脇役剣聖、見極められる
七大魔将。ルプスレクス以来の超強敵。
懐かしいな……ルプスレクスと初めて対峙した時、初めて「これは死ぬかも」なんて思った。
ラクタパクシャは、俺を見て少しだけ首を傾けた。
「あなた、笑ってるの?」
不思議だった。
若い頃の俺。はっきり言って自分を『無敵』だと思ってた。
だって、どんな騎士団員も、兵士が大勢でかかってきても、俺に掠り傷すら付けられなかった。あの団長ですら俺に当てることができなかったんだからな。
自分で言うのもアレだが、俺のいいところは天狗にならないところ。
できる範囲でやればいい。そう思っていた。自分は無敵だけど、別に高みに登るつもりはないし、今できる範囲の精一杯をやればいい、そう思っていた。
だけど……ルプスレクスと対峙した時、俺の中にも『闘争心』があったと自覚した。
強敵を前にした高揚感。敗色濃厚の戦いに興奮する自分。
そんな敵を前に、俺は笑っていた。
「それ、ルプスレクスにも言われたよ」
「そう」
俺は前傾姿勢になり、飛び出す。
柄に手を添えたまま、近くの木の幹を蹴ってラクタパクシャに接近。
「『開眼』」
見える。
ラクタパクシャの力の流れ。
だが───それを見て戦慄する。
ラクタパクシャの背中にある翼、羽の一枚一枚にとんでもない力が流れている。
「へえ、面白い目」
そう軽く呟き、背中の羽が発射された。
「『大開眼』!!」
羽の軌道を見切る──……が、バカげていた。
なんだこれ。結果が──一つじゃない、無数にある。
例えばの話。『剣を縦に振り下ろす』という行為を始める。俺の眼は『剣を振りかぶった瞬間』に、力の流れから『剣がまっすぐ振り下ろされる』という結果を見る。だから俺は攻撃を回避できるし、先読みできる。ほんの半秒にも満たない先読みだが、それだけあればどんな攻撃も回避できる。
だが、この羽は違う。
『まっすぐ飛ぶ』という結果だけじゃない。『まっすぐ飛ぶように見せかけ旋回』や『まっすぐ飛んだあと急停止』など、結果が一つじゃない。
しかも、羽の数は数百を超えている。
先読みできない。まるでルプスレクスの──。
「───『閃牙・
超高速の抜刀術。『閃牙』を上回る速度の斬撃で、全ての羽を斬り落とす。
すると、ラクタパクシャは右の翼に手を突っ込み、一枚の羽を抜いた。
「『
「はっ、お前も剣かよ!!」
急接近し、炎の剣を振るラクタパクシャ。
空中じゃ躱せないし、体勢が変えられない。俺は『冥狼斬月』の刀身で炎の剣を受ける。
「あっちちちちちち!? 熱い!!」
「私の炎は鉄を蒸発させるぞ」
熱いどころじゃない。顔の皮膚がジュウジュウ音を立て、手の皮がめくれた。
こいつ、手加減してるな……鉄を蒸発させるくらいの熱気なら、刀身を合わせた時点で俺の手は骨まで焼かれていたかもしれない。
地上に落下し、俺は距離を取る──が。
「逃がさん」
「!!」
速い!!
