脇役剣聖、一年会議
一年会議。
まぁ、そのまんま『一年に一回行われる会議』のことだ。
世界各地で任務に就いたり、領地を治めたり、王都でお仕事したりしている、アルムート王国の『七大剣聖』が、こうして雁首揃えて会議……あー、マジめんど。
欠伸を噛み殺してボヘーっとしていると、団長が言う。
「まず、定期報告から。序列七位、ラスティス・ギルハドレッド」
「あー、はい」
定期報告……や、やっべえ。
「どうした?」
「えーと」
やばい。馬車の中で定期報告の内容考えようと思ってたけど、馬車の旅が楽しくてすっかり忘れてたわ……えっと、定期報告……領地であった事件とか、気になることとか言えばいいんだよな。
「あー……ギルハドレッド領地は平和そのものっスね。魔獣はけっこう出るけど、討伐レートはせいぜいがDだし、前に討伐レートAのワイバーンが出たけど、まあ倒しました。魔族の気配も特に感じないし……はい、平和ですわ」
よし、いい感じに言えた!!
ボーマンダ団長は俺をジッと見て「……まあいい」と頷く。
なんか怖い。あの顔、後で絶対に呼び出されるわ。
「では、序列六位。エドワド・リュングベイル」
「うむ。リュングベイル領地では特に何もないのぉ。ラスの坊やと同じ、平和そのものじゃて。それと……ワシのことで全員に話がある」
なんだ? エドワド爺さんが手をパンパン鳴らした。
すると、大会議室のドアが開き、一人の少女が入って来た。
青い、肩までかかるショートヘア。腰には剣、歳は……十七くらいかな。正門で会った冒険者のヒヨッコたちと同じくらいだろうか。
でも……気配。気配が全然違うな。こりゃかなり修羅場潜ってそうだ。
「ワシは七大剣聖を引退する。後釜はこのワシの孫、フルーレが継ぐ」
なんと。爺さん引退宣言!!
まあ、七大剣聖で一番の古株だしな。七十超えてたはず。引退して縁側でお茶を啜る姿が想像できた。
俺は驚いたけど、他の六人は驚いてないな……まぁ、どうでもいいけど。
「団長。受理してくれるかの?」
「わかった。が……その娘が、七大剣聖に相応しい力を持つかどうかは、また別の問題だ」
「それなら心配いらん。この子はワシらと同じ、『神スキル』を持つからの」
「ほう……」
団長が驚いていた。
そりゃそうだ。この世の中で『スキル』を持つ人間は、戦闘系、非戦闘系を合わせてもけっこういる。でも、スキルの中でも特に強力な力を持つ『神スキル』の持ち主は、全体の5パーセント以下だ。
ま、ここにいる全員は『神スキル』持ちだけどな……俺も含めて。
「実力はワシが保証する。というか……フフ、この子の実力はもう、ワシを越えておる」
「……いいだろう。では、序列六位エドワドに変わり、その孫フルーレを新たな七大剣聖とする。そして、掟に従い、フルーレは序列七位へ。現七位のラスティスを六位とする」
やったぜ!! 序列が上がった!! ……なーんて、喜ぶわけないけどな。
フルーレとかいう子は俺を見て敵意を飛ばしているし……うう、やな予感。
「それでは、序列五位アナスタシア。定期報告を──……」
とまあ、こんな感じで今年の『一年会議』は終了した。
◇◇◇◇◇◇
さーて、王都の居酒屋で一杯ひっかけて、ギルガに土産買って、村の連中にも買って……なーんて考えていた時だった。
会議が終わり、今まさに会議室を出ようとした時。
「序列六位、ラスティス・ギルハドレッド。あなたに『入れ替えの決闘』を申し込むわ」
「……は?」
たった今、序列七位に任命されたフルーレが、俺に勝負を挑んで来た。
いやいや待て待て。
「しょ、勝負って……順位入れ替えの?」
「それ以外、何があるのかしら?」
エドワド爺さんを見ると、頭を抱えている。
団長、ランスロットはいつの間にかいないし……えー?
すると、アナスタシアが。
「フフ、世間知らずのお嬢ちゃんね」
「何かおかしい? それと、私が六位になったら、次はあなたの番だから」
「……本当に、面白いわ」
アナスタシアがキレかけてるし!!
