!! ったく、適当言いやがって」
ラストワンと軽く拳を合わせる。
そして、フルーレ、アナスタシアも来た。
「久しぶりね、ラスティス・ギルハドレッド」
「おうフルーレ。背ぇ伸びたか?」
「ブチ殺すわよ」
「す、すまん……お前、怖さ増したな」
「ふん……」
「アナスタシアも、久しぶりだな」
「ええ。あなたも変わらないわね」
すると、バーミリオンが再び来た。
「おうおうおう、いい女いるじゃねぇか!!」
と、アナスタシアを見て目を輝かせる。
そして、俺の肩をバシッと叩く。
「おいボウズ、この姉ちゃん、お前のコレか?」
そう言って小指を立てる……指でこういうことするキャラとは思わなかった。なんかこいつのことけっこう好きになるかも。
俺は首を振る。
「違う違う。こいつは俺の元弟子で、今は同じ七大剣聖。見ての通り超美人のお姉様だ」
「ほほぅ……いいね、実にいい」
「オッサン、なんか俺、オッサンとならいい酒飲める気がするぜ」
「ほう、ラスだったか? 今夜どうよ?」
「いいぜ。いい店知ってんだ。なあラストワン」
「お前、オレ捲き込むつもりかよ……まあいいけど」
俺はバーミリオンと拳を合わせる。粗暴そうなオッサンだけど、なんかいいヤツっぽい。
アナスタシアはため息を吐いた。
「あなた、団長の弟さんね? はじめまして。アナスタシアよ」
「オレぁラストワン。今夜はいい酒が飲めそうだぜ」
「……フルーレよ」
「おう。オレぁバーミリオン。南で最強の傭兵団『ダイナマイト』のリーダーよ!!」
ラストワンが「ピュウ」と口笛を吹き、アナスタシアも驚いていた。
「『ダイナマイト』って、南で最も邪悪な人身売買組織をぶっ潰した有名な傭兵団じゃねぇか」
「そうね。神スキル持ちで構成された人身売買組織で、その規模から一国の騎士団が動いても敗北すると言われていたわ。でも、突如として現れた傭兵団が、たった半日で組織を壊滅させたとか……主戦力である神スキル持ちは三人いたけど、傭兵団のリーダーがたった一人で倒したって言う」
「詳しいな!! そう、その『ダイナマイト』よ」
「かかか!! こりゃ面白れぇ話が聞けそうだ。おいラス、バーミリオン、今夜はウチの店に来いよ。いい子いっぱい用意して待ってるからよ」
「いい子?」
「ラストワンは王都で一番デカい娼館、飲み屋を経営してんだよ」
「ほほー!! いいぜ、今夜は楽しもうぜ!!」
「ちょっと。私も混ぜてくれるのかしら?」
「アナスタシアもか。いいぜ? キレーなドレス用意しておくからよ」
そんな風に笑い合っていると、フルーレが言う。
「……あなたたち、よくそんな風に会話できるわね。これから私たち三人は、ラスティス・ギルハドレッドに挑むのよ?」
そう言うと、俺、アナスタシア、ラストワンは真顔になる。
「ま、確かにそうだな。でも、これが終わればいつもの俺たちだ。今夜の予定くらい考えてもいいだろ?」
「そうそう。なあアナスタシア」
「ええ。それに、これが私たちだから」
「……まあ、いいわ」
フルーレは「ふん」と鼻を鳴らし、サティの元へ……って、サティの傍にいつの間にか、エミネムがいる。
「わり、俺も行くわ」
アナスタシア、ラストワンにバーミリオンを任せ、俺はエミネムの元へ。
「あ、ラスティス様。お疲れ様です」
「ああ、もう来てたのか」
「はい。その……叔父様と仲良くお話していたようですので、邪魔しないように」
エミネムはにこっと微笑む。
叔父様か。団長の弟ってことは、エミネムの叔父なんだよな。
何か聞こうと思ったが、嬉しそうなサティの声。
「えへへ、フルーレさんにエミネムさん!! なんだかこうして三人でおしゃべりするの、やっぱり楽しいですし、嬉しいです!!」
「そうね。ふふ……サティは本当に変わらないわね」
「確かに。そうですね」
サティ、エミネム、フルーレ。俺の最初の弟子たちが笑い合っている。
少し離れた場所にルシオ、イチカがいたので、俺はその背を押した。
「ほれ、俺の今弟子たち、会話に混ざれって」
「あ、いえでも、邪魔しちゃ悪いような」
「ふむ……拙者も、何を話せばいいのか」
「そういうのは、話ながら考えろ。おーい、ルシオたちも混ぜてやってくれ」
二人の背を押すと、サティが二人を出迎えた。
サティ、イチカ、ルシオ、そしてフルーレにエミネム。
なぜだろう……十年後くらいに、この五人が七大剣聖のマントを着ているような気がした。
しみじみと眺めていると、やたら豪華な馬車が到着。
俺の近くに止まったので眺めていると、ランスロットが降りてきた。
「出迎えご苦労様です、ラスティス」
「いや、別に出迎えたわけじゃねぇけど……まあいいや」
ランスロットの次に降りてきたのは、イフリータ。
俺を見て敬礼するので、俺も敬礼を返す。
そして三人目はデボネア。俺を見てビクッとしたが、すぐに余裕そうな態度を見せ、なぜか前屈みになって胸の谷間を見せつけ、舌をぺろりと見せた……何してんだろうか?
そして、最後の一人。
「…………」
黒いショートヘアの少女だった。
黒いマスクで口元を隠し、黒装束を身に纏っている。
俺をジーっと見て、なぜか近づいてきた。
「…………」
「…………えと、なんだ?」
ランスロットがため息を吐き、少女をそっと引き離す。
「彼女はミカゲ。私が見つけた神スキル『神影』の使い手で、新たに養子として迎えた子です」
「神スキル持ちか。で……なんで俺をジッと見る?」
「申し訳ない。この子は非常に無口で……私もまだ、一度しか会話をしていないんです」
「そ、そうなのか? というか……」
なぜ、俺をジッと見てる?
見つめ返すと、ミカゲはそっと目を逸らした……なぜか頬を染めて。
意味不明すぎる。
「揃ったようだな。全員、集まれ!!」
団長の声が響く。
とりあえず、今日はこれから摸擬戦。気合い入れないとな!!
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