脇役剣聖、見守る

 トカゲの群れを倒した後も、サティたちは順調に魔獣を倒し進んだ。

 まぁ、このダンジョンは序の口。あと十五日で挑むダンジョンの数は七つ。少しずつ、レベルを上げていく。最後のダンジョンをクリアできれば、最底辺の上級魔族と戦えるくらいにはなる……はず。

 現在、森の奥に向けて進んでいると、サティが言う。


「あの、師匠……もうすぐ夕方ですけど、このまま進む感じですか?」

「ああ。ここは序の口だからな。今日中にクリアする」

「帰りはどうするんです? 引き返すとなると、夜になっちゃいますけど」

「このダンジョンの最奥から、外に出る道がある。ささ、そろそろ最奥だぞ。サティ、フル-レ、エミネム」

「「は、はい」」

「……あなた、なんでニヤニヤしているのかしら」

「ふふん。ここまで順調だったけど……最後はそうはいかないぞ」


 森を抜けると、広場に出た。

 木々が根元から抜かれ、山積みになっている。

 いや……山積みになっているんじゃない。


「大木が、山積みに……?」

「違うわ。あの積み方は意図的なもの」

「まさか……あれ、家ですか?」


 エミネムは気付いた。

 木々の積み方が、まるで丸太小屋のような形になっている。

 しかも、その数は三つ。


『ゴルルルルルル……』

「「「!!」」」


 丸太小屋の一つから、赤い体毛の巨人が現れた。

 全身が、赤い体毛に覆われている。肌の露出がない、完全な『毛むくじゃら』だ。


「何、こいつ……!!」

「フル-レさん、サティさん!! 一体だけじゃありません!!」

「「!!」」


 フル-レが驚くのも束の間。

 残り二つの歪な丸太小屋から、青い体毛、白い体毛の巨人が現れた。

 サティが唖然とする。


「な、なに、こいつら……!? きょ、兄弟!?」

「『トリコロール・ジャイアントフッド』だ。必ず三体で行動する大型の下級魔族。今のお前らにはちょうどいい」

「面白いわね───」

「ちょっと待った」

 

