『愛虎』の猛攻
アナスタシア、そして十人の女騎士たちがサティたちに牙を剥く。
「アナスタシア!! あなた、七大剣聖でしょ!? こんな虎女ごときの技に、飲まれるんじゃないわよ!!」
フルーレが叫びつつ、アナスタシアの蛇腹剣を細剣で受ける。
アナスタシアは顔を歪め、抗うように言った。
「すま、ないな……!! 意識を、保つ、だけ……で、精一杯、だ……っ!!」
汗を流し、身体を震わせ、耐えている。
フルーレの剣と鍔迫り合い。顔を近づけて言う。
「フルーレ、私を……殺せ!!」
「っ!?」
「もう、それしか……ないっ」
「馬鹿言わないで!!」
フルーレは、アナスタシアの剣を押し返す。
「あなただって、仲間を殺さなかったんでしょ!? あの女騎士たちだってそう!! 自分ができなかったことを私にやらせるな!! 考えるなら、殺すより救う方法でしょうが!!」
「そう、かも、な……っ」
アナスタシアは、二重の意味で苦しんでいた。そして、フルーレに向けて微笑む。
すると、背後でサティが叫ぶ。
「『
サティが雷球を女騎士たちに放つと、女騎士たちの鎧が磁力で引っ張られてくっつく。そして、アナスタシアの身体もふわりと浮かび、女騎士たちとくっついた。
「『
近くの大岩に磁力を付与。そのまま、アナスタシアたちを大岩に接着した。
フルーレは驚く。サティの技は、操られた味方を拘束するのにうってつけだ。
サティは、近くの岩に座っていたコントンに剣を突き付ける。
「あなた、許せません!! 人を操って、自分は高みの見物ですか? 正々堂々、あなたがかかってきなさい!!」
「あら生意気。ふふ、可愛いじゃない」
「可愛くなんてありません!! あたし、すっごく怒っています!!」
サティは眉を吊り上げ、バチバチと紫電を帯びる。
そして、エミネムは槍を頭上でクルクル回転させ、自分の周囲に風を纏わせる。
「上級魔族と、本気の戦闘ですね。以前とは違う私たちを見せてやりましょう」
「はい!!」
「……あなたたち」
フルーレは、自分の前に立つ二人の背中が、とても大きく感じられた。
成長──二人はもう、以前とは違う。
自分と並び立つ、神スキル持ちの剣士であった。
フルーレは笑い、二人に並ぶ……でも、七大剣聖の意地なのか、二人よりも一歩前に出て。
「サティ、エミネム」
「「はい!!」」
「二人とも、私について来なさい!!」
「「はい!!」」
冷気を纏い、フルーレは細剣を突き付けた。
「…………へえ」
雷、風、氷。
それぞれ異なる属性の力を纏い、剣を突き付ける三人の少女。
その姿を見て、コントンは一瞬だけ『敗北』を感じた。
ほんの一瞬──負けるつもりはないが、負ける可能性が見えた。
それが、『虎』としての矜恃に傷を付けた。
「いいわ」
コントンは立ち上がり、両手を地面に付け、お尻を高く上げ、尻尾を揺らす。
「あなたたちは操らない。その決意に敬意を表して──全力で、殺してあげる」
上級魔族『愛虎』コントン。
本気の殺意が三人に直撃するが──三人は目を逸らさず、コントンと対峙した。
コントンはニヤリと笑い、呟いた。
「『
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
「『猛虎爆掌』!!」
「『閃牙・
俺の一刀両断と、トウコツの正拳突きが激突する。
パワーはトウコツのが遥かに上。だが……俺は激突の瞬間、トウコツの真正面から向かってくる『流れ』に干渉し、その軌道を僅かにずらす。
俺の『冥狼斬月』が、トウコツの力の流れをズラした結果、トウコツの身体が僅かにブレた。
俺は一瞬で納刀し、体勢を低くして抜刀する。
「『閃牙・
「ぬっ!?」
顔面を狙った打ち上げ斬りが、紙一重で躱された。
俺は距離を取り、思わず舌打ちする。
「このタイミングで躱すかよ……なんて反射神経だ」
「ふ、肝を冷やしたがな」
トウコツの顎が少し斬れ、血が流れていた。
それを指で拭い、血を舐める……すると、トウテツの眼の色が変わる。
「くはははっ!! ラスティス・ギルハドレッド、楽しい、楽しいぞ!!」
「っ!!」
速度が上がった──!?
それだけじゃない。技のキレも増した。なんだ、いきなり強くなったぞ!?
「言い忘れていたが、オレは『狂虎』!! 血を流し、傷を負うことでさらに強くなる虎!! もっと、もっと、もっと傷を!! 血を見せろ、ラスティス・ギルハドレッド!!」
「マジかよ……っ!?」
まずい。『開眼』で見えていた力の流れによる軌道が加速する。
避けるのに精一杯。接近戦では危険だ。
「───……ははっ」
俺の弱点。
それは、攻撃全てが『冥狼斬月』による斬撃しかないこと。
サティやエミネム、ラストワン、アナスタシア、フルーレのような遠距離攻撃がない。
俺の神スキルは『見る』ことだけ。躱すのだけは七大剣聖最強……でも、今まさにその限界が来ようとしている。
「どうした、躱すだけか!!」
「躱さなきゃ、死んじまうんだよっ!!」
魔族の体力は人間とは比較にならない。
俺は、一撃でも喰らうとヤバいし、延々と躱し続けるしかないが……そんな体力はない。
奥の手、切り札はある。でも……これから『破虎』と戦うんだ。体力は温存しておきたい。
「ハハハハハ!! どうしたどうしたぁ!!」
「くっ……」
どうする。
『神開眼』を使うか……傷を負うことで強くなるなら、一撃で仕留めるしかない。
「ラスティス・ギルハドレッド!! 逃げずに戦え!!」
「わかったよ。だったら──一撃で、終わらせてや……」
◇◇◇◇◇◇
『───ボクを使っていいよ、ラスティス・ギルハドレッド』
◇◇◇◇◇◇
「!?」
一瞬、何か聞こえた。
懐かしいような、温かくなるような。
これはまさか……そんな、馬鹿な。
「何を呆けている!!」
「ッ!! しまっ……」
油断。
トウコツの拳が、俺の顔面に飛んでくる。
喰らえば、顔が潰れ、脳が頭蓋骨を破って飛び出す。そんな威力。
死ぬ。まずい。どうする。
『神開眼』───ダメだ、間に合わない。
走馬灯。団長、ランスロット、ラストワン、アナスタシア、ロシエル。
フルーレ、エミネム……サティ。
「終わりだ!!」
ごめん、俺が──。
◇◇◇◇◇◇
『ここで死ぬなんて許さないよ。ラスティス・ギルハドレッド』
◇◇◇◇◇◇
俺の身体に、何かが流れ込んで来た。
温かく、包み込むような何かが──これ、まさか、そんな。
「なっ……」
驚愕するトウコツ。
身体の動かない俺。何かが俺の中に流れ込み、力が形成されていくのがわかる。
俺の意志じゃない。何かが、俺の身体を動かしていた。
「『
トウコツの両腕が肘から吹き飛んだ。
「なっ……!?」
俺の意識は──……そこで途切れた。
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