脇役剣聖、団長の娘と一緒に行く

 団長、ランスロットと別れて第一部隊の訓練場へ。

 アルムート王国聖騎士団、第一部隊。団員数五十名だっけ。

 訓練場に到着すると、多くの騎士たちが訓練をしていた……そして、いた。


「どうした!! お前たち、だらしないぞ!!」


 凛と響く声。

 団長の娘にして、第一部隊の隊長、エミネムだ。

 まだ十七歳だってのに、なかなか貫禄ある。

 十人を同時に相手していたようだ。だが、騎士全員が地面に崩れ落ち、荒い息を吐いている。

 エミネムの武器……お、剣じゃなくて槍か。そういや、部隊長クラスは剣だけじゃなく、固有の武器を持つことが許可されてるんだっけ。

 すると、エミネムが俺に近づいてきて、跪いた。


「七大剣聖序列六位『神眼』ラスティス・ギルハドレット殿。お初にお目にかかります」

「あ、ああ」

「私は、アルムート王国聖騎士団第一部隊長、エミネム・グレムギルツです。今回、デッドエンド大平原の調査に同行させていただきます」

「……おう」


 堅い、ガッチガチに堅い!!

 団長の娘だし、やっぱ礼儀作法とか厳しいのかな……すると、エミネムに合わせて訓練中の騎士たちが集まり、全員が跪いた。

 待てマテ、こういうのは苦手だ。


「あー、全員立ってくれ。いろいろ予定組んでるだろうが、今日の訓練は終わり。全員、風呂でも入ってサッパリしたら、着替えて集まってくれ」

「「「「「はっ!!」」」」」


 めちゃくちゃ統率取れてるし、素直な感じだな。

 そりゃそうか。アルムート王国聖騎士団にとって、七大剣聖は憧れの的だしな。

 騎士たちは訓練の片付けをして、宿舎に入っていく。

 最後まで残ったのは、エミネムだった。


「お前もシャワー浴びて、着替えてこいよ」

「はい。あの、ラスティス・ギルハドレット様」

「あー、ラス……だと団長に何言われるかわからんな。ラスティスでいいぞ」

「では、ラスティス様。此度はその……父が」

「ん?」

「……父がまた、無茶なことを言いだしたのでは?」

「……は?」

「デッドエンド大平原の調査なんて、普通はしません。あそこは戦地であり、戦場……確かに、魔族の前線基地は存在しますが、すでに放棄された場所ばかり。何か見つかるとは思えませんが……」

「…………」


 エミネムは、どこか申し訳なさそうにしていた。

 ……もっとお堅い子かと思ったけど、いい子そうだ。

 俺はエミネムの頭をポンポン撫でる。


「ひゃっ!?」

「ま、いろいろ言いたいことあるのはわかってる。だけど、陛下の命令だしな……俺だってこんなめんどくさいことやりたくないさ。さっさと終わらせて、みんなで美味いメシでも食おうぜ」

「……ぁ」


 微笑みかけると、エミネムの表情が和らいだ。

 

「ほれほれ、シャワー浴びて着替えてこい。あ、宿舎の中で会議したいんだが、使っていい部屋あるか?」

「えと、大会議室があります」

「じゃ、そこ借りるわ」


 エミネムの頭から手を離し、俺は宿舎に中へ。


「…………」


 エミネムが、撫でられた頭を触って顔を赤らめていることには、気づかないフリをした。


 ◇◇◇◇◇◇


「よっと……こんなもんか」

「ら、ラスティス様!? な、なにを!?」


 大会議室の準備をしていると、坊主頭の青年が部屋に入ってきた。

 

「何って、椅子並べてたんだよ。これから全員で会議だしな」

「なな、七大剣聖が自ら、椅子を並べるぅ!?」

「ははは、なんかいいテンションだな。お前、名前は?」


 坊主頭くんはハッとして、びしっと敬礼した。


「自分は、第一部隊騎士、ヴォーズです!!」

「坊主?」

「ヴォーズです!! ラスティス様、椅子並べでしたら自分が!!」


 坊主くんことヴォーズくんが椅子並べを手伝ってくれた。

 椅子を並べ終わるころ、他の騎士やエミネムたちもぞろぞろやってくる。

 

「ら、ラスティス様!? い、椅子並べなぞ、私たちが」

「あー、手ぇ空いてたしな。ヴォーズくんも手伝ってくれたし」


 ヴォーズくんの肩をポンと叩くと、緊張のせいか震えていた。

 なんかこう、若いころのホッジを思い出すな。今でこそ一つの街を管理できるくらい成長したけど、昔はこんな感じでガチガチだった。


「せっかくだ。ヴォーズくんは俺の補佐してくれ。さ、残りのみんなは座ってくれ」

「じじ、自分が補佐ですか!?」

「ああ。俺の言うこと、板書してくれたらいいからさ」

「は、はい!!」


 騎士たちが全員座る。

 エミネムは俺の傍で、ヴォーズくんはチョークを手に黒板前に立つ。

 さて、めんどくさい話し合いの始まりだ。


 ◇◇◇◇◇◇


 ヴォーズくんにお願いして、デッドエンド大平原の地図を広げてもらう。

 

