脇役剣聖、鍛える

 翌日。

 俺は弟子三人をアルムート王国郊外の平原へ連れてきた。

 サティは双剣、イチカは刀、ルシオは剣と弓を手にしている。

 近くの木陰には馬車と荷物。馬はスヤスヤ眠っており、けっこう羨ましい。

 俺は落ちていた棒を拾い、教鞭のように振った。


「さて、これより修行を開始する。まずは準備運動だ」

「はい!! 身体をほぐして~……う~ん」


 サティは背伸びし、胸を逸らす。

 ルシオが目を逸らす……わかるぞ、サティの胸デカいもんな。胸逸らすと強調されてデカく見える……ってかこいつ、また胸デカくなったな。成長期か?

 と、そんなことはさておき。


「身体をほぐしたら、サティとイチカは俺と実戦訓練、ルシオは体力向上のためにマラソンだ」

「はい!!」

「わかりました!!」

「マラソン……」


 ルシオは、少しだけため息を吐いた。

 俺は追加で説明をする。


「ルシオ。まずお前は絶対的に体力が足りない。最低でも、俺の『秘孔』を受け入れられるくらい身体を作らないとな。まずは一週間……お前には特別メニューを与える。走って走って、食って食って、筋トレしまくるからな」

「う……は、はい!!」

「じゃあ、まずは……正門までダッシュ、そして戻って来い」

「え」


 ちなみに、この平原からアルムート王国正門までは二十キロくらいある。

 

「休みつつ、水分補給しつつ、ダッシュで行け」

「だ、ダッシュで?」

「ああ。ダッシュだけだ。歩くのも、マラソンするのもダメ。とにかく全力疾走だけで進め。それ以外で進むのはダメだ……まあ、お前は真面目だから心配してないけど、ここから正門まで二十キロ、俺の『眼』なら見えてるからな」

「は、はい!!」

「あと、装備はフル装備で。馬車に鎧兜一式あるから、それ付けて行け。じゃあスタート」

「ッ!!」


 ルシオは馬車まで全力疾走、そして鎧兜を着こみ、アルムート王国正門に向けてダッシュした。

 ざっと二百メートルほど走っては止まり、息を整え……再びダッシュ。

 あれで進めば、休み休み進んで夕方くらいには戻ってくるだろ。

 

「さて、お前たちだが……全力で来い」

「「え」」

「サティ、臨解はさすがにまずいからダメだが、神器は使っていいぞ。イチカも『殺し』の技を使え」

「し、しかし師匠……」

「わかりました!!」


 サティの全身が紫電に包まれ、頭部、右手首、左手首、左足首、右足首に勾玉のリング、そして紫電に輝く胸当てが装備、両手に雷の剣を持った。

 驚くイチカ。サティは双剣を構えて言う。


「雷神器『八極天満武神雷帝はっきょくてんまんぶしんらいてい』!! 師匠、全力で行きます!!」

「ま、待てサティ!! そんな、師匠を殺すつもりか!?」

「イチカ、それ違うよ」

「……何?」

「あたしたちの師匠が、全力を出した程度のあたしに負けるわけないよ。ってか、そう考えること自体、師匠に対して失礼だよ」

「…………」

「師匠は全力で来いって言った。なら、全力で行かないと」

「そういうこった。イチカ……」


 俺は『開眼』し、赤い輝きの瞳を見せつけ、ニヤリと笑った。


「来な。俺の心配できないくらい、叩きのめしてやるよ」

「……わかりました。参ります」


 イチカは腰を落とし、居合の構えを取る。

 神スキルを使うつもりだな。

 

「さて、来な……相手してやるよ」


 ◇◇◇◇◇◇


「「『鳴雷なるいかずち』、『伏雷ふしいかずち』!!」

「『微塵斬みじんぎり』!!」


 へえ、これはすごい。

 俺の眼だからこそ見える。

 サティは下半身を雷にして、そのエネルギーを推進力にして向かって来る。

 イチカの神スキル『神刀』……不可視の斬撃を飛ばす能力か。刀を振ることで無数の斬撃を合わせ、回避不能の一撃として飛ばしてくる……当たれば細切れだな。

 でもまあ、問題ない。


「『閃牙・あららぎ』」

「あがっ!?」


 まず、サティを連続峰打ちで吹っ飛ばす。

 そして、不可視の斬撃は。


「『飛燕・かすみ』」

「なっ」


 不可視の斬撃に合わせ、飛燕を飛ばして相殺した。

 自分で飛ばした斬撃は見えるのか、いきなり消えたように見えるのか。

 俺は一瞬でイチカの懐に潜り込んだ。


「呆けてる暇あるか?」

「ッ!!」

「『閃牙』」


 一瞬の抜刀でイチカを吹き飛ばした。

 始まってから二十秒ほど。サティもイチカも完全に気を失っていた。


「……ぅ」

「……っぐ」

「起きたか。ほれ、立て」


 三分ほど、二人は意識を飛ばしていた。

 俺は二人が立つと同時に剣を向ける。


「わかったか? これからはこのレベルで相手してやる。俺を敵だと思え……何度でもぶっ飛ばしてやるから、覚悟しろ」

「「…………」」

「こうして言うのもこれが最後。これからは気絶しても声を掛けない。起き上がったら再開とする……常に気ぃ張れよ」


 俺は構え、サティとイチカも目の色を変え、剣を構えるのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


「ぜぇ、ぜぇ……うっぷ、っは、っはぁ、はぁ」

「お、帰ってきたか。まあ、想定より少し速いかな」

「は、はひ……はぁ、はぁ」


 汗だく、疲労困憊のルシオが戻って来た。

 その場で崩れ落ちるが、俺は手を貸さない。

 ルシオは自分の力で立ちあがり、俺の前に来た。


「ダッシュ、終わり、ました!!」

「おう、お疲れさん。ストレッチして、疲れを残さないようにしろ」

「は、はい……って」


 ルシオは、ボロボロで転がるサティ、イチカを見て驚いていた。

 そして、自分の疲れも忘れ、二人の元へ。


「だ、大丈夫!?」

「うぅ……なん、とか」

「ぐぅ……」

「待ってて、今手当を」


 俺は三人の元へ行き言う。


「お前ら、今日はここで野営する。一週間はここに寝泊まりするからな」

「「「…………」」」

「ああ、安心しろ。馬車に必要なモンは全部用意してある。食料だけは……まあ、今日は俺が狩ってきてやる。野営の準備を頼むぞ」

「は、はい……ぅぐ」


 三人は立ち上がり、野営の支度を始めた。

 俺は近くの森で適当な魔獣を狩り、その場でさばいて肉塊を担いで戻る。

 戻ると、なんとかテントを用意した三人がいた。ルシオは二人を手伝い、傷の手当をしたり、焚火の用意をしている。


「これから一週間、地獄見せるからな。覚悟しておけよ」

「「「…………」」」

「返事」

「は、はい!!」

「はい……」

「は、はい」


 さて、三人はどれくらい成長するのか……ふふふ、楽しみだ。

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