脇役剣聖、頂を見せる

 摸擬戦前日。

 俺は王城に備え付けの訓練場にて、サティ、イチカ、ルシオの三人の前に立つ。

 三人はピシッと立っている。

 若いのに真面目な三人だ。クソガキだったころのラストワンなんて舐めた態度だったし、アナスタシアも俺を目を合わせず明後日の方見て話を聞いていたけどな。

 そのたびに、ギルガやフローネに怒られてたっけ……懐かしい。


「あの、師匠?」

「ん、ああすまん。えーと……いよいよ明日、サティはイフリータとの再戦だ。よって今日は最終調整。サティ、イチカ、ルシオ、俺と一対一での戦闘訓練をする」

「「「!!」」」

「いい反応だ。ただしサティ、イチカは臨界を使うな。ルシオ……お前は、神スキルを使え」

「え……」

「ははは。お前、訓練終わったあと、こっそり自主訓練してるだろ? 技の開発とかな」

「う……」


 なんで知ってるんだ……みたいな顔してる。

 わかるんだよ。だって俺も十代のころ、必殺技とか欲しくて深夜まで訓練してたからな。まあ……俺の『神眼』は見るのがメインだから、剣術との合わせ技とかできなかったけど。

 

「まずはイチカ。お前からだ」

「は……はい」

「殺さないが……殺すつもりでやる。お前が超えるべき目標を見せてやる」

「……はい」


 スッとイチカの目が細くなった。

 イチカはこの三人の中でも特に『切り替え』がうまい。恐らく……まあ考えたくもないが、スイッチを入れたら身内ですら殺せるだろうな。こいつにはその冷酷な心が備わっている。

 仮に俺が『ルシオを殺せ』と言えば、迷いなく首を跳ねるだろう。

 賞金稼ぎ……こいつの経歴を改めてみたが、稼いだ賞金の七割以上が盗賊などの『人間』を殺したことによる金だった。

 爺さんの教えなのか知らんけど、魔獣に後れを取ったのは、人間とは勝手が違ったからだろう。


「る、ルシオくん、離れよう」

「は、はい」


 サティがルシオの背を押して離れる。

 イチカは、漆黒のポニーテールを揺らし、刀の柄に手を乗せて居合の構を取る。

 

「参る……『斬鬼王ざんきおう』」


 ──速い。

 身体強化による超接近。

 魔力を全開にすることで、持続時間より効果を優先した強化だ。あり得ないほどの魔力が身体強化に注がれており、これだと一分も持たないだろう。

 超短期決戦型……これがイチカの本来の戦い方。


「『霧燕きりつばめ』」

「!!」


 俺は一瞬だけヒヤリとした。

 イチカの抜刀術。それ自体は躱した……が、刀から伸びる『見えない刀身』が、危うく俺の顔に消えない傷を付けるところだった。

 神スキル『神刀』の力。ランスロットの『神剣』と対になるって言ってたけど、どこがどうツイなのか俺にはわからん。

 ランスロットは、剣に魔力を纏わせて斬撃を強化したり、様々な属性を乗せて放つことができる。属性剣……ルシオの神虹みたいな力ではなく、『神剣』としての力だ。あくまで剣に属性を加える力なので、魔法のように放つことはできない。

 だがイチカは? この無色透明の刃が、『神刀』の力なのか。


「……そういうことか」

「『旋風鴉つむじからす』!!」


 納刀からの抜刀、すると渦巻いた何かが飛んできた。

 俺も抜刀する。


「『閃牙』」


 俺の抜刀、斬撃で渦巻いた何かが消滅した。


「神スキル『神刀』……お前、空間を切り裂いてるな?」

「……その通りです。拙者はこの世、存在する全てを斬る異能があります。空間を斬り、加工し、攻撃として放つ術を会得……九条流ではない、拙者の剣技です」

「いいね。空間に断裂を作ってぶつければ、切れないモンは存在しない。さらに空間を『加工』だと? いやいや、すごい」


 今のは、空間を斬って『ねじり』、渦を巻くようにした斬撃だ。

 俺にも何言ってるのかよくわからんが、そういう攻撃としか言いようがない。

 空間を斬撃化する……これが『神刀』の力か。


「続きといきましょう。『粗鷹あらたか』!!」

「おっ」


 三連斬り、しかも空間に断裂を作って飛ばすおまけつき。

 だがまあ、俺には見えている。


「くっ……『槍鴎やりかもめ』!!」

「甘い」


 俺はイチカの突きに向かって顔面を突き出し、紙一重で回避。

 そのままイチカの腹に掌底を叩きこむ。


「っごぁ!?」

「キレもいいし、技の威力も申し分ないな。でも、まだまだ甘い……空間を斬撃化すると、空間そのものが歪んで見える。不可視ってほどじゃないし、手練れなら躱すのも難しくない。もっと練度を高めることだな」

