脇役剣聖、そして動き出す『破虎』
チン──と、ロシエルは剣を鞘に納め、チラリとキュウキを見た。
「が、っはぁ!! げほっ、ゲホッ……う、噓でしょ、この、あたし、が……!!」
無傷のロシエルの前に跪いているのは、七大魔将『泡虎』のキュウキ。
キュウキは、ボロボロだった。
右腕を失い、全身傷だらけ、血がとめどなく流れ、立つこともできず無傷のロシエルを見上げている。
ロシエルは、全くの無傷でキュウキを撃破した。
「り、領域に引きずり込んだ!! 全部がアタシの有利な状況だったはず!! それなのに……なんで、なんでアンタはそんなに無傷、そんなに強いの!?」
キュウキが魂からの叫びをロシエルに向ける。
だが、ロシエルは無言だった。
無言でロシエルを睨みつけるキュウキは、手に『泡』を纏わせる。
「アンタ、マジで何なの……アタシの『泡』を、領域を、ことごとく無効化するなんて……!!」
「…………」
ロシエルは無言だった。
何の感情もなく、キュウキを見ては首を傾げている。
キュウキは、それが馬鹿にされていると思ったのか、ロシエルに向けて『泡』を放った。
「───……っ」
すると、『泡』がロシエルの帽子、口元を隠すマフラーを弾き飛ばす。
油断したのか、ロシエルは顔を抑えたが……。
「……え? あんた、うそ、まさか」
「…………ッ!!」
ロシエルは顔を隠し──剣を抜き、キュウキの身体を両断した。
キュウキは『核』が破壊され、そのまま塵となって消滅した。
「…………見られた」
ロシエルは、マフラーと帽子を被って顔を隠し、恥ずかしそうに呟くのだった。
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
「どうした、ラスティス・ギルハドレッド!! 攻めが弱いぞ!!」
「そりゃ申し訳、ないっ!!」
「っ!!」
俺の抜刀からの横薙ぎを回避された。
さて、『破虎』ビャッコの長男トウコツ……戦ってすぐにわかったが、こいつは相当ヤバい格闘家。いや……格闘技みたいに洗練された動きじゃない、喧嘩殺法を限界まで極めた動きだ。
俺は『開眼』し、トウコツの攻撃パターンを読んで回避していた。だが、攻撃の軌道を読んでから俺に命中するまでの時間がほとんどない。
なので、回避するだけで精一杯。
「『閃牙・
「フンッ!!」
捻りを加えた突きによる『閃牙』を、拳で叩き落された。
驚く間もなく、トウコツのハイキックが飛んでくる。
俺はそれを上体反らしで回避し、バックステップで距離を取る。だが、トウコツは猛ダッシュで追撃してきた。
「しつっけぇな!!」
「ダラララァ!!」
両拳によるラッシュ。
俺は急停止する。
「『閃牙・
全ての拳を『冥狼斬月』で斬り払う。拳を斬ったのに、鋼鉄を木剣で叩くような感触。
こいつの拳、異常な硬さを持っている。
「なんだ、その拳……硬すぎる」
「知りたいか? なら教えてやろう。これがオレの能力『
「……無敵の拳」
「そうだ。オレは『
トウコツの手は確かに傷付いていない。だが、他の部位……地肌の見える部分はボロボロだった。
きっと、相当な努力があったのだろう。硬い拳だけで今の強さに上り詰めるだけの努力が。
俺は、努力するヤツが嫌いじゃない。だから……甘いんだろうな。こいつのこと、嫌いじゃない。
「……何を笑っている」
「いや、お前はすごいよ。相当な努力を重ねた武闘家だ。お前は怒るかもしれないけど……俺は、お前と戦いたくない。お前がオレの領地に来て、俺の弟子を鍛えてくれたり、村の警備団の隊長になってくれたら嬉しいな……」
「貴様、オレを侮辱しているのか……!!」
「……そう、聞こえるよな。すまない」
情けないかもしれない。でも、今のは俺の本心だ。
トウコツは戦いに命を賭けている。この強さも、戦うための強さだろう。
「貴様が何を言っているのか理解できんが……今、ここにあるのは、オレと貴様の戦いだけだ。どちらが強いか、それを比べるだけ。ラスティス・ギルハドレッド……余計なモノを持ち込むな。戦いのことだけを考えろ!!」
「…………わかった」
俺は刀を鞘に納め、抜刀術の構えを取る。
トウコツも構えを取り、拳を突き出してきた。
「さぁ、戦いを楽しもう。オレとお前の、魂のぶつけ合いだ!!」
「……そうだな」
ああ──やっぱ俺、こいつのこと嫌いじゃないわ。
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
一方、ビャッコは。
「───……死んだか」
玉座に座り、腕組みをし……何かを察したのか、ポツリと呟いた。
玉座の前には、ラクタパクシャが座り込んでいる。まだ『核』の修復が完璧ではなく、戦うこともできない。それに、仮に『核』の修復が終わっても、ビャッコには勝てないだろう。
なので、ラクタパクシャがすることは……情報収集。
「……死んだ?」
「ああ。トウテツ、キュウキが死んだ。まぁ、あの二人は上級だが、自分の力に溺れつつあったしな。死んだところで問題ねぇよ」
「……お前の、子供だろう」
「まーな」
ビャッコは興味が薄いのか、欠伸をして腕組みを解く。
「まぁ、魔界に戻ればオレのガキなんていくらでもいる。虎の女に産ませたガキは、あと四十人くらいいるからな。『猛虎四凶』に相応しいかどうかは、ガキ同士で殺し合わせて、残った二人にでも任せればいいさ」
「……自分の子供だぞ。貴様、心が痛まないのか?」
「ああ」
即答した。
ビャッコはつまらなそうに言う。
「オレは『虎』だぜ? ガキに愛情なんてあるワケねぇだろ。興味があるのは強いか弱いかだけ。その点で言えば、トウコツには愛情があるぜ。オレの若い頃そっくりだしな。まぁ、まだまだザコだけどよ」
「…………」
「今、大事なのは人間界を落とせるかどうかだ。オレが『猛虎四凶』に命じたのは、強そうな連中を狩ること……トウコツたちを負かすほどの人間がいれば、オレが直々に狩ってやる」
「……お前は、戦いに飢えているのだな」
「ああ。オレが動けば終わっちまうからな。ザコ相手に戦うのは性に合わねぇし、戦うなら、命を賭けたスリリングな戦いだ。トウコツたちを戦わせているのは、ふるいに掛けるためさ……あいつらを負かすほどの、強い連中を探すためにな」
そう言い、ビャッコは立ち上がる。
「さぁて。まずは……トウテツを殺した奴に会いに行く。少しは楽しませてくれよ」
動き出す。
七大魔将『破虎』ビャッコが──トウテツを倒したラストワンに迫ろうとしていた。
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