脇役剣聖、強くなる弟子たちを見て微笑む

 さて、修行開始から二週間が経過した。

 サティ、イチカ、ルシオの三人……全員が強くなった。

 現在、サティとイチカは、ルシオに向き合っている。ルシオは木剣、サティとイチカは真剣だ。

 二対一での摸擬戦。普通なら、三人とも木剣を持たせて一対一が普通なのだが。


「ルシオ、攻めろ攻めろ。んで躱せ躱せ」

「は、はい!! うぉぉぉぉぉぉ!!」


 ルシオは木剣を手に向かっていく。

 魔力による身体強化をしての突撃。ルシオはまずイチカを狙い接近し、剣を横薙ぎに振るう。

 だが、一瞬でイチカはルシオの真横へ。そのまま真剣で居合を放つが……なんとルシオ、眼で剣を追ってギリギリ身体を逸らして回避した。

 そして、サティ。


「はぁ!!」

「ッ!!」


 サティの双剣による連撃を、ルシオは躱し、いなしていく。

 そして、サティに集中しすぎたのか、横から現れたイチカの容赦ない攻撃で木剣が吹き飛ばされ、サティの前蹴りを受け、ルシオは吹っ飛んで地面を転がった。

 

「う、げほげほっ……あいてて」

「「…………」」

「ほい。休憩だ。ルシオ、王都までダッシュで水を汲んできてくれ」

「は、はい!!」


 ルシオは身体強化をしてダッシュ……早いな。十五分もない内に戻ってくるぞ。

 俺は、ルシオの背を見送る二人に聞く。


「どうだった?」

「……正直、困惑しています」

「あたしも……ルシオくん、一日の成長速度があり得ないというか……」

「だろ? 俺も驚いた。才能があるとは思ってたけど、まさか身体強化を四日で習得するとは」


 魔力による身体強化。

 スキル持ちなら誰もが使える。だが、習得は容易じゃない。

 フルーレ、エミネムは元からある程度は使えた。サティは神スキルを覚醒させ、俺のツボ押しで能力を開花させてから使えるようになった。

 だが、三人ともまだ甘い。フルーレでさえ、全身をくまなく強化できるようになるまで一年、サティは半年かかった。団長曰くエミネムは一年半だ。

 イチカは言う。


「身体強化。スキル持ちの基本技術で、最も早く習得し、極めることは生涯ないと祖父は言ってましたが……拙者も、習得に二年かかりました。今でも、全力で全身強化をするのは、一分と持ちませぬ」

「あたしも、普段は師匠の教え通り、オンオフを切り替えながら使ってますけど……ルシオくん、さっきの戦いでずっと強化しっぱなしで、王都までダッシュで水汲みに行くのも強化しっぱなしですよね」

「ああ。才能……それと、特異体質によるモンだ」

「「特異体質?」」

「ああ」


 魔力は、体内で精製される。

 俺の眼で見た感じ、心臓付近で精製され、血管と同化している魔力の通り道を伝って、体外へ放出される。個人差はあるけど、スキルはこの魔力を変換して起こす奇跡だ。

 魔力ってのは、どこにでもある。

 空気中、海中、土中と、この世界至る所にある。

 

「ルシオは生まれつき、魔力を体内で精製するんじゃなくて、周囲から取り込んじまう体質なんだ。で、常に満腹状態で、足りない魔力は外から吸収し、過剰に接した魔力は外に放出される。つまり、あいつに魔力切れはない」