「えー、俺たちが命じられたのは、デッドエンド大平原にある『魔族の基地』の調査だ」


 用意してもらった地図には、デッドエンド大平原で人間側が取り戻した『魔界領地』の一部に線が引かれ、そこにある魔族の基地にマークしてある。


「俺たちが調査できる基地の数は七つ。ここに、上級魔族の痕跡がないか確認する」

「あの……質問、よろしいでしょうか」


 エミネムが挙手。俺は頷いた。


「私たちが調査できるのは、魔族が放棄した基地だけ……その、こんな言い方はしたくないのですが、普通は放棄した基地を、上級魔族が根城にすることなどありえないと思いますが……」

「全くもってその通り。普通は、放棄していない、まだ人間が取り戻していない魔界領地の基地を使うだろうな」

「だったら、なんで……」


 エミネムもわかっている。

 あえて質問したのは、この場にいる全員が知りたがっていることだからだろう。

 本当のことを言ってもいいが、俺はボヤかすことにした。


「答えは、『可能性はゼロじゃない』からだ。人間が取り戻した領地にある魔族の基地なんて、いかにも上級魔族が使わなそうな場所だろ? 現に、魔界領地から取り戻した人間界の領地はそのまま放置されている。危なくて開拓も復興もできるわけがないからな。そういう場所を狙って、もしかしたら上級魔族がいるかもしれない」

「…………」

「ま、とりあえず……出発は明日だ。ここからデッドエンド大平原まで馬で十日くらいか……なるべく早く終わらせるぞ。じゃ、すぐに準備に取り掛かってくれ」

「「「「「了解!!」」」」」


 騎士は立ち上がり、一斉に敬礼をした。


 ◇◇◇◇◇◇


 騎士たちに準備を任せ、俺は休憩所でお茶を飲んでいた。

 手伝おうかと思ったが、「七大剣聖にそんなことはさせられない」とか……俺の村じゃ怠けていると爺さん婆さんの鉄拳飛んでくるんだが……なんか居心地悪い。

 すると、エミネムが来た。


「……あの、ラスティス様」

「ん?」

「……その、お話が」


 エミネムが、どこか俯いた感じで俺の元へ来た。

 案内されたのは、エミネムの執務室。

 意外なことに、書類が散乱しており、床には木剣や鎧を磨く布なんかも落ちていた。


「先ほど、お父様から連絡がありました」


 おーっと、部屋の惨状に触れることなく本題へ!! 汚くてもあまり気にしないタイプなのか?


「……私に別命が下りまして、王都で待機することになりました」

「……やっぱりな」

「え?」

「たぶん、団長の横槍が入ると思ってた。まぁ、この調査の本来の目的なら仕方ないか」

「……ど、どういう」

「んー……言ってもいいけど、あんまりいい話じゃないぞ」

「……お願いします」


 俺は部屋にあったソファに座る。

 上着とか引っかけてあるし……おいおい、下着まであるぞ。言わんけど。


「俺たちは、餌だ」

「……え?」

「今回の調査は恐らく、『上級魔族を探し回っている』って姿を、上級魔族自身に見つけてもらうのが目的だ。で、向こうが仕掛けてきたら戦って、何もなければそれでおしまい」

「……なっ、そ、そんな」

「こっちとしては、どっちでもいいんだ。戦闘になれば俺が倒せばいいし、何もなければ王都に戻って備えればいい」

「そ、そんなやり方!! え……だ、第一部隊は、このことを」

「知るわけないな。恐らくだがエミネム……お前、別部隊への移動もあるかもしれないぞ」

「え?」

「上級魔族は強い。あいつらは普通の魔族とは違う、独特な力を使う。それこそ、一部隊をまとめて倒せるくらいの力をな……もし戦いになれば、全滅もあり得る」

「…………」

「というわけで、お前の待機は妥当なところだ。まぁそれに、俺も死ぬつもりないし、できるなら騎士たちも守る。こんな言い方はアレだが……上級魔族が出なければ、普通に帰ってこれるさ」

「…………」

「じゃ、そういうことで。お前の大事な部下は、俺が守るからな」


 それだけ言い、俺は部屋を出た。


 ◇◇◇◇◇◇


 翌日。

 王都の西門に騎士が整列し、俺の合図を待っていた。

 これから、デッドエンド大平原に向かう。目的は基地の調査。

 すると、なんとなく副官に選んだヴォーズくんが言う。


「隊長がまだ来ていませんが……」

「あー、エミネムは」

「遅れました」

「遅れたって……って!? おま」


 なんと、エミネムが馬に乗ってやってきた。

 フル装備。旅の準備もしっかり終えて。

 俺はエミネムに近づいてボソッと言う。


「おい、見送りならいらないぞ」

「見送りではありません。私も行きます」

「いや……団長の説得でもしたのか? 危険だぞ」

「お父様には何も言っていません。これは、私の判断です」

「……いや、でも」

「あなたに迷惑はかけません。それに……大事な部下を使い捨てるようなやり方、さすがのお父様でも許せません」

「……お前、けっこう熱い性格なんだな」

「そうでもありません。私は……基本的に、お父様の言いなりですから。でも……ちょっとだけ、反抗してみたくなったんです」


 そう言い、エミネムはなぜか、俺を見て自分の頭を撫でた。


「わかったよ。じゃあ、みんなで行くか」

「はい!!」


 こうして、エミネムの第一部隊を連れて、俺はデッドエンド大平原に向かうのだった。

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