脇役剣聖、手紙を開封

「おー……いててて、で、手紙は?」

「机の上だ」


 ギルガに殴られた頭を押さえつつ、執務室にある自分の机へ。

 そこには、王家の紋章が刻まれた手紙があった。


「アルムート王家からの手紙かよ。くっそ……めんどくせえ」

「我儘を言うな。さっさと読め」

「へいへい」


 手紙を開封、王家の便箋ってのは手触りもいいし、インクも高級なのかいい香りがする。

 内容は……はぁぁ、やっぱそう来たか。


「登城命令かよ……クソ、めんどくさいな」

「やはり、中級魔族の件か?」

「ああ。魔族と戦ったことを含めて、詳細を聞きたいんだと……しかも、団長とランスロットの野郎も同席するとか」

「七大剣聖のナンバーワン、ナンバーツーだからか。やれやれ」

「……アナスタシア、ラストワンは何か連絡あったか?」

「特にない。あの二人のことだ、上級魔族に対する備えはしているとは思うがな」

「……あー、マジでめんどくさい。詳細とか、報告書が全てだっつーのに」


 手紙を放り、椅子に寄りかかる。

 ギルガは俺の前まで来ると、大きなカバンをドスンと置いた。


「……なんだ、これ」

「旅支度だ。馬の準備も済んでいる」

「……マジで行くのかぁ」

「王家の命令だぞ。全く……急いで行き、急いで戻って来い」

「中級魔族がギルハドレット領地に現れたんだ。俺がいなくなったらどうすんだよ」

「本気で言っているのか?」


 ギルガが俺を睨む……ああわかってるよ、お前がいるもんな。


「ま、お前もミレイユも、フローネもホッジもいるし問題ないか」

「中級魔族程度なら、蹴散らせる」

「……わかった。じゃあ、さっさと行くか」

「ああ」


 もう昼も過ぎたし、本来なら明日出発とかだけど……王家の命令なら急がなきゃな。

 カバンを手に立ち上がると、ギルガが細長い包みを差し出した。


「念のため、持っていけ……お前の・・・本来の剣だ・・・・・

「……」

「今、使っている剣も業物に違いないが、その剣では本来の実力を出せんだろう。上級魔族、しかも二つ名持ちとなれば、必要となる」

「……それ、フラグだぞ」

「ふ……いいから、持っていけ」

「……ったく。優しくてお節介な副官様だよ」


 包みを受け取り、背中に背負う。

 部屋を出てリビングに行くと、風呂上がりのサティ、フルーレがいた。


「お風呂、借りたわよ」

「師匠!! あたし、お風呂とか好きでも嫌いでもなかったですけど……ここに来て、お風呂の偉大さを知りました!! お風呂最高です!!」

「だろ!? ふっふっふ、今に見てろよ? もっとデカい風呂を作ってやるからな!!」

「はい!!」


 じゃなくて!! 風呂と聞いてつい興奮してしまった。

 俺は咳払いして、フルーレに言う。


「フルーレ。ちと王家に呼び出された。これからアルムート王国に行く」

「……私、あなたと戦うために来たんだけど? ここからアルムート王国まで、早馬で二週間はかかるわよ」

「あー……悪いな」

「仕方ないわね。帰ってくるまで、サティを鍛えてあげる」

「え、いいのか?」

「呼び出されたら帰るけどね」


 フルーレ……なんていいヤツ。お土産買って帰るくらいは感謝する。

 そしてサティ。


「サティ。しばらく留守にする。魔力の使い方はフルーレやミレイユに倣うといい」

「はい。って……ミレイユさん?」

「ギルガの奥さんだ。あいつは『魔法師』だから、魔法系スキルが得意なんだよ」

「わかりました。師匠、お気をつけて!!」

「おう」


 そう言い、サティの頭をポンポン撫でる。


「ひゃっ!?」

「え? あ、悪い」

「い、いえ。ちょっとビックリしたけど……えへへ、師匠に撫でられるの、好きです」

「…………」


 可愛い奴め!! お土産いっぱい買ってくるからな!!


