脇役剣聖、三人娘とダンジョンへ
王都から出て数時間歩き、ちょうどいい木陰で休憩をする。
俺は地図を開き、現在位置を確認して全員に言う。
「あと一時間も歩けば、最初のダンジョンだ」
「え、師匠。最初って……」
「闘技大会は二十日後。十五日くらいはダンジョンに潜る。それと、お前たちの今の実力を考慮した、お前たちが魔獣と戦ってギリ負けるくらいのダンジョンに挑む」
「ぎ、ギリ負ける……?」
「ああ。ギル負けるけど、ギリ勝てる。それくらいのダンジョンだ」
「……」
サティがごくりと唾をのみこむ。
「し、死にはしない……ですよね?」
「ああ」
「……信用するから」
「おう。というかフル-レ、お前も参加するか? 別に参加してもいいぞ」
「……まぁ、いいけど」
「私は、ラスティス様を信じます!!」
「うんうん。エミネムは可愛いなぁ、よしよし」
「ひゃぁぁ!? あわわわわ……」
思わずエミネムを撫でてしまった。なんか可愛くてつい。
すると、フル-レが冷たい目で言う。
「団長に報告するから」
「え!?」
「あなたがエミネムに変なことをしないか、見張りも兼ねてるからね」
「マママ待て!! 今のはその、かわいくてつい」
「かかか、可愛い……えへへ」
「あの~、そろそろ行きませんか?」
ダンジョンはすぐそこ、さて、気合を入れなおそう!! ……団長に報告だけは勘弁してくれ。
そしてようやく、一つ目のダンジョンに到着した。
森の入口。だが、俺からするとドス黒い魔力が渦巻き、奥に進むに連れて『濃さ』が増しているような感覚にとらわれる……ここ、少し危険かもしれん。
「ここね。サティ、エミネム、準備はいい?」
「はい!!」
「はい。いつでも行けます」
「じゃ、行くわよ」
そう言い、フル-レを先頭に森へ踏み込んでいく三人。
俺は少しだけ離れ、サティたちが本当にヤバイ時だけ力を貸すことにした。
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
三人は武器を抜かず、周囲を警戒しながら森に入った。
前にサティ、中にフル-レ、後ろにエミネム。
サティは双剣、フル-レは細剣、エミネムは槍。
特に打ち合わせることなく、この陣形で進んでいた。
「……何か、嫌な感じがします」
「同感」
「わかります。粘つくような、気持ちの悪い……」
エミネムが言い切る前に、フル-レは剣を抜いた。
「サティ!!」
「!!」
「『
ボッ!! と、フル-レが剣を突き出すと、細剣の先端から氷の矢が飛んだ。
サティの真横にある木の幹に突き刺さると、『ギャッ』と鳴き声が聞こえ、ボトリと何か落ちる。
それは、中型のトカゲ。全長一メートルはありそうなトカゲが、木の幹に擬態していた。
「構え!!」
フル-レの声にエミネムは反応、サティが遅れて抜刀する。
エミネムは軍で教育を受けていたので、階級が上の人間には自然と従うクセがついていた。一方サティは、騎士団で生活していたが、特に軍規が厳しかったわけではないので、反応がやや遅い。
「───……囲まれています!!」
エミネムは、槍を回転させ風を発生させる。風に当たったトカゲたちが一斉に擬態を解き、まるでゴキブリのような素早さで木に登り、上空からサティたちを睨んでいた。
「面倒ね……とりあえず、バラけて対処しましょうか」
「ええ。私もその方がいいかと」
「え、え……一緒に戦わないんですか?」
「おばか。私たちは、チームで戦う訓練をしに来たんじゃないの。それに、私もあなたもエミネムも、スキルの力こそ理解しているけど、どんな技を使って、どんな戦い方をするのかもわからない。打ち合わせてもいないのに、協力して戦うなんてできないわ」
「同感です。それにサティさん……私たちが挑む闘技大会は、個人戦です。今は、個人の技量を磨くべきかと」
「……うー、わかった」
三人は、ばらけるように走り出す。
そんな三人を見て、少し離れた木の上にいるラスは言った。
「ザコは任せるぞ。俺は、こっちを倒すから」
ラスの背後には、トカゲたちのボスである、全長二十メートルほどのオオトカゲがいた。
