脇役剣聖、鉱山調査へ向かう

 早朝。

 朝飯をしっかり食べた俺たちは、村の入口へ。

 そこには、アナスタシアが待っていた。


「遅い」


 アナスタシアは、七大剣聖に支給されるローブ、腰には剣を差している。

 ローブの下は、やや露出多めだ。胸元が開いたシャツに、パッツパツのズボンにロングブーツ。胸元が開いているせいで、胸の谷間がバッチリ見える。

 アナスタシアは相当な美女だ。胸も大きいしスタイル抜群……でも、俺はこいつをエロい目では見れないんだよな。子供の頃から一緒にいるわけだし。

 俺はアナスタシアに軽く手を上げると、サティ、エミネムがアナスタシアの前に出て頭をさげた。


「「アナスタシア様、ご指導宜しくお願い致します!!」」

「ふふ。そんな畏まらなくていいわ。道中、私に教えられることは教えてあげるから」

「「はい!!」」


 アナスタシアは手を伸ばし、二人の頭を撫でた。

 なんというか……『お姉さん』って感じだな。二人はどこかくすぐったそうに撫でられている。

 ちなみにヴォーズくん、俺の隣でデカいリュックを背負って立っていた。

 

「ああ、荷物……あなたにお願いしていいのかしら?」

「は、はひっ!!」

「ふふ、よろしくね」

「おっふぅ!! おお、お任せください!!」


 アナスタシアに微笑みかけられ、ヴォーズくんは真っ赤になりながら敬礼した。

 そして、アナスタシアのデカいカバンを、自分のカバンに入れる……すごいな、カバンの中にカバンが吸い込まれるように入っていった。


「よーし。じゃあ行くか。おいアナスタシア、どこから行く?」

「まず、一番近い南から。サティ、エミネム、道中の魔獣はお願いするわ。厄介なのが出たら、私とラスで相手をするから」

「「はい!!」」

「二人の『神スキル』の力、見せてもらうわね」

「「はい!!」」


 サティ、エミネム……元気すぎる。アナスタシアのこと、姉みたいに思ってるのかもな。


 ◇◇◇◇◇◇


 ハドの村から南に進むこと半日。

 ギルハドレッド領地がいかに開拓されていないのかを思い知る。

 

「ラス。あなた……もう少し真面目に、領地開拓に取り組んだら?」

「……悔しいが、何も言えん」


 俺たちが進んでいるのは、荒れた岩石地帯。

 大小さまざまな岩石が無数に転がる地域で、なんでこんな荒れているのかはわかっていない。

 岩と岩の間を縫うように進む。そして、アナスタシアは小さな岩を手に取った。


「純度の低い鉄鉱石……落ちているだけの石でこれだけの物が転がっているなんてね。ラス、やはりここは宝の山かもしれないわよ」

「現状維持だけで精一杯だったからな。帰ったらギルガたちと開拓について話してみるわ」

「その時は、うちの商会も噛ませてもらうからね」


 アナスタシアはクスっと微笑み、鉄鉱石を放る。

 

「師匠師匠!! ここ、あたしにとってすっごいいいところです!!」

「ん、どした」

「あのですねー」


 と、アナスタシアが叫ぶ。


「お喋りはそこまで。サティ、敵が来たわ」


 現れたのは、身体が岩で構成された魔獣、ロックリザード。

 そして、全長四メートルほどの岩石巨人、ロックゴーレムだ。


「はい!! よーし、見ててください師匠、アナスタシア様!! 行こう、エミネムさん!!」

「ええ。では、行ってきます!!」


 サティが飛び出し、双剣を抜く。

 そして、左の剣にいくつもの『薄紫色の球体』を作り出し、周囲の岩石にばら撒く。


「『雷磁集鉄バンキング』!!」


 すると、周囲の岩石──鉄鉱石が浮き上がり、くっついて巨大な『岩石』となった。

 サティはニヤッと笑い、それを振り回す。


「『大回転スピニング』!!」

 

