脇役剣聖ラスティス・ギルハドレッドVS天才剣聖ランスロット・ヴァルファーレ①

 俺とランスロットはステージに上がった。

 俺の手には『冥狼斬月』が、ランスロット手には愛剣……名前は確か、『天聖剣アロンダイト・シン・オートクレール』とかいう、クソ長い名前だった。

 両刃の片手剣だが、柄も、鞘も、刀身も豪華な装飾が施されている。刀身の色は淡く輝く黄金で、オリハルコン超越石とかいうオリハルコンの数十倍の硬度を持つ鉱石から造られた……あー、別にランスロットの剣なんてどうでもいいか。

 ランスロットは、冷たい眼差しをしている。


「あなたの筋書き通り、ですか」

「ま、そうだな。お前と戦うのは、俺のシナリオ通りだ」

「……狙いは、騎士団を解散させないため、ですね」

「それもある」

「……他に理由が?」

「ああ。ま、調子に乗ってるお前を叩き潰すってとこだ。ランスロット……お前が増長してるのに止めなかった俺にも責任がある。だから、ここでお前を止める」

「く、ハハハハハハッ!! 止める? まるで私が悪事を働いているような言い方だ」

「…………」

「ああー……そういうこと、ですか」


 ランスロットはクックと笑い、髪をかき上げる。

 そんな仕草も様になっている。何故か、観客席にいる女性騎士や兵士が「キャーッ!」と黄色い声援を送った。


「その剣の元になった『冥狼ルプスレクス』の討伐……それを、横取りした件ですか」

「…………」

「フフフ。十四年前の件……もし私が乱入しなければ、あなたが『七大魔将』を討伐した英雄となり、爵位を得たでしょうね」

「あいにく、俺は田舎暮らしが合ってる。俺が言いたいのは、なんであの時、後方待機だったお前が最前線に、しかも俺とルプスレクスの戦いの場にいたか、それを聞きたい」

「そんなの、決まっていますよ。討伐功績を奪うためです」


 俺とランスロットの会話は聞かれていない。

 ここで、団長が手を上げた。

 俺、ランスロットは構えを取る。

 観客席が静まり返る。観客たちも緊張しているのか、震える者、汗だくな者と多くいた。

 いい刺激になる……そう言ったけど、これは刺激が多すぎるかもな。


「───試合、開始!!」


 団長の合図と共に、俺とランスロットの試合が始まった。


 ◇◇◇◇◇◇


 抜刀したランスロットは、特に小細工もなく真正面から向かってくる。

 俺は開眼。ランスロットの動きを見ながら剣で受ける。

 こいつとは、まだ話すことがある。

 サティ、イフリータの剣戟がノロく見えるくらい、俺とランスロットの剣戟が始まる。

 

「弱冠十二歳で七大剣聖、大したもんだと思ってた。でも……お前の目を見て思ってた。お前の目は、人を殺すのに何のためらいもない、冷酷な暗殺者のソレだってな」

「それが何か?」


 剣と剣がぶつかり合う。

 今のところ、ランスロットはスキルを使用していない。


「お前が執着しているのは、『権力』だ。そして『力』」


 ランスロットの動きは、イフリータの数倍以上の早さ。

 剣の鋭さも並みじゃない。ただの身体能力だけで、ランスロットは鉄の塊を容易く両断できる。

 天才剣士。アルムート王国では団長以上に強いかも、なんて噂されている。


「ランスロット……俺さ、一つ思い出したことがあるんだ」

「はて、何でしょうか」

「ヴァルファーレ公爵家」

「我が家が何か?」


 俺は刀を納刀。ランスロットの斬撃を鞘で受け止める。

 ランスロットとわざと顔を近づけ、小声で言った。


「俺の『神眼』は、いろんな物が見える。魔力の流れ、力の流れ……あと、『生気』って言えばいいのかな。たぶん、魔力とかは別の、生命力みたいな物だと思う。俺には、それが見える」

「……?」

「生気は人によって色が違う。指の指紋、声と同じで、同じ物を持つ人間は存在しない」

「…………」

「俺は昔、ヴァルファーレ公爵家に行ったことがある。その時……お前に会ってるんだよ」


 気のせいだと、思ってた。

 俺も十六歳だったし、スキルを完璧に使いこなしていたわけじゃない。

 それに、ルプスレクスの件もあり、忘れていたことだ。


「俺が十五の時に出会ったランスロットの生気は淡いオレンジ色だった。でも……今のお前は、氷みたいに真っ青なんだよ。生気の色を変えることなんて、何をしようが絶対に不可能だと断言できる。生気は命の色だからな」

