脇役剣聖、王都へ

 仕事を終え、俺、サティ、エミネム、フルーレの四人で王都にやってきた。

 向かったのは城。今回は寄り道なし、王都に到着するなり城へ向かい、団長がいる七大剣聖専用の大会議室へ。サティ、エミネムも連れて向かった。

 会議室へ入ると、全員揃っていた。


「来たか、ラスティス」

「団長……それに、ランスロット、アナスタシアにラストワン。ロシエルも……はは、俺今日行くなんて言ってないんですけどね」

「お前の考えなどお見通しだ。座れ」

「はい。っと……サティたち用の椅子」

「ほれ、これでいいだろ」


 ラストワンが指を鳴らすと、俺が座ろうとしていた椅子が分裂した。

 物を増やすスキル、なんとも便利だ。


「……お父様」


 エミネムは、父である団長を見ているが、団長は視線すら向けない。

 サティはキョロキョロして部屋を眺めている。そういや、ここに入るの初めてか。


「報告は聞いた。ラスティス……まさか、七大魔将の一人を客として迎えていたとはな」

「まぁ、悪い奴じゃなかったんで。その……報告せず、すみませんでした」

「構わん」

「へ?」

「貴様がそう判断したのなら、それで構わん」

「……あ、はい」


 ちょ、意外も意外……ブチ切れるかと思ったが。

 まさか、お咎めなし。これには首を傾げるしかない。


「あの、団長……怒らないんですか? 俺、七大魔将の一人と通じてたんですよ? 敵である魔族を領地の屋敷に呼んで、一緒にメシ食ったりして……」

「納得はしていない。だが……今回は、それどころではない。七大魔将の一人、『破虎』の僕たちが、デッドエンド大平原に集結しつつある。そして、それを運んでいるのは『天翼』の僕たち。ラスティス……今、貴様に何を言ったところで、魔族との戦いは避けられん」

「……」

「貴様が『天翼』と何を語ったのかは知らん。だが、今回の件に無関係とは言わせん……ラスティス、この件が終わったら、覚悟をしておけ」

「……わかりました」

「し、師匠……」


 俺は素直に頷くが、どうしても譲れないところがあった。


「団長。これだけは言わせてください……俺は確かにラクタパクシャを領地に招きましたけど、あいつは純粋に村での生活を楽しんでいたし、俺や七大剣聖、騎士団なんかの情報は一切触れていません。ラクタパクシャは、一人の魔族……いや、一人の女として、俺とルプスレクスに会いに来ただけです」

「……それも聞いた」


 団長はアナスタシアを見た。

 アナスタシアは、ラクタパクシャのこと気に入ってたからな……あいつの本意も、ちゃんと見抜いていた。女にしかわからないことがあるとか言ってたしな。

 すると、ランスロットが手をポンと叩いた。


「とりあえず、この件は後程……今は、デッドエンド大平原に集結しつつある『虎』の軍勢を何とかしないといけません」

「集結……数は多いのか?」

「ええ。つい先日、宣戦布告とも取れる雄叫びが、デッドエンド大平原に響きました……そして、斥候が確認しただけでも、上級魔族が四人確認されています」

「……四人か」

「そして、『破虎』ビャッコ。七大魔将の姿も確認されました。デッドエンド大平原最奥にある、かつて魔族が建造した前線基地の一つを使用し、虎たちを指揮しています」

「おいおい……もう来てるのかよ」


 頭を抱えたくなる……でも、戦うのは確定しているんだ。

 

「正直、虎はどうとでもなります。ですが、問題は上級魔族……数は四人」

「簡単だ。雑魚は騎士に任せて、上級魔族はオレらでやればいいだろ」


 ラストワンが言うと、ランスロットはため息を吐く。


「やれやれ……単純明快と言えばいいのでしょうか? 何も考えていないと言えばいいのでしょうか?」

「んだと? おいランスロット、馬鹿にしてんのか?」

「やめさない。ラストワン、今のはあなたが悪い。考えなしな発言は控えなさい」

「むぐ……」


 アナスタシアにも言われ、ラストワンは黙りこむ。

 だが、俺は言う。


「考えなしかはともかく、一般兵や騎士じゃ上級魔族は相手にならん。まあ、オレらで戦うしかないと思うぞ」

「さっすがラス。オレと同じ考えとはな!!」

「うるさい。団長、どうします?」

「……ふむ。騎士の指揮もあるから、ワシら全員とはいかん。戦えるのは……」

「オレ、ラス、アナスタシア、ロシエルだな。敵の上級魔族は四人、これでいくしかねぇな」


 ラストワンの意見に、アナスタシアが頷く。


「そうね。と言いたいけど……ロシエルはいいの? 上級魔族との戦闘経験もないし」

「…………」


 ロシエルを見るが……大きな帽子をかぶり、マフラーで首と口元を隠しているので表情が見えない。

 返事もせず、ほんの少しだけ頷いたように見えた。

 すると、フルーレが挙手。


「待ちなさい、軽薄男……私のこと、忘れていない?」

「忘れてないぜ。敵は上級魔族……フルーレちゃん、お前にはまだ無理だ」

「納得いかないわね。私、上級魔族との戦闘経験があるわ」

「んん~……でもなあ」

「あなたで実力を試してもいいのだけれど?」


 フルーレがラストワンを睨むと、団長が言う。


「やめい!! ラストワン、フルーレの実力はワシが保証する。上級魔族四人は、ラストワン、アナスタシア、ロシエル、フルーレの四人で相手をせよ!! ワシとランスロットは騎士団の指揮を執る!! そして、ラスティス!! 貴様は、七大魔将『破虎』を倒せ!!」


 デカい声だった。

 俺は頷き、頭を下げる。


「最初からそのつもりでしたよ。それと、フルーレ」

「な、なによ」

「団長はああ言うけど、たぶんお前の実力じゃ命がけになる。だから……サティと、エミネムを連れていけ。この二人は上級魔族との戦闘経験もあるし、お前の助けになるだろう」

「……本気なの?」

「本気だ。悪いが、お前を死なせたくない。言うこと聞いてくれ」

「…………わかったわ。サティ、エミネム、あなたたちの命、私が預かるから」

「はい!!」

「はい。よろしくお願いいたします」

「待った。フルーレ、勘違いするな。二人の命はお前に預けたんじゃない。互いに協力して、自分の命は自分で守れ。お前も、他人を気にしてる余裕なんてないはずだ」

「……厳しいこと言うわね」

「お前のためだ。サティ、エミネムも……俺が言ったこと、忘れるなよ」

「「…………」」


 こうして、会議は終わった。 

 部隊編成、装備確認などもあるので、すぐに軍は動かせない。

 それに、恐らく……『破虎』は待っている。

 人間たちが動くのを。そして、その牙で抵抗をする人間たちを喰らうのを。

 戦いは近い。待ってろよ、ラクタパクシャ。

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