脇役剣聖、『天翼』との交流

 『天翼』ラクタパクシャと、側近二名がハドの村に滞在することになって三日が経過。

 シャロはビンズイに懐き、二人で一緒に遊んでいる。

 ドバトは村の上空を旋回したり、何時間も木に止まったまま寝たりしていた。

 ビンズイが『セキレイ』とかいう鳥を飛ばし、嵐が比較的に弱いルートを探して飛んで帰るそうだが……ビンズイ、シャロとずっと遊んでるけど、大丈夫なのか。


「心配いらん。ビンズイは最大で六千羽の『セキレイ』を同時に放出できる。今は四千ほど、海上を飛び回り帰り道を探しているところかの」

「そうかい」


 俺は、屋敷の中庭でラクタパクシャと飲んでいた。

 椅子とテーブルを木陰に移動させ、そこで飲んでいる。

 今日は穏やかな天気。サティとエミネムが模擬戦をしており、それを監督している。

 

「あの二人は、なかなか才能に溢れておる。あと五年もすれば、ドバトたちを越えるやもしれんな」

「そうか……まぁ、才能はあるな」

「ふ、複雑か?」


 ニヤリと笑うラクタパクシャ。俺は首を振った。


「別に。強くなるなら、教えている俺より強くなって欲しい気持ちはあるさ」

「そうか……」


 ラクタパクシャはチーズを食べながら、ブランデーを飲む。

 こいつもすっかりブランデーにハマったな。

 ギルガたちと飲み会を開いて、多少は打ち解けた。

 俺は、ラクタパクシャに聞く。


「……そういや、七大魔将って七人揃ってるのか?」

「いや、今は六人じゃ。ルプスレクスの後釜はいない……そもそも、七大魔将と呼ばれる者たちは、上級魔族の中でもさらに特殊な『力』を持つ。おぬしは知っているだろう?」

「……『完全獣化オーバービースト』だろ」

「うむ」


 俺は、かつてルプスレクスと戦った。

 全長三十メートルを超える巨大な狼。だが、最初に俺が対峙したのは、今こうして俺と酒を飲んでいるラクタパクシャと同じ、『人間』だった。


「魔族は、ヒトの身体に『魔獣』などの血が混じった種族だ。莫大な魔力を持ち、異形の姿をして、その膨大な魔力で『理想領域ユートピア』を展開できる……そして、七大魔将と呼ばれる者たちは皆、自らの内に眠る『魔獣』の血を完全開放できるモノたちをことを指す」

「魔獣の血……」

「言っておくが、その辺にたむろしているような雑魚魔獣ではないぞ」

「わかってるよ」

「わらわの中にいる魔獣は、『フェニックス』……燃え上がる不死鳥じゃ」

「へえ、じゃあお前は不死身なのか?」

「不死性は失われておる。死ににくい、老いにくい身体と、炎を操ることができる」


 ラクタパクシャは指先に炎を灯し、チーズを軽く炙った。


「七大魔将。えーと……名前は」

「『冥狼ルプスレクス』、『天翼ラクタパクシャ』、『海蛸ポセイドン』、『破虎ビャッコ』、『地蛇ミドガルズオルム』、『緑鹿シンクレティコ』……そして、七大魔将最強『滅龍カジャクト』ね。まあ、カジャクトは今の最強。昔、ルプスレクスに挑んで返り討ちにあったわね」

「……どいつもヤバそうだな」

「ヤバいのはビャッコくらいね。あいつ、ルプスレクスに与えられていた領地を占領して、自分の領地にしてる……」

「マジか? ……おい、お前自分の領地を開けてここにいるんじゃ」

「大丈夫。魔王様にお願いしてきたから。いくらビャッコでも、魔王様には逆らえない」

「……魔王」

「悪いけど、魔王様のことは教えない」


 そりゃ残念……まあ、いいけどな。

 俺はブランデーを飲み、ラクタパクシャが炙ったチーズを齧る。


「……ここは、いいところだな」

「それ、何度目だよ」

「ふ……ああラス、この酒、土産にくれぬか?」

「そう言うと思って、山ほど準備してる」

「おお、それはありがたいな」


 ラクタパクシャが笑い、俺も笑った。

 そして、エミネムの槍がサティの双剣を弾き飛ばし、サティが負けた。


「あぅぅ……負けました」

「ふぅ……サティ、双剣の使い方がかなり上達しましたね。正直、捌けないかと」

「あ、ありがとうございます」


 俺は立ち上がり、サティの元へ。


「お疲れさん。二人とも、今日の修行は終わりだ。風呂入ってメシ食うぞ」

「「はい!!」」

「風呂か……どれ、わらわも付き合うかの」


 ちなみに……ラクタパクシャは羞恥心がないのか、「風呂か、いいな」と言って俺が入ってる男湯に素っ裸で入って来た。サティが慌てて引き戻したから混浴とはならなかったが……まあ、いいモン見せてもらいましたわ。