「……そ、そんなことあるんですか?」

「だから特異体質だよ。歴史を見ても、そんなにいなかったんじゃないか?」

「……師匠。つまりルシオは」

「ああ。あいつは最初から最後まで身体強化を使い続けられる。さらに……」


 俺は木剣を拾う。


「剣、弓の才能……驚きだぜ。あと三年もしたら、七大剣聖に名を連ねてもおかしくない。まさか、ロシエル以上の才能を持つやつがいるとはな」

「師匠、あたしとイチカで同時に相手をしてるのって、もしかして」

「そうだ。あいつは、経験を重ねれば重ねるほど強くなる。もしかしたら……七大魔将との戦いで戦力になるかもしれん」

「師匠!! サティさん、イチカさん!! お水お持ちしましたーっぶぁぁ!?」


 ルシオは、魔力全開のままダッシュで水を抱え……盛大にずっこけた。


「あああみ、水……も、申し訳ございません!! もう一度行ってきます!!」


 とんぼ返りで、ルシオは魔力全開ダッシュ。

 その様子を眺めつつ、サティに聞いた。


「なあ、サティ……ルシオのこと、どう思う?」

「え? すごいなーって思います!! 姉弟子として負けるわけにはいきません!!」

「そうじゃなくて、その……他には?」

「他? そうですねー……もう少し、ごはんいっぱい食べたらいいのになーって思います。いっぱい食べればもっと大きくなるし、強くなれます!!」


 うーん、恋愛的な意識はゼロだな。サティがお子様ってのもあるが。

 イチカ……まあ、こいつは恋愛とかしないだろ。


「イチカはどう思う?」

「ふむ。サティの言う通り、いくら身体強化をしても肉体が付いてこなければ意味がない。もっと食べ、もっと鍛えるといい、そう思います」

「ですよね!! よし、今日のごはん、ルシオくんはお肉大盛で!!」


 ダメだこりゃ……ルシオ、今日のご飯は大盛になったぜ。いっぱい食えよ。


 ◇◇◇◇◇◇


 さて、三週間が経過。

 あと一週間後には、それぞれの摸擬戦が待っている。

 俺、サティ、イチカ、ルシオの四人は、久しぶりに王都へ戻って来た。

 そして、四人で王城へ。


「あの師匠、修行はもういいんですか? その……神スキルを鍛えず、身体ばかり鍛えてたような」

「それでいいんだよ。ぶっちゃけ、神器に覚醒したお前は、スキルより体や技を鍛えた方が強くなれる。この三週間で、お前の剣技はかなり向上したぞ」

「はい……確かに、そうですね。新しい技もいくつか思いついちゃいました」

「それでいい。最終的な試験は、試合開始の前日にやる。それまでは休息だ」

「師匠……拙者は」

「お前は、まだまだ足りない。剣技こそサティより上だけど、それだけだ。一度不完全な臨解をしてるから、神器の覚醒には時間がかかる。今は、神スキルと剣技を両方鍛えていく」

「……了解しました」

「あの~……ボクは」

「お前も同じ。でも、お前は臨解を目覚めさせてないから、エミネムの時みたいに完全覚醒させることができる。だが今は、神スキルと武技を鍛えまくるぞ」

「わ、わかりました」


 そう言いながら歩いていると、エミネム、フルーレが前から来た。


「あら、久しぶりね」

「ラスティス様!! お、お久しぶりです……」

「おう。フルーレにエミネム。一緒に何してるんだ?」

「わぁ~、お久しぶりですっ!!」


 サティが俺を押しのけ前へ。フルーレが苦笑してサティの頭を撫で、質問にはエミネムが答えた。


「私は、お父様の執務室へ用事があって。フルーレさんとは、さっきそこで偶然会いました」

「そういうこと。と……その子たち、新しい弟子?」


 フルーレが視線を向けたのは、イチカとルシオ。

 イチカは一礼、ルシオはガチガチに緊張しながら深く頭を下げた。


「お初にお目にかかります。拙者、イチカ・クジョウと申す……ラスティス殿の弟子でございます」

「ははは、はじめましてっ!! るr、るしお、です!!」

 

 ルシオ、緊張しすぎだろ。

 フルーレは微笑み、イチカたちに言う。


「私は七大剣聖序列七位、『神氷』のフルーレよ。よろしくね」

「よろしくお願いします」

「は、ははい!! よろしくお願い、します!!」

「ふふ、あなた緊張しすぎ。あなたが噂の子?」

「え、噂?」

「兵士選抜試験で、神スキルに目覚めた子、って聞いたわ。期待しているわよ」

「~~~~っ!! はい!!」

 

 七大剣聖って憧れなんだっけ。俺のときも緊張してたな。

 するとサティがエミネムを見て気付いた。


「あれ? エミネムさん、なんか鎧の形、変わってません? いつもと少し違うような」

「え、ああ……実は騎士に復帰しました。以前は第一部隊の部隊長でしたが、今は父の副官です。肩書は『アルムート聖騎士団長補佐』です」

「団長補佐……つまり、騎士団で二番目に偉い?」

「いえ、偉くはないですね……」


 団長の補佐、か。

 まあ……神スキルを所持し、臨解、神器にも覚醒、七大魔将『滅龍』カジャクトの側近を一人倒してるほどの実力差だ。団長の娘ってのを差し引いても、実力的な意味でも間違いのない人選だ。

 

「その、ラスティス様……私、以前のように、ラスティス様に教えを受けることが、難しい立場になってしまって……」

「気にすんな。元々、お前は臨時の弟子みたいなもんだったし、臨解と神器に覚醒した今、俺ができることはあまりない。団長の傍でしっかり学べ……ああ、暇なときは来ていいぞ。しっかり鍛えてやる」

「……はい!! あ、あの……ヒマじゃなくても行っていいですか?」

「おう、もちろん」

「……っ!! はい!!」


 すげえ嬉しそうだ。うんうん、サティも嬉しいだろうし、イチカとも仲良くなれるかも。

 フルーレは言う。


「ところで、あなたたちはどこに行くの?」

「ああ、ランスロットのところへな。それとフルーレ、お前もラストワンもアナスタシアも、俺との戦いあるんだし、しっかり鍛えておけよ?」

「うるさいわね。それと……ブチ殺すつもりだから安心なさい」

「そりゃ楽しみ。じゃあな」


 初見でわかった。フルーレ……以前より遥かに強くなっている。

 ラストワン、アナスタシアも間違いなく強いだろうな。

 俺も、本気出さなきゃ負けるかもしれん。摸擬戦……今から楽しみだぜ。

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