 その場で回転し、ゴーレムたちを岩石で薙ぎ払うと、砕けたゴーレムたちも岩石にくっついてさらに巨大化。一番大きなゴーレムに向けて、岩石を叩き付けた。


「『鉄懐ヘクトン』!!」


 バゴォン!! と、派手な音を立ててゴーレムが砕け散った。

 サティは嬉しそうに振り返る。


「ここ、鉄がいっぱいあるんで、武器を作り放題です!! えへへ、楽しいっ!!」

「ほら、油断しない」

「あ、はい!!」


 アナスタシアに言われ、サティは双剣を構えてロックリザードに向かって行く。

 エミネムは、槍ではなく剣を抜き、剣に風を纏わせた。


「『空波刃くうはじん』!!」


 剣を振ると、風の刃が飛ぶ。

 サティが『豪快』なら、エミネムは『確実』な一撃を繰り出す。それにこの風の刃、よく力が練られたいい技だ。アナスタシアも頷く。


「二人とも、成長しているわね。闘技大会での経験、あなたの稽古でさらに強くなったのね」

「ああ。本当に強くなっている……っと、デカいの来たぞ」


 すると、巨大なゴーレムがこちらに向かって歩いてくる。

 大きさは十メートルくらいだろうか。恐らく、ここらのボスだろうな。

 俺は剣の柄を撫でながら前に出る。


「じゃあ、あいつは俺がやるか」

「待った。私がやるわ」


 と、俺を制してアナスタシアが前に出る。

 サティ、エミネムの近くまで行き、アナスタシアが言う。


「二人とも、強くなったわね。ふふ、私も少し、いいところを見せなきゃね」


 アナスタシアが剣を抜く。

 その形状を見て、エミネムもサティも訝しむ。

 そりゃそうだ。アナスタシアの剣は、刀身が見たこともない形状をしているんだからな。

 俺は二人を呼ぶ。


「よーく見とけ。あいつの戦いっぷりを」

「は、はい。あの……師匠、アナスタシア様の剣、見たことない形状です」

「刀身が、ギザギザしてます。何なんですか、あの剣は」


 俺は何も言わない。

 アナスタシアが剣を振る。すると、刀身がバラバラになり伸びた。


「蛇腹剣」


 俺が言うと、二人は首を傾げた。

 本当に理解できないんだろう。剣っていうのは、まっすぐな刀身が殆どだしな。


「あの剣は、小さな刃の集合体で、それぞれの刃が特殊な鋼線で繋がっている。柄にあるレバーで操作できるんだ……実はあの剣、暗殺用の剣なんだよ」

「「あ、暗殺……」」

「あいつが見つけた掘り出し物の剣でな。どうやら気に入ったらしく、愛用してる」


 アナスタシアが剣を振ると、バラバラになった刀身がゴーレムの身体に巻き付く。

 そして、柄をそっと指でなぞる。


「『序曲プレリュード』」


 すると、刀身が振動……ゴーレムが振動で粉々に砕け散った。

 唖然とする二人に俺は言う。


「アナスタシアの神スキル『神音』だ。あいつは振動、音を操る。蛇腹剣による変則的な剣技に、振動をブレンドした独自の剣技……理論上では、アナスタシアの『振動』で壊せない物は存在しない」

「す、すごい……」

「音、ですか……」


 驚く二人。

 アナスタシアは剣を鞘に納め、何食わぬ顔で戻って来た。


「もう少し耐えると思ったけど、『序曲』で終わったわ。意外に脆いのね」

「楽でいいだろ。よし、行くぞ」

「ええ。さ、二人とも、周囲を警戒しつつ進むわよ」

「はい!! あの、アナスタシア様……アナスタシア様のお話、聞きたいです」

「わ、私も……」

「はっはっは。慕われてるな、アナスタシア。よーし、ここは俺が警戒するから、お前は後輩たちにタメになる話でもしてやれ」

「何よそれ。まぁいいけどね」

「よし、ヴォーズくん、俺たちで周囲を警戒しよう」

「は、はい!!」


 サティ、エミネムの二人は、アナスタシアの話を聞きながら進むのだった。

 アナスタシアも、妹みたいな二人に慕われ、どこかまんざらでもなさそうに見えた。

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