 飛び出そうとするフル-レを止める。


「フル-レは赤、サティは白、エミネムは青と戦え。それぞれ、自分の弱点が見えてくるはずだ」

「「「……え」」」

「ほい、戦闘開始!!」


 俺が手をパンパン叩くと、ジャイアントフッドたちが揃って雄たけびを上げた。


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


 とりあえず、サティは言われた通りに白いジャイアントフッドへ向かって走る。

 全長十メートルほどの巨人。サティにとっては『歩く的』だ。

 長刀、短刀を抜いて腕を交差させ、雷を通る。


「『雷十字斬ジガ・クロス・トール』!!」


 十字に飛ぶ雷の斬撃。

 サティは、磁力を制御できるようになってから、雷と磁力の技をかなり増やした。実戦で使うのは初めての技も多いが、村で岩石や巨木相手に試したら粉々になったこともある。


『スゥゥゥッガァァ!!』


 白いジャイアントフッドが吐き出したのは、氷柱。

 氷柱と飛ぶ斬撃が激突し───サティの雷が搔き消された。


「えっ……嘘!?」


 サティは横っ飛び。氷柱をギリギリで回避する。

 もう一度、雷を剣に込めて技を繰り出すが、氷にかき消されてしまった。


「な、なんで……あたしの技、通じない!?」


 サティは気付いていない。

 純粋な、不純物のない氷は、電気を通さないということに。


 ◇◇◇◇◇◇


「くっ……」


 フル-レの周りは、水浸しだった。

 赤いジャイアントフッドの吐く炎で、フル-レの氷が、あらゆる技が無効化されている。

 直接的な攻撃をしようとしても、細剣ではダメージがほぼ与えられない。しかも、ジャイアントフッドの体温が高く、近づけない。


「参ったわね……!!」


 決定打を与えられず、フル-レは氷を生み出し、炎を防御していた。


「相性……ラスティス・ギルハドレット、あなたの言いたいこと、わかったかも」


 フル-レは気付いた。

 自分の弱点。それは、攻撃のほとんどをスキルに依存している。純粋な剣技は、細剣では人間相手でも決定打を与えられない。つまり……遠距離の炎属性に弱い。

 赤いジャイアントフッドは、フル-レの天敵でもあった。


「本当に、嫌な奴……でも、面白いじゃない!!」


 フル-レは細剣を握り、ジャイアントフッドに向かって走り出した。


「見せてあげる───『氷上スケートリンク』!!」


 フル-レが剣を振るうと冷気が発生、地面が一瞬で凍り付く。

 フル-レは、氷の上を滑るように移動。ほんの一瞬だが、フル-レの氷が赤いジャイアントフッドの熱を上回る。

 赤いジャイアントフッドは、豪快に滑って転んだ。


「『氷上三回転トリプルアクセル』!!」


 フル-レは滑り、赤いジャイアントフッドの顔まで移動。

 跳躍し、身体を回転させた。

 そして、回転したまま細剣を氷で硬め───回転の勢いを利用し、一気に突き刺した。


「『三回転突きアクセル・トゥシュ』!!」


 ズドン!! と、赤いジャイアントフッドの頭に、フル-レの氷剣が突き刺さった。

 赤いジャイアントフッドは白目を剥き、起こしかけた頭がまた、地面に落ちるのだった。


「大技ばかりじゃない。剣技もあるのよ」


 フル-レはそう呟き、フンと鼻を鳴らすのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


「くっ……やり、にくい!!」


 風の力で飛び上がろうとするが、青いジャイアントフッドの吐き出す大量の『水の玉』によって、空中に飛び上がることができないエミネム。

 エミネムも、フル-レ同様に、自分の弱点に気づく。


「さすが、ラスティス様です……」


 ラスティス様は、すぐに気づいたのだろう。

 エミネムは、空中戦が得意だ。風の力で身体を浮かべ、槍による奇襲を得意としている。

 だが、その上空への道が塞がれれば、否応なしに地上戦を強いられる。

 もちろん、地上戦は不得意ではない。槍と同じくらい剣技も磨いているし、地上で使う槍技だっていくつも習得している。

 だが、自分の真骨頂は、風を纏っての空中戦。最も得意な土俵を封じられたことは、エミネムにとって屈辱感があった。


「いいでしょう。私の槍を、見せてあげます」


 エミネムが槍を構えると、周辺に小さな風の渦がいくつも巻き起こる。

 そして、その風がエミネムの槍に絡みつき、エミネムの手から離れた。


『ゴォルルルゥゥオオォオォオォ!!』


 口から大量の『水玉』を吐き出す青いジャイアントフッド。

 そして、エミネムの周囲にはさらに風が舞い───エミネムは、両手を前に突き出した。


「『旋風つむじかぜ螺旋槍らせんそう』!!」


 渦巻く風を纏った一本の槍は、水の玉を弾き、貫通しながら飛び───青いジャイアントフッドの脳天を貫通、頭が吹き飛んだ。

 槍は、風に誘導され、エミネムの手に戻る。


「槍は本来、投げる武器です。空中戦だけじゃない、地上戦でも、私は強いんですから」


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


 フル-レ、エミネムは自分の弱点を理解し、それを上回る技を見せた。

 だが、サティはまだ戦っている。


「気づけ、サティ……お前は、まっすぐすぎる。目の前しか見えていない。もっと柔軟な思考で戦うんだ……気付け、サティ」


 ボソボソ呟いてしまうが、サティは気付かない。

 サティ……雷を氷で防がれ、なぜ防がれたのか、どうすれば雷が通じるのか、それしか考えていない。雷が効かないなら磁力を使えばいいのに、そうしない。

 柔軟な思考───それができないのが、サティの弱点。 

 それを乗り越えれば、サティはまだまだ強くなる。


「くっ、なんで……あたしの、雷が効かないなんて!!」


 だから、雷が効かないなら、それ以外の手を使うんだって!!


「だったら、もっと出力を上げて……!!」


 あーもう……脳筋的な解決法じゃ、絶対勝てないってのに。


「くっ、効かない!! どうしよう!!」

「あーもう!! サティ!! お前の力は、雷だけじゃないだろうが!!」

「えっ? あ……そ、そうか!!」


 ようやく気付いたのか、サティは短刀を掲げた。


「『雷磁集鉄バンキング』!!」


 磁力の力場を生成。すると、鉄を含んだ小石、砂鉄などがサティの周囲に集まる。

 

「雷がダメなら、磁力!! そっか、あたし、拘りすぎてたかも!!」


 サティはようやく悟り、磁力を操る。

 空中で水のように揺らめく砂鉄を、白いジャイアントフッドに向けて放つ。


「『流砂鉄サービア』!!」

『ウオォォッ!?』


 砂鉄が白いジャイアントフッドの顔にくっつくと、そのままガッチリと固まった。

 白いジャイアントフッドは顔をかきむしるが、砂鉄は取れない。

 徐々に動きがなくなり、そのまま後ろに倒れてしまった……呼吸不全による窒息だ。

 サティは剣を掲げる。


「やった!! あたしの勝ち!!」

「かなり、ギリギリだったけどな」

「あ、師匠!! 師匠、助言ありがとうございました!!

「ああ。でも、本当なら自分で気付いてほしかったけどな」

「うぐ……」

「ま。三人とも倒せたし、よしとするか」


 とりあえず、最初のダンジョンはこれにて終了!! 三人とも、いい感じに戦えたと思う。

 でも……試練は、まだまだこれからだ。

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