「ま、普通なら『協力しろ』とか『仲間を信じろ』とか臭いセリフ吐くんだろうけど……戦うのは、あくまで個人。今は、自分の精一杯を出し切れよ」
そう言い、ラスはオオトカゲに向かって歩き出した。
◇◇◇◇◇◇
サティは、双剣を手に走り出す。
「『
双剣に雷を流すと、刀身が銀色に輝きだす───これにはサティも驚いた。
「すごい」
まるで、雷を流すために生まれてきた剣。
長さの違う剣。最初は扱いにくいと思ったが、いざ使うとなるとしっくりくる。
サティはトカゲが逃げた木に足をかけ、一気に飛びあがる。
すると───見つけた。木の枝に擬態し、サティを迎撃するために口を開けるトカゲが。
「だぁぁっ!!」
『!!』
トカゲの舌が伸びてきた。が、サティは短い方の剣で舌を薙ぎ払う。
そして、長刀でトカゲを縦に両断した。
「すごい切れ味……ありがとうございます。ローデリカさん!!」
サティは枝を足場にして、別のトカゲを斬るべく周囲を探す。
◇◇◇◇◇◇
フル-レは、特に急ぎもせずに、トカゲたちがいる周辺の木を見上げていた。
「上級魔族との戦いは無駄じゃなかったわ」
トカゲたちか、それともサティたちか。誰かに語り掛けるような口調で一人呟く。
「『
フル-レは、剣を地面に刺す。
そして、剣の柄に手を乗せ、魔力を一気に流し込んだ。
「氷結領域展開───『
次の瞬間、大量の『氷柱』が地面を突き破り、氷の壁を形成。
フル-レの半径二十メートルを、氷の要塞が包み込んだ。
「ここは、私の世界。さぁ───氷の世界で、あなたたちはいつまで耐えられるかしら?」
要塞の温度が、急激に低下していく。
フル-レには全く影響のない。領域内にいる者の体温を奪う。
すると、ボトボトと、半分凍り付いたトカゲが、木から落ちてきた。
「一分、持たなかったわね」
領域を解除───フル-レは、肩で息をする。
「これだけの規模の氷を同時に生み出して、さらに空間内の温度を下げる……今の私じゃ、二分が限界……ふふ、まだまだ強くなれるわ」
フル-レは、地面に刺した剣を抜いた。
◇◇◇◇◇◇
エミネムは、自分の手足に小規模の『竜巻』を生み出し、機動力としていた。
風の噴射による移動。『
風を細かく操作しながら、エミネムは空中を飛んでいた。
「ふっ!! はっ!!」
擬態しているトカゲに接近して、槍で一突き。
これを繰り返し、エミネムは確実にトカゲたちを始末している。
「擬態しても無駄です。私には見えていますので」
エミネムは、風を生み出すと同時に、周囲の風の流れを探り、違和感を探知していた。
違和感───それは、トカゲたちの『呼吸』である。
どんな生物も、呼吸はする。
呼吸している限り、エミネムの探知からは逃れられない。
「殲滅します!!」
槍を握り、エミネムはトカゲ目掛けて飛んでいく。
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
俺は、首を切断したオオトカゲの頭に座り、フル-レたちの戦いを見ていた。
「猪突猛進、超ド派手、安心確実……か。ふーむ」
この三人は強い。王国騎士相手にだったら楽勝で勝てる。
一番はやはりフル-レ。七大剣聖末席だが、今のサティとエミネムでは勝てないだろう。
二番目はエミネム。こちらは、スキルの細かい制御が上手い。
三番目はサティ。まぁ、粗削りだし、才能はあるが……やはり荒い。というか、声がでかい。
「どれ───『開眼』」
俺は目を開き、周囲を確認する。
「『鷹の目』」
開眼状態で使える技、鷹の目。
まぁ……『すっごくよく見える』だけの目だ。数百メートル離れたアリの歩行も見えるし、数キロ離れたオーガの昼寝も見える。
それで周囲を観察すると……見つけた。
「いたいた。面白そうな敵……さーて、次はそれぞれの弱点を知ってもらおうかな」
俺はトカゲの頭から飛び降り、サティたちの元へ向かうのだった。
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