脇役剣聖、可能性を見る
一つ目の鉱山に到着。
鉱山といっても、何の手も加えていないただの山だ。
鉱山周辺に落ちている岩をアナスタシアは拾い、ポケットから取り出したルーペで見る。
「……さっき落ちていた鉄鉱石とは比べ物にならない純度ね。やっぱり、宝の山」
俺にはただの石ころにしか見えない。
サティが石を拾ってヴォーズくんに見せているが、ヴォーズくんは腕を組んで首を傾げている。やはり知識がないとわからない。
アナスタシアが言う。
「ラス。あなたの剣で適当な岩壁を切り崩して。エミネム、サティ、切り崩した岩を外に運んで、ヴォーズくんは私が選んだ石をカバンに入れて」
指示が飛ぶ。
偶然だが、俺たちのスキルは鉱山発掘に向いていた。
俺は鉱山の岩壁を『閃牙』で斬り、サティとエミネムが磁力と風で外へ運ぶ。ある程度斬り進むと真っ暗になったので、アナスタシアが松明で周囲を照らす。
「……ここまでとはね」
「なぁ、俺にはさっぱりだが……すごいのか?」
松明で周囲を照らすと、壁一面が真っ黒だった。
最初はただの岩壁だったのに、少し斬り進むとこんな色になったのだ。
ちなみに、サティたちは外で待機。斬り進んだとは言え中は狭いからな。
「これは、ブラックメタル。高純度の鉄鉱石」
「ブラックメタル? 確か……アダマンタイトと同じくらい硬い石、だっけか」
「ええ。硬度だけでいえばアダマンタイト、オリハルコン、ダマスカスと、ブラックメタルより硬い素材はいくらでもある。でもね、ブラックメタルの魅力は『加工しやすい』ってところなの。熱すると柔かくなり、冷やすと鋼鉄以上の硬度を誇る。そして、一度冷やすと形状が固定され、どんな熱でも変形することはない。加工のしやすさ、硬度から、非常に需要の高い鉱石よ」
「長々と説明ありがとよ。で……そのブラックメタルが、この鉱山に?」
「ええ。現在、ブラックメタルを採掘できる鉱山は、アルムート王国では二つしか確認されていない。しかも、採掘量も少なく、他にいい鉱石がいくらでも見つかるから、売るとしてもそう高くない値段だけどね」
アナスタシアは落ちていた黒い石を拾う。
「ラス。領主としてのあなたに言うわ。ギルハドレッド領地の鉱山調査……本格的にやらせて欲しい」
「……俺一人がここで『いいぞ』とは言いにくいな。仲間と話し合っていいか?」
「当然。その話し合い、私も同席させてね」
「ああ、いいぜ」
「ふふ。そういえばフローネやミレイユは元気? ギルガには挨拶をしたけど、ホッジは?」
「みんなピンピンしてる。ギルガの野郎なんて右腕が義手になったせいで、俺にゲンコツ落とす時はさらに痛い」
「何それ。ふふ」
どこか上機嫌なアナスタシアと一緒に、洞窟の外に出るのだった。
◇◇◇◇◇◇
ハドの村に戻り、さっそくホッジ、フローネ夫妻を領主邸に呼んだ。
ギルガ、ミレイユも呼ぶと、アナスタシアは言う。
「ホッジ、フローネ、ミレイユ、久しぶり」
「アナスタシア。何年ぶりだい?」
「でっかくなったわね。あたしたちも歳を取ったわ」
「ふふ、立派な大人の女性、って感じね。小さなアナスタシアが懐かしいわ」
ミレイユに言われ、アナスタシアは恥ずかしそうに笑う。
ギルガがゴホンゴホンと咳払い。
「あー、懐かしいのはわかるが、大事な話があるそうだ」
「じゃ、俺から説明するぜ」
俺は鉱山で見つけたブラックメタル鉱石の話をする。
「───……ってわけで、本格的な鉱山開発をしたい。ギルガ、ミレイユ、フローネ、ホッジ。お前らの意見を聞かせてくれ」
と、まずはギルガが言う。
「鉱山があるのは当然知ってはいたが……まさか、宝の山とはな」
「まだ一つの鉱山しか調査していないわ。他の山も金山の可能性はあるし、空振りの可能性もあるわね」
「なるほどな。ギルハドレッドの新たな産業になる可能性もある、か……」
ギルガはウンウン頷く。するとフローネが挙手。
「個人的には賛成したいけど、現実を見ると厳しいね。鉱山開発ってのはタダじゃできないよ? 鉱山までの街道を開拓、魔獣だって出るし、人員だってかなり必要になる。先立つモンがないとねぇ」
「全てとは言わないけど、私の商会からも補助を出すわ。優秀な採掘者たちも知っているしね」
フローネは「うーん」と腕組み。
ホッジが言う。
「ボクは賛成かな。仮に借金をしても、未来への投資だと思えばいい。ブラックメタルなら、武器防具に加工すれば鉄や銅の剣よりも頑丈だし安価で買える。七大剣聖のラスが口添えすれば、王国軍の鎧兜に採用してもらえるかもしれないしね」
「おー、そういう考えもあるな。さすがホッジ」
「ふふふ、今夜はきみの奢りだよ」
ホッジが得意げに笑う。まぁ、先の話になるが、ブラックメタルを大量に発掘して、鎧兜に加工。団長に見せれば興味を持つかも。安定供給できるかどうかは課題になるけどな。
するとミレイユが言う。
「個人としては賛成だけど……お金、かかるのよね? 村や町の人たちの負担とか……」
「いきなりお金を出せとは言わないわ。今、ギルハドレッドで出せるお金を計算して出して、足りない分は借金か、税を少し上げて……」
アナスタシアは言いにくそうだ。
その件に関しては俺が言う。
「ミレイユ。その件に関しては、俺が領民たちに説明する。未来のために投資してくれ、ってな。当然、俺も出せるならギリギリまで出す」
「ラス……ふふ、そうね。ごめんなさいね、自分のことしか考えてなくて……」
「アホ。それでいいんだよ。領地のこと考えるのは、領主である俺の仕事だ」
とりあえず、意見は出た。
俺はみんなを見て言う。
「さて。お前ら……鉱山開発に賛成かどうか、答えを頼むぜ」
「オレは賛成だ。いずれ、手を付けねばならないとは思っていた」
「私も賛成。未来への投資、うちの子のためにも、今を頑張らないとね」
「アタシも賛成。結果的に町が潤うならそれでいい」
「ボクも賛成。個人的にブラックメタルに興味あるし」
俺はアナスタシアを見て頷く。
「よし、決まり。アナスタシア、ギルハドレッド領主として言う……ギルハドレッドの鉱山開発、手を貸してくれ」
「いいわ。ふふ、決まりね」
アナスタシアと握手。
こうして、ギルハドレッド領地の鉱山開発が始まるのだった。
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