脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。~自称やる気ゼロのおっさんですが、レアスキル持ちの美少女たちが放っておいてくれません~
脇役剣聖ラスティス・ギルハドレッドVS天才剣聖ランスロット・ヴァルファーレ②
脇役剣聖ラスティス・ギルハドレッドVS天才剣聖ランスロット・ヴァルファーレ②
ボーマンダは、両腕を組み眉間に皺を寄せ、試合を見ていた。
フルーレがボーマンダをチラリと見て言う。
「団長。どちらが勝つと思いますか?」
「ラスティス・ギルハドレッドだ」
即答。
アナスタシア、ラストワンを見ると、二人とも頷く。
そして、ラストワンが言う。
「オレは七大剣聖になってけっこう経つけどよ……ラスが攻撃を受けたところなんざ、見たことないぜ」
「私も。何度もラスティスに挑んだけど、一太刀も当てられなかった」
フルーレはロシエルを見る……が、ロシエルは興味がないのか読書していた。
ロシエル。顔半分をマフラーで隠し、帽子を深く被っている。答えを期待しても無駄なのでボーマンダを見ると、フルーレをチラリと見て応えてくれた。
「神スキル『神眼』……お前たちは、どこまで知っている?」
フルーレだけではない。アナスタシア、ラストワン、ついでにロシエルにも向けた質問だ。
四人は答えない。何となくだけでは、答えられない。
「奴に見切れない攻撃は存在しない。ワシの攻撃ですら、ラスティスは完全に回避する。ランスロットの攻撃は当たらんだろうな……」
「……今更だが、ラスの奴、マジでスゲェな」
「ラスティスは、ワシらのような派手な技こそない。奴の目は全てを見切るが、それだけ。実質的な攻撃は、あの手に持った剣だけだ。ラスティスを倒すなら、両腕を落とすか、奴の目を上回り反応できない速度で技を出すしかない。ワシが知る限り、それを実行できたのは七大魔将『冥狼ルプスレクス』だけだ」
ここまで言い、フルーレたちは黙り込む。
こうして会話している間も、ラスティスはランスロットの攻撃を躱し続けている。
躱し、剣で受け、流し、鞘で受け、鞘で流し──ランスロットの攻撃が激しさを増すが、ラスティスは未だに躱し続けていた。
「……アナスタシア、あれ躱せるか?」
「全ては無理ね。いくつかもらう覚悟なら、止められる」
「オレも。団長は?」
「止めることは容易い。だが、腕の一本は覚悟せねばな」
「…………」
フルーレは、冷や汗を流す。
ボーマンダたちは軽く言う。だが、フルーレにはランスロットの剣がブレてるようにしか見えない。
自分は、七大剣聖で最弱。それどころか、遥か格下。絶望的なほどに。
だが───フルーレは、諦めない。
「私だったら、避けながら止めるわね」
「あらお嬢ちゃん、それが今のあなたにできるのかしら?」
「今は無理。でも、いずれ必ず」
「……そう。ふふっ」
アナスタシアは笑い、眼鏡を取りハンカチで拭いた。
いつか必ず追いつく。いや、追い越して見せる。
ラスティスとランスロットの戦いは、兵士や騎士だけでない、フルーレをも燃え上がらせていた。
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
ランスロットの連撃は速さ、鋭さが増していく。
まだ本気じゃないとは思っていたが、ここまで速いとは。昔よりかなり強くなっている。
才能──間違いなく、ランスロットは剣の天才だ。
「『
ランスロットが空間を薙ぐと、見えない斬撃が飛んでくる。
しかも、一つじゃない。いくつもの斬撃が俺の視界を埋め尽くすように放たれた。
俺は抜刀の構えを取る。
「『
だが、俺が抜刀すると、斬撃が全て消え去った。
「その斬撃……私と似ていますね」
「パクリじゃないぞ。というか、お前が真似したんじゃないのか?」
「さぁ、それはどうでしょう」
「まあいいか。さて──ランスロット、俺も手ぇ出すからな」
構えを取ると、ランスロットも構えを取る……が、知らない構えだ。
剣を前に突き出し、まるで槍を構えるような。
「『
「!!」
体重を乗せた突き刺し攻撃。
俺は剣を抜き、向かってくるランスロットの剣の切っ先に、自分の剣の切っ先を合わせて止めた。
カチカチと、切っ先同士が押し合いをする。
「ラスティス。私は間違っていますか? ヒトは皆、力、権力を求めるものでしょう? スラム街に行ってご覧なさい。そして、聞いてみたらどうです? 力が欲しいか、権力、金が欲しいか、ね」
「お前は間違っちゃいない。でもな、間違ってるのは手段だ。なりふり構わない、人に迷惑かけてやる方法は、欲しいモンを求める時に取っちゃいけない手段なんだよ」
切っ先が離れる。
ランスロットは剣を薙ぐ。
「『
「!!」
どういう原理なのか、ランスロットの剣が燃え、斬撃を飛ばしてきた。
俺は『閃牙』で炎を消し飛ばすと、ランスロットがすぐ近くにいた。
炎を目くらましにして、急接近していたのか。
「『
「『閃牙』」
ほぼ同時に繰り出される無数の斬撃を、俺は抜刀術で全て斬り伏せる。
「……本当に、あなたの目は厄介ですね」
「避ける、見るは得意なんだよ。ま、派手な技とかないけどな」
ランスロットは俺から距離を取り、剣を上段に構える。
「ランスロット。お前は、欲しい物を手に入れた時、どう思った?」
「何……?」
「ヴァルファーレ公爵家の後を継いで、財産を手に入れて何をした? 七大剣聖の序列二位になって何をした? アロンダイト騎士団を作って何をした? お前は、お前が欲しかったモンを手に入れて何を思った?」
「…………」
ランスロットの表情が、徐々に歪んでいくのがわかった。
俺の言葉を聞きたくないのか。それとも、聞いたうえで否定したいのか。
俺は──一番聞きたいことを、聞いてみた。
「ランスロット。お前は──今、幸せか?」
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
幸せ。
幸せとは、何だろうか。
ランスロットは、ラスに『幸せか』と聞かれ、胸に杭が刺さったような気がした。
幸せか、どうか。
そもそも──何のために、権力を、力を得ようとしたのか?
