脇役剣聖、覚悟を決める

 さて。

 ラストワンは団長に報告するために一度王都へ戻ることになったが……。


「お前は行かないのか?」

「見張りよ」


 フルーレは残る気満々。

 ドバトはここに残るので、それの見張りを兼ねて残るというのだ。まぁ、別にいいが。

 代わりに、アナスタシアが王都へ。領地開発の件でケインくんに話もあるし、フローネとホッジも打ち合わせのために一緒に行くようだ。

 俺は、村での仕事を終えたら王都へ行く。恐らく『破虎』はデッドエンド大平原に現れるだろうということで、そこで迎え討つ。

 とりあえず、俺は拘束を外したドバトに言う。


「ドバト。お前は傷を癒しておけ。もう少し仕事したら王都に行くからよ」

「うむ。すまんな、友よ」

「とりあえず……なんか食うか? 怪我、治らないのか?」

「身体は魔力が戻れば少しずつ回復する。今は、とにかく休めばいい……すまんが、そこの木を借りる」


 ドバトは、屋敷近くに生えている木の枝に飛び移ると、立ったまま寝てしまった。

 まあ、寝れば回復するならいっぱい寝てほしい。

 すると、フルーレが言う。


「ラスティス・ギルハドレット。言っておくけど、あなたが魔族と通じたことは事実だから。その件で団長に詰められても、私は何もしないからね」

「わかってるっての。いろいろと覚悟はしているよ……それより、サティたちのところに行くけど、お前も来るか?」

「……そうね。あの二人がどれくらい強くなったのか知りたいわ」

「普通に『挨拶したい』でいいだろうが……素直じゃないな」

「何か言ったかしら」


 フルーレにジロッと睨まれたので黙る俺。

 俺は、フルーレを連れて村はずれに住んでいる木こりのダンバンの家へ。

 そこに、サティとエミネムがいた。


「あ、師匠……に、フルーレさん!! わぁ、お久しぶりですっ!!」


 今まさに薪割り中のサティが、斧を置いてこちらに来た。

 エミネムも、割った薪を薪棚に置いていたが、こちらへ来る。


「サティ、エミネム。久しぶりね」

「お久しぶりですっ!!」

「お久しぶりですね。えっと、お仕事ですか?」

「ええ。ちょっと込み入った話……」


 フルーレは俺を見て頷く。

 俺も頷き返し、二人を見た。


「サティ、エミネム。大事な話がある……薪割り、終わったか?」

「はい。ダンバンおじさんに頼まれた分は終わりました」

「あの、大事な話って……?」

「とりあえず、屋敷まで戻ろう。ダンバンは?」

「さっき寝ました。腰、だいぶ痛むようで……」


 サティとエミネムがここにいる理由は、ダンバンが腰を痛めたので、代わりに木を伐採したり、薪割りをしていたのだ。どちらも筋力トレーニングになるし、手伝いにもなる。

 とりあえず、今日の訓練は終わり……俺は、サティたちを連れて屋敷へ。

 地下の会議室に向かい、ラクタパクシャの件について説明した。


「それじゃあ、師匠は『破虎』を倒すんですか?」

「ああ。奴が人間界に来たらな」

「なるほど……じゃあ、あたしは?」

「……おそらくだが、『破虎』は手下を大勢連れてくる。それこそ、上級魔族も。サティ、エミネム……お前たちはどうしたい?」

「そりゃもちろん、戦います!!」

「私もです」

「……」


 この二人は、こう言うと思っていた。

 だからこそ、俺は確認する。


「敵は魔族。そして魔獣……いいか、これは本気の戦いになる。以前みたいに、俺が助けに来るなんて絶対に期待するな。他の誰かが助けるとかもない。自分の命は、自分で守らなくちゃいけない。負けたら死ぬ……そういう戦いだ」

「「…………」」

「今回は、俺も勝ち目が薄い。敵は七大魔将の一人……正直、俺も死ぬかもしれん」

「そ、そんなこと」

「サティ」

「っ」

「もう一度聞く。お前たちは、どうする?」


 命を賭ける覚悟があるか? 俺は、そのつもりで聞いた。

 フルーレは何も言わない。こいつは腐っても七大剣聖の一人。すでに覚悟は決まっている。

 すると、サティは言う。


「師匠。あたし……覚悟なら、とっくに決まってますよ」

「…………」

「初めて上級魔族と戦った時。すでに一度死んでます。それでもあたし、戦う意思は投げませんでした。生きるために戦いました!! だから、今回も同じです!! あたし……戦います!!」

「……よし。エミネム、お前は」

「当然、答えは同じです。私は騎士。命を賭けて戦う覚悟はできています」

「……よし。じゃあ決まりだ。時期が来たら、俺と一緒に王都へ行くぞ」

「「はい!!」」

「俺はもう少し村で仕事がある。フルーレ、今日はこの二人の相手、してやってくれ」

「ええ。わかったわ」

「二人とも、王都へ行く準備、しておけよ」


 それだけ言い、俺は地下室を出た。

 そして、ギルガの元へ。

 ギルガは執務室で、山のような書類と格闘していた。


「ギルガ、話がある」

「言わんでもわかる。行くんだろう」

「……お前なら、その先もわかるだろ?」

「……死ぬかもしれんということか」


 ギルガは書類から目を離さない。まるで、俺の心を見透かしているようだ。


「村の守りは任せておけ。だが、オレは領主になどなるつもりはない。お前……俺に爵位を譲る書類を書いていたな? 悪いが処分したぞ」

「何ぃ!? おま、何勝手なこと」

「黙れよ。ラス、死ぬ覚悟で戦うなぞ許さん。戦うなら、生きる覚悟で勝て」

「……ギルガ」

「それに……風呂もサウナも、お前が帰ってこないなら、オレら一家で使わせてもらうからな」

「何!! そ、それはダメだ!! ありゃ俺のオアシスで……まだまだ改造計画あるんだからな!?」

「だったら、帰って来い。敵は七大魔将……フン、その程度、さっさと斬り捨ててこい」

「……はっ」


 この野郎、ムカつくな……でも、やる気出てきたわ。


「おいギルガ、今夜一杯付き合え」

「構わんが、まずはこの山積みの書類を確認して、印を押せ。開拓関係の書類が溜まってる」

「……これ、全部かよ」

「当たり前だ。お前が命がけで七大魔将を斬るのと、鉱山開拓は無関係だぞ」

「…………」

 

 なんか今すぐ王都に行きたくなった……なんて、言えるワケなかった。

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