視認した瞬間、すでに斬撃が繰り出されていた。
俺は『冥狼斬月』で受ける。
熱量もヤバい。どう考えてもイフリータの数百、数千倍の炎。
「その程度なのか? ルプスレクスを倒した男よ」
「悪いが、あれから十四年経過してんだ。俺も衰えるし、若い頃みたいには」
「言い訳だな。私にはわかる。お前の剣は──……堕落した剣だ」
「…………」
「鍛錬を投げ出し、現状の強さに満足した剣。貴様……ルプスレクスを倒した後に、何をしていた? 誇り高き狼と言ったな? なら、ルプスレクスに何を感じ、何を与えられた?」
「…………」
「よもや……悪戯に血肉を拝借し、その剣を作ったのか?」
「…………っせぇ」
「む?」
だんだんと、頭に来た。
俺はわざと刀身と刀身を合わせ、全力で押し出した。
すると、ラクタパクシャは押され俺と距離を取る。
「人間のくせに、なんという腕力……」
「お前に、俺の何がわかる」
「……?」
「確かに、俺は一度何もかも放りだした。この剣を作ったのはルプスレクスを忘れないため。俺はな……ルプスレクスが言い残した言葉が忘れられない。あいつが望んでいたのは平穏だった。大自然に囲まれた野山を駆けることを夢見ていた」
「…………」
「あいつは、いいヤツだった。仲間を想い、身を案じ……あんな優しい目をしたやつと何で戦わなくちゃいけなかったのか、俺はずっと悩んでた。もう剣を握るのが嫌になった時もあった……でも、この『冥狼斬月』を見ると、ルプスレクスを思い出しちまう……俺はもう、どうしていいかわからなかった」
「…………」
「ああ、お前の言う通りだ。俺は情けない。ルプスレクスに感じたことを無視して、怠惰に生きていた」
「……ならば、ここで散れ」
「嫌だ。俺は、生きる。でっかい仕事ができちまったからな」
サティ、エミネム。彼女たちを育てる。
それが、怠惰だった今の俺にできる『生き甲斐』になっていた。
俺は剣を鞘に納め、目を閉じる。
「『天翼』ラクタパクシャ。お前は強い。昔の俺ならもっといい勝負ができただろうが、今の俺じゃ多分勝てない……」
「…………」
「でも。俺は勝つ!! ──『神開眼』!!」
眼を開く。
蒼炎のように輝き、燃える瞳。
この状態の俺は、刹那の瞬間『時が止まった世界』に干渉できる。
『神眼』がどういう力なのか、見る力がどうして時に干渉できるのかわからない。でも……この力なら、たとえ魔王相手だろうと勝てる。
だが、ラクタパクシャは動いていた。
ルプスレクスと同じだ。やはりこれは時が止まったんじゃない……ただ、速すぎて周りが止まったように見えるだけ。それでも、今の俺はラクタパクシャより……速い!!
「『
「!!」
繰り出すのは、俺の切り札の一つ。
速度を全て載せた、究極の抜刀術。
見えているのか、ラクタパクシャは反応した……が、剣が折れ、右腕が切断。
そのまま胴体を真っ二つに、核を破壊しようと思ったが……。
「ッ!?」
何が起きたのか。
『冥狼斬月』が、震えた。
そして、何者かが俺の手に触れていた。
『──そこまでにしてやってくれ』
俺は手を止める。
剣は、ラクタパクシャの胴体に少し食い込み、止まった。
「……何故、止めた」
「……み、見えなかったのか?」
「何?」
「い、今……俺の手を、誰かが掴んで」
俺は剣を引く。
すると───ラクタパクシャは自分の腕を拾って断面に合わせた。それだけであっさりくっつく。
そして、俺に近づき、『冥狼斬月』に触れた。
「───…………ああ、やっぱり」
ラクタパクシャは涙を流す。
もう、戦意は感じない。
ラクタパクシャはしゃがみ込み、刀身に触れ、そっと抱きしめた。
「ここにいる。あなたが、ここに……彼を認めてるの? だから、私を……ううん、わらわを救ってくれたのね。わらわのこと、捨てたんじゃなかったのね」
いきなり一人称が「わらわ」になった。
きっと、こっちが素のラクタパクシャなのかもしれない。
「また、会えた……ルプスレクス」
刀身を抱きしめ涙を流すラクタパクシャは、恋焦がれる一人の女にしか見えなかった。
もしかしたら、俺の手を止めたのは……彼女を想う、ルプスレクスだったのかもしれない。
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