答えは一つ。自分のため。
最底辺にいた自分が、〇〇になるために必要だから。
「───えっ」
最低辺にいた自分が、〇〇になるため。
ランスロットは、自分が何を求めていたのか、ラスの言葉に揺さぶられ思い出しかけていた。
〇〇になるため。
「───……しあわ、せ?」
自分が幸せになるため、力が必要、権力が、金が必要だった。
金は、公爵家を継いでから不自由しなくなった。
権力は、アロンダイト騎士団の団長となり、陛下と殿下も一目置くようになった。いずれはアルムート王国騎士団も吸収し、王国最強の騎士団長の地位が待っている。
力──『神スキル』は、自分にスキルがあることを知ってから、毎日欠かさず鍛錬した。
欲しい物は、手に入りつつある。
でも……自分は今、幸せなのか?
そして、再び……ラスの言葉が刺さる。
「ランスロット。お前さ、欲しいモン手に入れてきたんだろ? でも……お前さ、全然笑ってないぞ。俺にはわかる。いつもの薄っぺらい作り笑顔しかしてない。お前……幸せじゃないだろ?」
ランスロットは、自覚してしまった。
欲しい物を手に入れた後の自分が、全く想像できなかった。
揺らぐ。揺らいでしまう。
「ランスロット。お前さ……本当に欲しい物は、別にあるんじゃないか?」
聞きたくない。
それ以上、言わせたくない。
ランスロットの剣を握る手に、力が入る。
「ずっと思ってた。お前さ……アロンダイト騎士団を作る時、なんでわざわざ団員を養子に迎えた? 別に、スキル持ちなら団員にスカウトするだけでいいだろ。もしかしたらお前さ……」
「───めろ」
ランスロットの口から、小さく声が漏れた。
だが、ラスは止まらない。
「お前は、家族が欲しかったんじゃないか? 力が、権力が、金があれば、本当に欲しいものを手に入れることができる。そう、考えたんじゃ」
「黙れェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!」
絶叫した。
ランスロットの顔が歪み、恐るべき力が剣に集約する。
空気が振動する。会場が揺れる。
全てを拒絶するような、強烈な殺気。
ラスは───笑った。
「ようやく、お前の素を見れた。ははっ……なんか、安心したよ」
そう言い、ラスは剣の柄に触れた。
ランスロットはラスに、いや、ラスの周囲全てを塵にしてしまう斬撃を放つ。
斬撃の数、実に九千八百。これらがほぼ同時に放たれれば、回避は不可。防御も付加。
ランスロット、最強の斬撃がラスを襲う。
「『
ボーマンダが立ち上がる。
フルーレも、アナスタシアも、ラストワンも。
この斬撃は危険だと、本能で理解する。
「逃げ」
ラストワンが叫ぶが、時すでに遅し。
ラスと、その背後にいる兵士や騎士が、塵と化してしまう。
何をするにしても、手遅れ。
そして───フルーレは見た。
ラスティスの背後。そこに、サティとエミネムがいた。
医務室から、ラスを応援するために出てきたのだ。
「師匠!!」
「ラスティス様!!」
ラスティスは──ニカッと微笑んだ。
「『
ラスティスの瞳が、青く輝いた。
輝く、いや……まるで、地獄の炎とされる青炎のような色。
◇◇◇◇◇◇
「『
◇◇◇◇◇◇
斬撃が消滅し、ランスロットがボロボロの状態で吹き飛び、気が付けばラスティスが今まさに刀を納刀しようとしていた。
「え?」
フルーレがポツリと呟いた瞬間、ランスロットがステージに叩き付けられ、ランスロットの剣がクルクル回転しながら落下、激しい音を立てて転がった。
そして、ラスティスはポツリと言った。
「悪ガキめ。反省しろよ」
こうして、何が何だかわからないまま、ランスロットは敗北した。
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