 あ、ちなみにアナスタシアは、鉱山調査の結果を持って一旦帰った。

 ラクタパクシャたちを連れ帰ることになって、鉱山調査ができなかった。でも、ビンズイがセキレイを大量に飛ばし、一時間足らずで調査を終えたのだ。セキレイは手で包めるほどの大きさなのに、自分の数倍以上ある石を掴んで飛んでくるし、嘴で硬い岩盤をガリガリ削るし、調査にはもってこいの能力だ。


「師匠、何ニヤニヤしてるんです?」

「え、ああいや……なんでもない。さ、風呂だ風呂」

「はい!! あ、師匠……師匠のお風呂長いから、なるべく早くしてくださいね。ご飯の時間、遅くなっちゃいますから!!」

「わ、わかったよ」


 女の子に「風呂の時間長い!!」なんて初めて言われたわ……気を付けよう。


 ◇◇◇◇◇◇


 さて、さっそく風呂へ……と、思ったら。


「なんだよ、お前ら」

「風呂だ」

「そ、風呂だよラス」


 ギルガ、ホッジが付いてきた。

 正直、メチャクチャ嫌だ。風呂は一人で楽しみたい……というか、ここは俺の風呂!!


「悪いけど、お前らは公衆浴場……って、おい!!」


 ギルガとホッジは脱衣所で、すでに服を脱いでいた。

 この野郎ども。俺より先に入るなんて絶対に許さん!! 

 俺は急いで服を脱ぎ、ギルガとホッジを押しのけ浴場へ。


「はっ、一番湯は譲らねぇぞ。お前らであってもな!!」

「……子供かお前は」

「まぁ、そこまで一番にこだわらないけどね……」


 なんか俺がアホみたいじゃねぇか。

 ギルガたちはかけ湯をして、湯船へ。

 さすが俺の風呂。男三人並んで入ってもかなり余裕がある……でもでも、おっさん三人で和気あいあいと風呂に入るなんて気持ち悪い。


「ラス。話がある」

「……やっぱりな。で、何だ?」

「七大魔将のことだ。あれは、いつまで滞在する」

「帰りのルートが見つかるまでだ。何だよ……早く帰れってのか?」

「逆だ。シャロが随分と懐いている。その……もう少し、滞在を伸ばせないか?」

「…………ぶはっ!! ぶはははは!! お、お前、それ言うためにわざわざこっち来たのか!?」

「……シャロに泣かれた。仕方あるまい」

「ぶはははは!! おいホッジ、マジで面白いぞ!! あのギルガが」

「あー……あんまり笑うと気の毒だよ」

「ぶふふっ……あ、ああ。そうだな。俺からラクタパクシャに聞いてみるよ」

「……む」


 あー……笑ったわ。久しぶりに面白いネタだった。

 ホッジを見ると、少し嬉しそうにしていた。


「で、ホッジ。お前の方は? なんか嬉しそうだけど」

「……その、ラスとギルガにはボクから直接伝えようって決めていたんだ」

「む、なんだ?」

「あれ、ギルガも知らねぇのか?」


 ホッジは頬を掻き、俺とギルガを交互に見て言う。


「その……フローネに、子供ができたみたいなんだ」

「「え」」

「食の好みが変わって、体調が悪い日が続いてね。医者に見せたら、その……身ごもってた」

「ま、マジか!!」

「おお……」

「ギルガ。これでボクも父親だ。いろいろ教えてくれよ」

「……ふ。任せておけ」

「おいおい、祝杯上げようぜ!! 待ってろ待ってろ!! 冷蔵庫に酒あるんだよ!!」


 俺は脱衣所冷蔵庫から、小瓶に入れたエールを取り二人に渡す。


「じゃ、ホッジとフローネ、二人の子供に!!」

「「乾杯!!」」


 瓶を合わせ、一気に飲む。


「うっま!! ははっ、めでたいとさらに美味いな!!」

「ああ。本当に美味い」

「本当に……うん、二人とも、ありがとう」

「……ホッジ。ミレイユには伝えないのか?」

「あー、実はその、ミレイユはすでに知ってる。というか、フローネが調子の悪い時に、たまたまミレイユが差し入れを届けてくれてね。すぐに『妊娠かも』って言ったんだ」

「なーるほどな。ま、あいつも経験者だしなあ」

「で、二人にはボクから伝えるから黙ってて、ってお願いしたんだ」

「なるほどな……」

「ミレイユも、すごく喜んでいた。ふふ、仲間に祝ってもらえるのは嬉しいよ」


 ホッジ、本当に嬉しそうだ……って、待て待て。


「おいホッジ。フローネは身重なんだろ? 領地開拓の仕事なんてやってる場合じゃねぇだろうが」

「当然、ボクも言ったよ。でも『大仕事なのにやるなとか、そっちのが拷問』とか言い出してね」

「……ふ。フローネはそう言うだろうな」


 あいつ、仕事馬鹿だからな……ったく。


「ま、無理しなきゃやってもいいのか? でも、少しでも疲れを感じたり、出産時期が近づいて来たら、ベッドに縛りつけてでも仕事やめさせろよ。その頃はもう『子供を産むのが仕事』になるからな」

「わかってる。ふぅ……やっと言えた」


 いい話を聞けて、俺は「こいつら浴場に入れてよかった」と思うのだった。

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