脇役剣聖、みんなで村に
「お、来たか」
ラクタパクシャ、ビンズイと一緒に適当な平原地帯に向かい、サティたちと合流した。
驚いたのは、上級魔族と楽し気に話しているサティ。相手もすっごい笑顔で「フハハハハハ!!」なんて笑ってるし……やっぱり、魔族っていいヤツもいるんだな。
そして、アナスタシア。
「……!! ら、ラス。そちらの方、は……?」
アナスタシアは大汗を流し、青ざめながらラクタパクシャを見ていた。
そりゃそうだ。エミネムやサティは何も感じていないが、アナスタシアは感じている……ラクタパクシャの『強大さ』を。今は戦意や敵意を持っていないが、内に秘めた力は誤魔化せない。
ラクタパクシャは少し感心していた。
「おぬし、なかなかやるな。ドバト、ビンズイと互角といったところか」
「えぇ~? ラクタパクシャ様、こんなデカチチよりあちしの方が強いですぅ~」
「ふむ。デカチチか……このおなごよりも大きな乳を持つわらわは、お前の言うところのデカチチなのかのぉ?」
「え、あ、いや、それは……えへ♪」
ビンズイは頭を拳骨でグリグリされていた。
もうだめだ。こんなの見せられたら、マジで敵とは思えない。
「さて……わらわたちの用は済んだ。ドバト、ビンズイ、空の様子は?」
「えーっと……さっき『セキレイ』を飛ばして確認したんですけど、来る時とは比較にならないくらい嵐が吹き荒れていまして。その……ラクタパクシャ様はともかく、あちしやドバトじゃ飛べないと思いますぅ」
「チョウワッ!! ビンズイ、聞き捨てならん!! 我が飛べぬ空などない!!」
「わかった。では、嵐が静まるまでしばらくここにいるか」
そう言い、ラクタパクシャは俺に言う。
「ラス。お別れだ……次に会う時は」
「待て待て。ちゃんと説明しろ。飛べないのか?」
「む。まぁ、そうだ。確かにわらわたちは海を越えて来た。が……人間界と魔界を繋ぐ空は常に嵐が吹き荒れておる。ここまで来れたのは、嵐が弱いルートを、ビンズイの『セキレイ』が探知し、そこを潜り抜けて来れたからだ」
「そうだったのか……じゃあ、今は帰れないのか」
「うむ。ビンズイ、予測でいい……帰り道はどれほどで見つかる?」
「空は広いですから。あちしの『セキレイ』でも、十日ほど……」
ビンズイの手には、小さな鳥がいた。
サティが「かわいい~」と呟き、アナスタシアもチラチラ見ている。
「なら、ウチ来るか?」
俺は迷わず言った。
なんというか、もうこいつら放っておけん。
「うち? お前の家か?」
「ああ。客間あるし、メシも酒も用意する。それに……お前といろいろ話したいしな」
「……ふむ」
ラクタパクシャは少し考え、頷いた。
「わかった。おぬしの世話になろう。ドバト、ビンズイ、人間とは絶対に争うなよ。これは命令だ」
「チョウワッ!!」
「はい!!」
こうして、ハドの村にしばらく、ラクタパクシャたちが滞在することになった。
「ちょっと待った。ラス……鉱山調査は?」
「あ」
◇◇◇◇◇◇
ハドの村に戻って来たら、やっぱり……うん。
「ちょ、ラス!? おま、そいつら何だ!?」
「まあそういう反応だよな。大丈夫大丈夫、お客さんだ。おいルアド、ギルガいるか?」
「あ、ああ。フローネたちといろいろ話してるが……」
「まあ驚くよな……」
ラクタパクシャは普通の人間に見えるけど、ドバトとか普通に鳥人間だし、ビンズイは翼生えてるし。
でも、来ちまったのは仕方ない。
さっそく村に入ると。
「うぉぉ!?」「ひっ……ま、魔族!?」
「お、おいラス、お前!!」「きゃああっ!!」
まぁ、驚かれた。
そのたびに、「大丈夫大丈夫」と宥め、ようやく領主邸に到着。
「……ここがお前の家か?」
「ああ。立派なモンだろ?」
「ケッ……ラクタパクシャ様の居城に比べたら、犬小屋だな」
「チョウワッ!! 狭いぞ!!」
「正直な意見どうも。ほれ、入るぞ」
屋敷に入り、一階に新設した会議室へ向かう。
部屋にはギルガ、フローネ、ホッジ、ミレイユ、そしてギルガとミレイユの娘シャロがいた。
「ああ、戻ったか。ラ……」
ギルガ、硬直。
だが半秒と立たず、四人は戦闘態勢を取る。
ギルガは義手に仕込んだナイフを展開、フローネは投げナイフを両手に構え、ホッジは両手の五指をゴキゴキ鳴らし、フローネはシャロを抱っこし右手に魔力を集めた。