「…………」


 もう、目を逸らせない。

 俺は、ランスロットをまっすぐ見て言った。


お前・・本当に・・・ランスロットなのか・・・・・・・・・?」


 次の瞬間、ランスロットの『神スキル』が発動した。


 ◇◇◇◇◇◇


 ランスロットの『神スキル』が発動。

 俺は抜刀する。


「『閃牙せんが』」


 バギン!! と、見えない何かを俺は両断した。

 ランスロットの顔が、長い髪に隠れてよく見えない。

 だが───恐るべき冷たい声が、聞こえてきた。


「ラスティス・ギルハドレッド。あなたは──ここで、殺さねばなりません」

「図星かい」


 俺は刀を肩で担ぐ。

 ああ、やっぱそうか……こいつ、ランスロットじゃない。

 ランスロットに成り代わっている何者かだ。


「このことは、俺しか知らない。理由はわからんけど……証拠も何もないからな」

「…………」

「別に、それはどうでもいいんだ。ランスロット……お前、何がしたいんだ?」

「…………」


 ランスロットは剣を構え、真横に振った。


「『聖空剣エアレイザー』」

「!! ──『飛燕ひえん』!!」


 俺も剣を薙ぐ。すると、俺とランスロットの間で何かが爆ぜ、空間が軋んだ。


「ランスロット、お前……」

「『聖光剣アークレイザー』」

「ッ!! 『大開眼だいかいがん』!!」


 ランスロットが剣を掲げると、見えない斬撃・・・・・・が上空から降りそそぐ。

 俺の目は見ることができる。ランスロットの『見えない斬撃』を。

 俺は横っ飛びして躱すと、ステージにいくつもの斬撃が刻まれた。


「久しぶりに見たぜ、お前の『神剣』」


 ランスロットの神スキル、『神剣しんけん』。

 この能力は、あらゆるモノを斬る。

 空気も、オリハルコンも、水も、火も、風も。

 ランスロットは斬撃に載せ、あらゆるモノを斬る。その気になれば俺の『飛燕』みたいに空間も斬れるだろうな。

 そして、その斬撃を見ることができるのは、俺の『神眼』だけ。


「───あなたは、盗みをしたことが、ありますか?」

「……あ?」

「パンのひとかけらを求めて殺しをしたことは? 泥水を啜ったことは? 自分を慕う者が疫病に侵され何もできず看取ったことは?」

「…………」

「あなたは、地獄を知らない──『神地剣グランレイザー』」


 ランスロットがステージを斬り付けると、地面を巻き込みながら斬撃が飛んでくる。


「『閃牙』」


 俺は抜刀、地面とランスロットの斬撃をまとめて斬った。


「私が求めるのは、『権力』と『金』と『力』です」


 ランスロットが急接近。

 今までのが遊びと思えるほど高速の斬撃を振るう。

 俺も負けじと、全ての斬撃を受け流す。

 そして、ランスロットの打ち下ろしを真正面から受け、鍔迫り合う。

 小声で、俺にだけ聞こえるように言う。


「そうです。あなたの想像通りですよ……!! 私はね、名前もない孤児でした。たまたま偶然、私と同じ顔をしたヴァルファーレ公爵家の子息を見つけ、殺し、成り代わった……!!」

「……ッ」


 ギチギチと、刀身が擦れる音がする。


「欲しかったものは手に入った。公爵家の財産、神スキルの力、そして間もなく騎士団を統一し、私がこの国で最強の『力』を手に入れる。ラスティス・ギルハドレッド……アナタ如きに、邪魔されるのは腹立たしいんですよ」

「…………」


 剣が離れ、俺とランスロットの距離が開く。

 なんというか──まぁ、そういうことか。


「そっか」

「…………?」

「お前、ガキなんだな」

「……何?」


 意味がわからないのか、ランスロットの眉が寄る……眉間にしわが寄っても、イケメンはイケメンか。


「欲しいからって、手に入れるために好き放題やるのはガキだって言ってんだ。騎士団はお前のオモチャじゃない。まぁ、神スキルは元々持ってたモンだからいいとして……私利私欲のために好き勝手やるんじゃねぇよ」

「……」

「ランスロット。お前はガキだ。苦労したんだろうし、辛いことも多かったんだろう。でも……お前を叱ったりする大人が近くにいなかったから、お前はこんなに歪んじまった。俺も人に説教できるほど偉くもないし、人生経験あるワケじゃねぇ。でも……お前が増長してるのを、見て見ぬふりをした責任はある」

「責任? はっ……ルプスレクスの功績なぞ、力を得るための足掛かりに過ぎない。お前に責任だと? 偉そうなことを言うな」

「ルプスレクスは関係ねぇよ。お前が真横から飛び掛からなかったら、俺はきっとあいつを逃がしてた。もしあいつが逃げてたら、俺は今でも正しいことをしたのか、間違っていたのか悩んでたと思う」

「……」

「ランスロット。俺は今からお前を叱る」


 俺は構えを取る。


「七大剣聖序列六位『神眼』ラスティス・ギルハドレッド。さぁ、説教の時間だぜ」

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