閑話②/上級魔族『灰翅』ドバト
『
それは、上級魔族のみ使うことが可能な、『自分にとって都合のいい世界』だ。
魔力によって空間を作り、特異な能力を付与。莫大な魔力が必要となるため、下級~中級魔族にはまず展開できない。
展開された時点で、人間には勝ち目がない……と、言われている。
現在、アナスタシア、サティ、エミネムの三人は、上級魔族『灰翅』ドバトの展開した領域に飲まれつつあった。
周囲の景色が歪み、ドバトの領域へと変化していく。
「サティ、エミネム!! 気を引き締めなさい、一瞬の油断が命取りになるわ!!」
「「は、はい!!」」
優しいお姉さんではなく、七大剣聖序列五位『神音』のアナスタシアとしての命令。その芯の強さに二人は圧倒された。
そして──空間が形成された。
「「「──え?」」」
そこは、
周囲に白い雲、遥か下方には大地が見える。
見紛うことなく、アナスタシアたちは上空にいた。
そして───翼を持たない彼女たちを待つ運命は、一つだけ。
「「「──ッ!!」」」
落下。
上空数千メートルからの落下だ。
風を切る音、空気の圧、何もかもが上空からの落下だった。
「うっひゃぁぁぁぁぁ──ッ!!」
サティが両手をバタバタさせ、きりもみ回転しながら落下していく。
すると、アナスタシアに迫る巨大な鳥──ドバト。
「チョウワッ!! どうだ、翼持たぬ者たち!! この『
「無茶を……!!」
アナスタシアは蛇腹剣を抜き、ドバトに向けて振る……すると、鞭のように伸びてドバトの足に絡まった。
「ぬっ!?」
「『
ドンドンドンドン!! と、強烈な振動が四連続でドバトの身体を駆ける。
「グッハ!? ちょこざいな技を!! シビれたではないか!! では……礼をくれてやる!!」
「!!」
ドバトは足に剣を絡めたまま、アナスタシアを連れて上空へ急上昇。
その様子を見ていたエミネムは、呼吸を整え、落ち着きを取り戻していた。
「『
エミネムは、空気を固定して足場を作る。
固定の段階で密度をあえて緩め、クッションのような柔らかさでサティと自分を受け止め、床板のように完全に固める。
「あ、あれ……? た、立てる?」
「サティ、無事?」
「え、エミネムさん? これ、エミネムさんが?」
「ええ。空気の密度を高めて足場を作ったの。理論上、空気の密度を高めれば鋼鉄より強くなるわ」
「す、すごい……あ!! アナスタシア様は!!」
「───……あそこ!!」
二人は見た。
アナスタシアが、蛇腹剣をドバトに巻き付け、とんでもない速度でビュンビュン飛んでいるのを。
人間に耐えられる速度ではない。が……アナスタシアは自身の周囲を振動させ、衝撃を中和していた。そのことに気付かないドバトは、アナスタシアが参るまで飛ぶようだ。
「エミネムさん、あそこまで行けますか!?」
「はい!! 飛ばします!!」
エミネムが剣を抜き、空気の地面に突き刺すと、一気に上昇する。
すると、ドバトが気付いた。
「ムムムッ、空を手に入れたか!! フハハハハハ面白い!!」
「ッ!!」
「お前はもういい!!」
ドバトは足を器用に動かし、蛇腹剣を外した。
アナスタシアが落下。エミネムが風を操作して受け止め、足場へ誘導する。
「ありがとう」
「いえ、このまま奴を追います。サティ、アナスタシア様、攻撃を!!」
頼りになる。アナスタシアは素直にそう思った。
やはり、ラスティスとの修行が活きている。
サティは双剣を抜き、紫電を纏わせた。
「『
雷の光線が放たれるが、高速で飛ぶドバトには当たらない。
むしろ、雷を躱し喜んでいた。
「雷!! フハハハハハ!! 空を統べる我らの天敵!! 面白い、面白いぞ!!」
「いちいちテンション高いんです!!」
サティは光線を連射するが、ドバトは絶妙なタイミングで回避。
「どうしたどうした!! フハハハハハ!!」
「ぐぬぬ……!!」
「サティ、直線的な攻撃はダメ。見てて」
アナスタシアは蛇腹剣をクルクル回し、巨大な円を作る。
そして、柄を手でなぞると。
「『
「ぬぅ!?」
空間が丸ごと『振動』し、ドバトの動きが止まる。
広範囲を振動させ、ドバトを狙うのではなく、ドバトが存在する空間を攻撃した。
ドバトは目を回したのか、きりもみ回転しながら落ちていく。
「やったぁ!!」
「……これで終わるといいんだけど」
「そうはいかないんですよね……」
すると、ドバトは目を見開き、一気に急上昇。
翼を広げ、指をビシッと突き付けた。
「やるではないか!! チョウワッ!! クハハハハハッ!! 楽しい、楽しいぞ!! 我も本気を出して相手をしようではないか!!」
「え、本気じゃなかったんですか!?」
「当然!! さぁ、戦いを楽しもうぞ!!」
翼を広げ、ドバトは不敵に微笑む。
サティ、アナスタシアは剣を構える。
「エミネム。あなたは足場の維持を。どうやら、ここからが本番……サティ、あなたは私と攻撃よ」
「「はい!!」」
「フハハハハハ!! チョウワッ!! では行くぞ!!」
と、ドバトが本気を出そうとした時だった。
『そこまで』
領域内に、女性の声が響いた。
「え!? ああ、主!! 主、一体どこで何を!!」
『大馬鹿者。おぬしが迷子になっていたんだろうが』
「え!! そ、それは」
『とにかく。戦いはもう終わり。領域を解除し、わらわの元へ来い。それと、おなごたち……ラスティス・ギルハドレッドが待っているぞ』
「「「え……」」」
「むぅ……仕方なし。解除!!」
ドバトが叫ぶと、領域が解除された。
上空ではなく地面の上に立つ三人、そして傍にはドバトがいた。
「よくわからんが……戦いは終わりだな。はぁあ……我の本気を」
「「「…………」」」
サティはアナスタシアにボソボソ言う。
「あの、アナスタシア様……この人もしかしたら、あんまり悪い人じゃない?」
「人、ではないが……うーん」
「なんだか、すごいがっかりしてますね」
「よーし、あたし、ちょっと話してみます」
サティは、落ち込むドバトに言う。
「あの~……ドバトさん」
「なんだ」
「あなた、すっごく強かったです!! あのまま戦ってたら、あたしたち負けてたかも……」
「む、そうか? 我は強いか?」
「はい、とっても!!」
「フハハハハハ!! お前は見る目がある!!」
「あっはっは。それはどうも」
「気に入った。お前の名は!!」
「サティです!!」
「サティか。覚えておこう。では、主の元へ行くぞ!! 付いて参れ!!」
ドバトは飛ぶことなく、ズンズンと歩き出した。
サティは言う。
「確信しました。あの人、まっすぐ単純なだけで、いい人です!!」
「「…………」」
「とりあえず、付いて行けば大丈夫な気がします!!」
サティはドバトの元へ向かい、なんと隣に並んだ。
何やら笑顔で会話をしている。
「……サティ、すごいですね」
「……あれも才能なのか」
エミネム、アナスタシアは顔を見合わせ苦笑。サティの後を追うのだった。
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