ラストワンの野郎はゲラゲラ笑ってるし、ロシエルは我関せずと無視してドアへ向かってる。
アナスタシアとフルーレが睨み合ってるし、今のうちに俺も逃げちゃおう……。
「で、受けるの? それとも逃げる?」
「いやー……いきなりすぎだろ。知ってるか? 序列入れ替えの決闘ってのは、双方合意の下でだな」
「双方合意の下で、七大剣聖の立ち合いの元に行われる。二度、入れ替えの決闘を断った場合、序列は入れ替えとなる……でしょ」
「おー、その通り。というわけで、俺は遠慮します」
ペコペコ頭を下げると、ラストワンが言う。
「おいラス、受けてやれよ」
「……あのなあ、序列とかどうでもいいけどよ、俺ぁこれから飲みに行くんだよ」
「お、いいね。オレも付き合うぜ。酒のあとはウチの店に来るか? 安くするぜ」
「大変魅力的だな。じゃあ」
「ちょっと!! 逃げるのは許さないわよ」
シュラッと剣を抜き、俺に突き付けるフルーレ……いや、怖いわ。
エドワド爺さんが、仕方なしにと言う。
「フルーレ……焦ることはない。ラスは」
「おじいちゃんは黙ってて!!」
「む、むう……」
爺さん、よっわ!! 孫に一言で黙らせられたわ。
まあ、このままじゃ埒が明かないし……仕方ないか。
「じゃあこうしよう。入れ替えじゃなくて、軽く模擬戦しよう。武器は木剣でな」
「……はぁ?」
「俺はきみの実力を知れる。きみは俺の実力を知れる。で、今度会った時に『入れ替え』の決闘を申し込んでくれ。その時は受けるよ……たぶん」
「…………」
お、ちょっと考え込んでる……さて、どうなるかな。
「……いいわ。じゃあ、始めるわよ」
「え、ここで」
と、なぜかニヤニヤしたラストワンが、木剣を俺とフルーレのお嬢ちゃんに放った。おま、いつの間に木剣用意してんだよ!?
木剣を手に取ると、フルーレが構える。
いやここ、大会議室!! そりゃ百人以上の規模で会議やっても広いし、スペースあるけどさ!!
「では、始めっ!!」
おま、ラストワン!! なに勝手に始めて───。
「シッ!!」
「おわぁ!?」
いきなり目を狙った突きを躱した。
「『
「げっ」
連続突き。
エドワド爺さんの得意技。でも……速度も精度も、爺さんの比じゃない。
こりゃ食らったらかなり痛い。狙ってるの顔だし。
「『開眼』」
仕方ない、捌き落とすか。
俺は『神眼』を発動。フルーレの突き全てがスローに見える。
全て、綺麗な正面突き……でも、腕は一本だし、引いては突いて、引いては突いての繰り返し。
だが、速度が桁違い──大したもんだ、この若さで。
「ほいっ」
「え!?」
パコン、と。
剣が伸びた瞬間、手首に木剣を当てて叩き落した。
思った通り、剣を握る手に力が入っていない。脱力……この状態が、これだけの速度で剣を突ける理由だった。力の流れを見てすぐにわかったよ。
俺は、落ちた木剣を拾って言った。
「ほい、俺の勝ち」
「な、な……」
「ふふ、世間知らずのお嬢さん。あなたには第六位っていう、分厚くて高い壁があるようねぇ」
「おいアナスタシア、煽んなよ」
「いーい勝負だったぜ!! よしラス、飲みに行こうぜ。エドワド爺さんもどうだ? 送別会、やってやるよ」
「そりゃ嬉しいの。ではでは、行こうかの」
「あん。あたしも行くわよ」
というわけで、俺、ラストワン、アナスタシア、エドワド爺さんの四人で飲むことになった。
俺を含め、大会議室に残され、歯を食いしばって震えるフルーレを、誰も見ようとしなかった。
爺さんだけは一瞬気にしたけど……まぁ、天狗になってる孫が、自分を見つめ直すチャンスだしな。
さて、とりあえず美味い酒でも飲みますかね。
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