脇役剣聖、やはり思った通り

 翌日。

 ラストワンはいつの間にかいなくなっていた。

 顔を洗い、部屋の外で待機していたメイドに飯を頼み、腹いっぱい食べた。

 そして、王に謁見の申請……申請後、五分で許可が出た。

 俺は、七大剣聖の紋章が刻まれたマントを着て、愛用の剣を差して謁見の間へ。

 

「七大剣聖序列六位、ラスティス・ギルハドレット。遅ればせながら参上しました」

「うむ。表を上げよ」


 玉座の前で跪く。

 顔を上げると、筋骨隆々なアルムート王国の王、ディスガイア・ルルド・アルムート三十三世が俺を見下ろしていた……うう、相変わらず怖い雰囲気だぜ。

 年齢は四十だっけ。俺と十しか変わらないのに、この威厳……いかに俺が小市民だってわかる。


「ラスティスよ。早速だが……そなたが戦った魔族について、語るがよい」

「はっ」


 王の左右隣には、ボーマンダ団長とランスロットがいる。

 俺の報告書を読んだろうに、わざわざ呼び出しやがって。

 俺は、クロロ山脈で出会った中級魔族ブレジッドのことを話した。特徴、強さ、使った技……そして、どうやって倒したのか、どんな情報を持っていたのか。

 話終えると、ディスガイア国王は頷いた。


「さすが、七大剣聖であるな。たった一人で中級魔族を葬るとは」


 だが、団長が言う。


「欲を言えば、上級魔族についての情報をもう少し引き出すべきだったな」

「……申し訳ございません」

「だが、魔族がいるとすれば、人間界と魔界領地の国境、『デッドエンド大平原』の可能性が高い。あそこには魔族の基地があったはずだ」


 俺もそれは思っている。

 すると、今度はランスロットが言う。


「魔界領地と、魔族の国である『魔界』の行き来は困難。これは『冥狼侵攻』の時から変わっていません……だが、上級魔族が現れたということは、何らかの手段で、魔界と魔界領地の行き来が可能になった可能性が高い……」


 そう……魔族の国である『魔界』は、俺たちの住む大陸からはるか遠く……海に浮かんでいる。

 そして、今は大陸の四分の一が魔族に奪われ、『魔界領地』として魔族が住んでいる地域となっている。この魔界領地と、人間界の国境では、絶えず小競り合いが起きている。

 魔界領地と魔界を行き来するには船しかないが、海流が酷すぎて魔族でも命懸けらしい。


「『冥狼侵攻』……ルプスレクスは、自らの軍勢を率い、命懸けで魔界領地にたどり着いたとされている。もしかすると、その上級魔族も船で……?」


 ディスガイア王が言うと、団長とランスロットも考え込む。

 猛烈に嫌な予感がした。


「なら───調査すべきでしょうね」


 と、ランスロット。

 ディスガイア王は「ほう?」とランスロットを見る。


「『デッドエンド大平原』の調査をしましょう」

「ふむ、調査とな」

「ええ。我々人間が落とした魔族の前線基地が、デッドエンド大平原にはいくつかあります。さすがに、未踏破の地域まで調査をするのは不可能ですが……上級魔族が、我々が落とした魔界領地の地域に立ち寄った可能性はゼロではありません。そこを調査し、何らかの痕跡が見つかるかも」

「可能性はゼロではない。だが……そう都合よく、上級魔族が、人間が落とした前線基地に立ち寄るかの?」

「あくまで、可能性です。何もなければ、それで問題はありませんので」


 ランスロットがほほ笑む。

 俺の勘だが、何もないね。上級魔族が、人間が落とした魔界領地に来る理由なんてない。

 そりゃ確かに、国境周辺では人間が取り返した地域がある。でも、今までそこに魔族が現れたなんてことはない。

 ディスガイア王は大きく頷いた。


「では、ラスティス・ギルハドレット。そなたに」

「お待ちください、我が王」

「む?」

「俺……じゃなくて、私はすぐにでもギルハドレット領地に戻らねばなりません。あの領地に中級魔族が現れました。今後、上級魔族が狙ってくる可能性はゼロではありません」

「む……」


 よし。こういえば、俺が調査に行くこともないだろうな。

 

「ラスティス・ギルハドレット!! 王の命令に逆らうつもりか!!」


 げっ……団長がキレた。

 そう思うならアンタ行けよ……なんて、言えるわけがない。

 

「しかし、中級魔族が出た以上」

「くどいぞ。王は、貴様が調査に行けと言ったのだ」

「……団長。一つ、よろしいでしょうか」


 さすがに言わせてもらうぜ。


「私は、七大剣聖序列六位。上級魔族が現れた場合、一人では手に余ります。上級魔族とはほぼ確実に戦闘になるでしょう……せめて、腕の立つ騎士を十名ほど、お借りできれば」

「……それはできん。騎士団、そして七大剣聖の配下は王都の防衛がある。ラスティス・ギルハドレット、貴様の部下を使え」

「急ぎ、参りましたので……部下は誰も連れてきていません。それに、今は領地の防衛を任せています」

「…………」

「陛下。調査の件、受けさせていただきます」

「うむ、頼むぞ」

「はっ……そこで、お願い申し上げます。アルムート王国騎士団の一部隊を、私にお貸し頂けないでしょうか」


 これには、団長の眉がつり上がった。


「ラスティス・ギルハドレット、貴様何を考えている」

「団長。デッドエンド大平原の調査は命がけです。まさか私一人で調査をさせるおつもりでしたか?」

「貴様の部下がいるだろう」

「王家の呼び出しでしたので、我が領内最速の馬で来ました。他の者を連れて行くなんて、とてもとても……」

「…………む」

「陛下。よろしいでしょうか?」

「いいだろう。では、ラスティス・ギルハドレットに騎士団の第一部隊を付ける。ボーマンダよ、お前の娘がいる優秀な部隊だ。きっと、調査にも役立ってくれるだろう」

「……そう、ですね」


 団長の顔色が変わった。

 ふふふ……知ってるぜ。団長は娘を溺愛しているってな。

 陛下が第一部隊を選ぶかは賭けだったが、運よく俺の配下になってくれたようだ。

 それに、団長……さっき俺に『陛下に異議を唱えるとは!』みたいなこと言ってるから、陛下が決めた人選に口出しできない。

 彼が睨むのは俺。ふふふ、団長の娘さん、コキ使ってやる。


 ◇◇◇◇◇◇


 こうして、俺はデッドエンド大平原に調査に行くことになった。

 目的は上級魔族の捜査。目的地は、魔界領地にある人間が征服したエリア。そこにあるいくつかの『前線基地』に、上級魔族の痕跡を探す。

 旅のお供は、騎士団の第一部隊。


「団長の娘が、第一部隊の部隊長だっけ……」


 話によると、『神スキル』を持っているとか。

 第一部隊のいる演習場に向かおうとすると。


「……ラスティス・ギルハドレット」

「団長……なぜ、ここに」


 団長は、俺に顔を近づけて威嚇する。


「いいか、娘に怪我をさせてみろ……貴様を八つ裂きにしてやるからな!!」


 一方的に言い、行ってしまった。

 そして、今度はランスロットも来る。


「……ふふ、どうかお気をつけて」

「おう。なあランスロット……お前さ、サティのこと、気にならないのか?」

「ええ。もうとっくに、捨てた娘ですから」

「……ほう」

「あいつは、俺より強くなる。もちろん、お前よりも」

「……あなたの、そういうところが」


 ランスロットは俺を睨むと行ってしまった。

 ま、いいや。とりあえず……今は、第一部隊と合流しなくちゃな。

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