「う、ぐ……」

「よしここまで。次、サティ」

「は……はい!!」

「あ、ありがとうございました。やはり、あなたは拙者の師匠だ……」


 イチカは嬉しそうにお辞儀し、ルシオの隣へ。


 ◇◇◇◇◇◇


「ありが、と……ございまし、た!!」

「おう」


 サティとの摸擬戦は順調に終わった。

 神スキル『神雷』も強くなっているし、神器もいい感じ……相変わらず燃費が悪く、短時間しか使えないが。エミネムみたいに常に手元に置いて使えるようなモンじゃないんだよな。

 双剣を鍛えまくったのも、この燃費の悪さがあるからだ。一度使うと数分しか使えないし、全身疲労で動けなくなる可能性がある……今みたいに。

 なので、普段使いの雷、磁力をメインに武器攻撃を鍛えさせたけど……間違っていなかったな。


「うう、身体が重いぃ」

「相変わらず神器の燃費が悪い。それは切り札にして、普段は武器、雷、磁力の合わせ技で戦うといい。それだけでも十分問題ない」

「はいぃ」


 サティは身体を引きずるようにイチカの元へ。

 そして、ルシオに言う。


「ルシオくん、頑張ってね!!」

「は、はい!!」

「ふむ……お主の成長具合、楽しみにしているぞ」

「は、はい……」


 ルシオ、サティには元気いっぱいだけど、イチカだと緊張するんだよな。

 

 ◇◇◇◇◇◇


 あきらかに、ルシオは緊張しまくっていた。

 腰に剣、背中に矢筒、手には弓……なるほどな。


「ルシオ、今できる全てをぶつけろ。サティとイチカを見てわかったろ? 二人より遥かに劣るお前は、俺を傷付けるどころか、触れることすらできない。だから、なんの心配もない」

「……」

「来い」

「……はい、いきます!!」


 ルシオは矢を抜くと、一瞬で番え俺に向かって放つ。


「『虹の弓レインボウ』───《赤の矢ロッソ》!!」


 鏃が燃えた矢が飛んでくる。

 しかも連続で五発。動きながらの連続射撃……狙いもいい。


「『閃牙』」


 だが、俺は一瞬で全てを斬り落とす。

 ルシオは当たらないとわかっているのか、俺から離れ再び矢を番える。


「《緑の矢ヴェルデ》」

「お?」


 黄緑色に輝く矢……俺ではなく、俺の周囲の地面に刺さる。すると、地面から一気に竜巻が発生し、壁のように視界を遮る。


「《青の矢ブルー》、《紫の矢ヴィオラ》、《黄の矢ジャッロ》、《水の矢アズーロ》、《橙の矢アランシオ》!!」


 ほほう、これはすごい。

 赤は炎、青は水、緑は風、紫は雷、橙は地、水色は氷、黄色は植物……それぞれの属性を宿している。

 視界を遮り、魔力による身体強化で俺の周りを駆け、七属性の矢を同時に叩きこむ。

 まあ、悪くない。でも、あきらかに素人考えだな。


「『閃牙・うずまき』」

「え、うっぁぁぁぁ!?」


 俺は一回転し抜刀、周囲を一気に薙ぎ払った。

 竜巻が掻き消え、属性の矢も一気にはじけ飛び、ルシオも衝撃で吹っ飛んだ。

 俺は寝ころんだままのルシオに言う。


「属性の矢、まあ悪くない。でも……一対一じゃ不向きだな。その技は援護としては非常に役立つ可能性がある。狙いもいいしな」

「うぐぐ……」

「ほれ立て。次は剣を見せてみろ」

「……はい!!」


 ルシオは剣を抜き、俺に向かって突っ込んでくる。

 

「おおおおおおおお!!」


 ルシオは剣を振り回す。

 剣技もクソもない。棒切れを振り回すのと変わらない。

 

「おい、それじゃ駄目だろ。サティ、イチカから何を教わった?」

「いでっ!?」


 俺はルシオの剣を躱し、頭をコツンと叩いた。

 頭に血が上ってるのか、息が荒い。


「落ち着け。ルシオ……お前の神スキルと、二人から習った剣を見せろ」

「……剣」

「おう。サティ、お前のこと褒めてたぞ? 成長が早いってな」

「……」

「お前の神虹の可能性を見せてみろ」

「───はい!!」


 ルシオは冷静になると、周囲の魔力を吸収し始める。

 しまった……そういやルシオ、魔力を体内で精製するんじゃなくて、周囲から吸収するんだった。

 

「ボクの、剣……虹の剣」

「……そうだ。集中しろ、お前の力を、可能性を形にしろ」

「……ッ!!」


 そして、ルシオは……一つの可能性に到達するのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 数分後、ルシオは仰向けに倒れていた。

 

「あ、ありがとうござい、ました……」

「おう。どうだ、なにか見えたか?」

「はい。ボク……わかったような気がします」

「よし!! 掴んだならそれでいい。あとは修行あるのみだ」

「っはい!!」


 ルシオは立ち上がり、思い切り頭を下げた。

 サティ、イチカも近づき、ルシオの隣に並んで頭を下げる。


「「「ありがとうございました!!」」」

「おう。じゃあ、メシ食いに行くか」


 明日は摸擬戦……イチカ、ルシオはいい刺激になるだろうな。

 サティ。明日はイフリータと再戦……さてさて、どうなるかね。

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