脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。

さとう

第一章

プロローグ

「おーいラス、ちょっと来てくれー」

「おーう」


 ある日、柔らかな芝生の上で寝転んでいると、遠くから俺を呼ぶ声がした。

 軽く手を上げて適当に返事をし、ようやく起き上がる……ああ、俺を呼んだのはホーキンスの爺さんだ。御年八十歳のくせに、畑仕事で未だに筋骨隆々な爺さんである。

 ホーキンス爺さん、ちょっと来てくれーとか言ったくせに、俺のところに来た。


「ラス、呼んだらさっさと起き上がらんか! まったく、最近の若いモンは……」

「おい爺さん、俺もう三十だぜ? おっさんよ、おっさん」

「ばかたれ。ワシからしたら、この村全員が若いモンじゃ」

「確かに」


 ようやく起き上がり、背中や足に付いた草を払う。


「で、何か用事?」

「おう。バジル婆さん家の畑の柵が壊されてた。たぶん魔獣の仕業じゃな……」

「あー、つまり……退治しろってことか」

「他に何がある? 頼むぞ、領主様よ」

「へいへい……ま、領主って言っても名ばかりだけどなぁ」


 そう、俺は領主。

 この、広大とも狭いとも言えない、栄えているわけでもない、何か特産品があるわけでもなければ、面白い物があるわけでもない……そんな、なんとも言えない領地、ギルハドレッド領地の領主。

 

「なーにが名ばかりじゃ。七大剣聖『神眼』のラスティス・ギルハドレッド男爵様よ。その力でワシら領民を守っておくれ」

「へいへい。領主様をアゴで使う領民ってのも、なんだかなぁ」

「かっかっか。その代わり、今日はウチで一杯やろうぞ。ついさっき、ウチの畑に侵入してきた大猪を仕留めたんじゃ。今、若いモン総出で解体しておる」


 ホーキンス爺さん……よく見ると、血の付いた鍬を担いでいた。ああ、その鍬で大猪の頭をカチ割ったってわけかい。

 で、村の若いモンが総出で解体して、手が足りないから俺にバジル婆ちゃんの畑を荒らす魔獣を退治しろってことな。

 

「じゃ、軽く運動しますかねぇ」


 俺は背伸びをして、歩き出す。


「おーい領主様よ、大事なモン忘れとるぞ」

「あ」


 そして、俺は近くに木に立てかけたままの愛剣を、慌てて取るのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 ギルハドレッド領地。

 さっきも言ったけど、なんにもない、広くもなければ狭くもない、特産品もないし、面白いモンがあるわけでもない、普通の領地だ。

 ちょっと昔、でっかい戦争があって功績を上げ、俺は男爵となりこの領地を貰った。まぁ……七大剣聖なんても呼ばれている。


 世界最大の国、アルムート王国。

 アルムート王国が誇る最強の騎士、それが七大剣聖。

 ま、俺は『神眼』のラスティスなんて呼ばれてる。たまたま『スキル』なんて能力を持ってたから、そのまま剣士になり、そこそこ強くなり、戦争で功績を上げちまったから領地や爵位を得て、こうしてのんびりスローライフを満喫してるってわけだ。


「ふあぁぁ~~~……あぁぁ」


 俺は欠伸をしてバジル婆ちゃんの畑へ。

 畑には、婆ちゃんが俺を待っていたかのように手招きしている。


「ラス、ラス!! まったく遅いよラス。ほれほれ、見てようちの畑の柵!! 蹴っぽられたみたいに壊れちまってるだろ? しかも端正込めて作った野菜までひっこ抜かれちまって……ああもう、許せないっての!!」

「わ、わかった。おちつけ婆ちゃん。どれどれ」


 畑には足跡があった。小さい足跡がいくつかと、そこそこ大きいのが一つ。

 足跡をたどると、森に続いていた。


「あー……こりゃゴブリンだな。でっかいのはホブゴブリン。たまーに人里に来るんだよなぁ」

「なんとかしておくれよ!! アンタがなんとかしないなら、アタシが森まで行ってゴブリンの頭をフライパンで叩いてやろうかね!!」

「待て待て。俺が行くからさ、待っててくれよ」

「本当かい? 大丈夫なのかい?」

「ああ。すぐに終わるよ」


 俺は婆ちゃんに微笑みかけ、森の中へ。

 俺の領地、人口が少ないせいか未開発の地域が多く、森がけっこうある。

 しかも、魔獣も住みついてるし、まぁそこそこ危険なのだ。

 足跡を辿って数十分歩くと……お、いた。


『グルルルル……』『ギャゥゥ!』『ブフフ』

「ゴブリン三体、そしてホブゴブリンか」


 集まり、野菜をガツガツ食べている三体のゴブリン。そして、その奥で野生のウサギを殺し生のまま食っているのはホブゴブリンだ。

 俺の姿を見るなり、ゴブリンたちは棍棒を手にする。


「あー……まぁ、このままでもいいけど、鈍ってるし使うかぁ」


 剣を抜き、目を閉じる。


「『開眼』」


 俺のスキル、『神眼』……これを使うと、『流れ』が見えるようになる。

 

『ギャァァァァァァァァァァァウ!!』


 見えるなぁ……ゴブリンの動き。力の流れ、力の大きさが。

 力の流れを見ると、どう動くのかがよくわかる。

 その流れを見て、俺は動きを予測して先に動く。


「ほいっ」

『!?』『!?』『!?』


 ゴブリン三体の同時攻撃を躱す。二撃、三撃と繰り広げられる攻撃を躱し続ける。

 

『グォルルルル!!』

「お、ホブか」


 ホブも加わり、連続攻撃が繰り広げられる……が、見えている。

 俺は、ゴブリンの棍棒に軽く剣を当てて力の流れを変える。ゴブリンの攻撃力プラス、力の流れを変えたことで生じる力がプラスされ、流れを変えられた棍棒は別のゴブリンの頭部を粉砕した。

 さらに、ホブゴブリンの振り下ろしを躱す。力の流れは真下に向いていたので、剣を当てて流れを強引に真横へ変えると、ホブゴブリンはその場で勢いよく回転し、残った二匹のゴブリンを粉砕した。


『ゴ、ゴ……?』

「悪いな。おしまいだ」


 そして、俺は自分の力の流れを感じる。

 剣を鞘に納め、剣を抜く力、両足で踏ん張る力を意識して抜刀……ホブゴブリンの身体を真横に両断した。


「ほい、おしまい」


 納刀し、ため息を吐く。

 ま、こんなもんだ。魔獣は現れるけど、強いのはそんなに出ないし、俺じゃなくても村人で対処できる場合も多い。


「さーて、帰ってホーキンス爺さん家で焼肉かね」


 これが俺、七大剣聖の一人、『神眼』のラスティス・ギルハドレッドだ。

 まぁ、のんびりゆったりと生活できれば、それでいい感じだね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る