 ◇◇◇◇◇◇


 王都へ向けて出発……以前は三週間かけたが、今回は十二日で来た。

 まぁ、急ぐわな。だって魔族の危機が迫ってるし。

 王都に到着し、向かったのは宿屋……ではなく、王城。

 一応、俺も七大剣聖の一人だ。王城に自分の部屋があるし、今日はそこに泊まる。

 時間は深夜。さっさと部屋に案内され、ベッドへダイブ……すると、数分と経たずにドアがノックされた。


「へいへい」

「よ、来たか」

「……ラストワンかよ。おやすみ」


 ドアを閉めると、ラストワンがしつこくドアを叩く。

 仕方ないので部屋に入れてやった。


「おいおい、つれないな。せっかく美味い酒持ってきたのに」

「ほー、気が利くな。まぁ座れ」

「ドアいきなり閉めたヤツのセリフじゃねぇな……」


 ラストワンが持ってきたのはワインとチーズ。どっちも上物だ。

 しばし、ワインを楽しんでいると。


「な、中級魔族だけどよ」

「ああ、倒したぜ。大したことなかった」

「……上級魔族は」

「情報だけだ。手紙、もらっただろ? 魔界領地と人間界の境界に潜んでる可能性が高い。動けるのはお前とアナスタシアくらいだろ……いざって時は頼むぜ」

「……お前、わかってんだろ」


 ラストワンが俺を睨む。

 そう、アナスタシアもラストワンも、上級魔族との戦闘経験がない。

 今の七大剣聖であるのは、俺と団長とランスロットだけだ。


「……おそらく、ランスロットと団長とロシエルは王都から動かない。オレとアナスタシアは上級魔族との戦闘経験がない。当然、フルーレも」

「……俺は、中級魔族と戦った経緯を説明に来ただけだ」

「本気でそう思ってんのか?」

「…………」

「恐らく……お前は、上級魔族が潜んでいる可能性のある魔界領地と人間界の中間地点、『デッドエンド大平原』の調査に向かわせられるぞ」

「……あー」


 やっぱそうなるかなぁ。

 たぶん、タダの呼び出しじゃないとは思っていた。

 

「ラス、いいのか? 団長も、ランスロットも……恐らくロシエルも、お前を軽視してる。調査に向かわせて何もなければそれでよし、上級魔族が現れてお前が死んだらそれでよし、そう考えているかもしれないぞ」

「俺が死んだとしたら、上級魔族に対し備えればいい。死ななかったら、他の候補地を調査すればいい……そんなところか」

「わかってんなら、明日は文句の一つも言うんだろうな……?」

「……まぁ、めんどくさいのは嫌だしな」

「…………」


 ラストワンはグラスを置き、椅子にもたれかかった。


「本当に、腑抜けたなラス……サティを鍛えてるらしいが、お前は何も変わっていない。少しはやる気になったと思ったけどよ」

「十分、やる気になってるさ。サティだけじゃない、フルーレも一緒に鍛えてる。つい最近、サティは『神スキル』を使えるようになったぜ」

「……お前自身は、何か変わったか?」

「…………」

「なぁ……本当に、どうしちまったんだ? オレの知るラスティス・ギルハドレットは、情熱にあふれ、七大剣聖の使命に燃えた男だった。十四年前の『冥狼侵攻』で、お前に何があったんだ? 団長はお前を見限り、ランスロットはお前を腑抜けと決めつけている。オレもアナスタシアも、そんなお前を見たくないんだよ」

「…………お前、酔ってるな」

「……うるせ」


 俺はラストワンの肩に手を置き───一瞬で、ラストワンの首のツボを刺激し、意識を刈り取った。

 ソファに崩れ落ちたラストワン。

 俺はワイングラスを手に、残ったワインをグラスに全て注ぐ。


「誰も信じないけどさ……俺は知っちまったんだよ。『冥狼侵攻』は……」


 そこまで言い、俺はグラスのワインを一気に飲み干した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る