こいつら、騎士を引退して結構経つのに、戦闘態勢への切り換えが現役以上だな。
「おい落ち着けって!! こいつらは敵じゃない!! 客だ、客!!」
「……お前、何をやってるかわかっているのか」
「わかってるよ。でも、俺はこいつらを敵とは思えないし、戦いたくない。それに、こいつらにも敵意はないんだ」
四人をそれぞれ顔を見合わせ、戦闘態勢を解除。
ビンズイは言う。
「魔族って嫌われてるんですね。あちし、別に人間のこと好きでも嫌いでもないけど、ここまで嫌悪されるとはなー」
ビンズイは右手に小さな鳥を何羽か生み出し、その場でホバリングさせる。
すると、シャロが目を輝かせ、フローネから飛び降りた。
「わぁ~!! 鳥さん、かわいいっ!!」
「ぬおっ!? か、かわいい?」
「シャロ!! 待ちなさい!!」
シャロはビンズイの元へ。そして、ホバリングする鳥を見て目を輝かせた。
「か、かわいい……って、この子たち?」
「うん!! おねえちゃん、鳥さん使いなの?」
「え、ええまあ。お、おねえちゃん……」
「さわっていい?」
「……どうぞ」
ビンズイは指を鳴らすと、たくさんの小鳥が魔力で作られ、シャロの肩や頭に止まったり、周囲をくるくる飛んだり、シャロの手に乗る。
シャロは鳥の頭を指で撫でてご満悦だ。
「かわいい~」
「い、いいな……あの、ビンズイさん、あたしも」
「イヤですー」
「えぇ~……」
サティががっくり肩を落とす。
ビンズイも、どこか満更でもなさそうで、俺はギルガたちに言う。
「シャロは認めてくれたけど、お前らはどうだ?」
「「「「…………」」」」
四人はようやく肩の力を抜き、ギルガが言う。
「全て、説明しろ……そこからだ」
「ああ、もちろん」
俺は、ラクタパクシャたちとの出会いを説明する。
ミレイユは、小鳥に囲まれながらドバトの足下をくるくる回るシャロが気になってしょうがないようだ。
「おっきな鳥さん、かっこいい!!」
「チョウワッ!! お前も見る目があるな!! 名はなんという!!」
「シャロだよ、おっきな鳥さん」
「シャロか!! フハハハハハ!! 小さき者よ、空を飛んだことはあるか?」
「ないよ。シャロ、にんげんだもん」
「フハハハハハ!! そう、人間は翼がない!! よし、後ほど空の素晴らしさを味わわせてやろう!!」
「ほんと!! ありがとー、かっこいい鳥さん!!」
「チョウワッ!! かっこいい……フハハハハハ!! かっこいい、気に入ったぞ!!」
盛り上がってるしほっとけばいいか。空の素晴らしさって……まさか、シャロを連れて飛ぶつもりかな。
事情を説明し終えると、ギルガは頭を押さえた。
「七大魔将だと……? こんなことが王都に知れたら、どうなる」
「団長に知られたらマズイな。とりあえず、十日後くらいには帰るから、それまでは客として扱ってくれ。こいつらが飲み食いした分は、俺が払う」
「……お前というヤツは」
お、出た出た。ギルガの口癖。
すると、ラクタパクシャが言う。
「そうか。対価が必要か……ふむ」
すると、ラクタパクシャが片方だけ翼を広げた。
いきなり現れた美しい真紅の翼に全員が驚いていると、ラクタパクシャは翼の羽を一枚抜く。
「これをやる。持つだけで、人間界に存在する炎は全て無効化できるだろう」
「おま、またとんでもないモンを……」
「対価は十分だろう。世話になるぞ」
「わかった。サティ、部屋に案内してやってくれ」
「はーい。ラクタパクシャさん、ビンズイさん、ドバトさん、お部屋に案内しますね」
「チョウワッ!! 我は外がいい!! 止まり木はあるか!!」
「たぶんないです……その辺の木の上にでも」
ラクタパクシャたちが部屋から出た。
途端に、大きなため息が出るギルガたち。
ホッジが疲れたように言う。
「……ラス。きみといると本当に退屈しないね」
「誉め言葉として受け取っておく」
とりあえず、ラクタパクシャと飲む酒をいっぱい用意しておくか。
こいつら巻き込んで飲み会すれば、いつも通り仲良しになれるだろうしな。
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