その頃、ラストワンは
「いっててて……あー、マジで痛い」
気絶から起きたラストワンは、荷物にあった治療道具で怪我の治療をして、一人歩いていた。
同行した騎士たちは、全員死んだ。とりあえず、騎士の名前が彫られている騎士の証であるブローチを全員分回収し、荷物カバンに入れている。
遺体は、魔獣たちに食われなければ、いつか回収したいと思っている。
「とりあえず、雑魚と戦ってる騎士たちと合流するか……それとも、アナスタシアかサティのお嬢ちゃんに合流して、上級魔族を叩くか……チッ、おちおち休んでもいられねぇ」
ラストワンは、トウテツと戦っていた場所から、西に進む。
なんとなく、勘で進む……ラストワンは、こういうときの『勘』を信じる傾向がある。
どこに向かうべきか迷ったら、理論よりも勘で進め。かつてラスが、そんなことを言っていた。
「アナスタシアは終わってるかもな……ロシエルは何となく大丈夫な気がする。サティの嬢ちゃんたちは雑魚なら問題ないと思うが……あー、考えるのだけで頭痛いぜ」
ラストワンは、アナスタシアの元へ向かう。
そして、魔獣に遭遇することなく進み、向かった先で見たのは……。
「あなた、許せません!! 人を操って、自分は高みの見物ですか? 正々堂々、あなたがかかってきなさい!!」
啖呵を切り、上級魔族相手に剣を突き付けるサティ、そして隣に並ぶエミネム、一歩前に出るフルーレ。
「……マジか」
サティは、迷うことなく剣を向けている。
力強く、まっすぐな瞳で、勝つことだけを見て。
エミネム、そしてフルーレも同じだった。
「……ははっ、子供の成長は早いって言うが……こりゃ、オレもうかうかしてられねぇな。ん?」
と、ラストワンは見た。磁力によって鎧がくっついた状態で放置されるアナスタシア。そして女騎士たちの姿を。
同時に、上級魔族が『
「───……迷ってる場合じゃねぇな!!」
ラストワンは、『
◇◇◇◇◇◇
幸いなことに、ラストワンの存在は気付かれていない。
ラストワンは、磁力でくっついたアナスタシアの傍に向かい、アナスタシアの頬に手を添えた。
「おい、アナスタシア……おい」
「……ぅ」
頬に、妙な文様が浮かんでいる。
間違いなく、上級魔族による能力。アナスタシアが負け、サティたちが上級魔族と戦うことになった経緯は謎だが、ラストワンはアナスタシアの頬に触れ、その違和感を感じた。
「この紋様、消えそうになってる……おいアナスタシア、目ぇ覚ませ。おい」
今、上級魔族はサティたちと会話をしている。
「ようこそ。ここが私の『
「ラブドラ? うう……なんか、ピンクのモヤモヤが」
「……気色悪いですね」
「気を付けて。ここはアイツの腹の中よ」
上級魔族こと、コントンの領域内は、ピンクのモヤモヤが充満していた。
間違いなく、毒物。
ラストワンは口元を押さえつつ、荷物から濡らした手拭いを出して口を覆う。
サティたちは口元を押さえるが、ラストワンのように濡らした手拭いを巻くなどの対策をできないでいた。上級魔族と対峙している状態で、そんなことができるはずもなかったのである。
ラストワンは、アナスタシアの頬をつねる。
「おい、いい加減に起きろ」
「……ら、スト、ワン?」
「デカい声出すなよ。助けに来た」
「……私、より」
「大丈夫だ。サティの嬢ちゃんたち、かなりやりそうだぜ。今大事なのは、お前を助けて、オレと二人でサティの嬢ちゃんに加勢することだ。どういうわけか、あの上級魔族はオレに気付ていねぇ」
「……そ、ぅ」
アナスタシアの呼吸が荒い。
意識をギリギリでつなぎ止めている状態だ。
「しっかりしろ。お前、七大剣聖だろうが。子供たちに戦わせて、お前はぐっすりおねむの時間か?」
「…………」
「おーおー、いい顔で睨みやがる。おいアナスタシア……起きないと、マジで揉むぞ」
ラストワンは手をワキワキさせ、アナスタシアの大きな胸に手を伸ばす……が。
その腕を、アナスタシアが掴み、ギリギリとラストワンを睨んだ。
「変態、男……!!」
「いい顔するね。その調子だ」
すると、アナスタシアの頬にある紋様がジワジワと消えていく。
紋様が消えると、アナスタシアは地面に落ち、ラストワンに抱きとめられた。
「お、役得」
アナスタシアは柔らかく、ラストワンは顔を緩めてニヤニヤする。すると、アナスタシアはラストワンの胸を肘で小突いた。
「ふぅ……なんとか、呪縛から逃れたわ。一応感謝してあげる」
「へいへい。よし、このままサティの嬢ちゃんたちに加勢して、あの上級魔族をブチ殺すぞ」
「待った……すぐに加勢しない方がいい。幸いなことに、あの上級魔族は《領域》の維持に精一杯で、あなたの侵入はもちろん、私が解放されたことに気付いていない」
「……そういやラスが言ってたな。魔族の『
ラストワンは、自分が戦ったトウテツを思い出す。
確かにトウテツは強かったが、所々で隙があったような気もした。
アナスタシアは、ラストワンをジッと見る。
「なんだよ。イケメンの俺に見惚れるのはわかるけどよ、今はそんな状況じゃねぇだろ」
「死ね。そんなわけないでしょ……ね、覚えてる?」
「あ?」
「…………必殺技」
「!!」
アナスタシアは物凄くイヤそうだったが、ラストワンはピンと来たようだ。
「アレか。ラスが考えた『必殺技』……オレの『神増』と、お前の『神音』を合わせた技だな?」
「……そうよ。不本意だけど、あの上級魔族を屠るなら、私とあなたの一撃で仕留めた方がいい」
「ほっほう。まさかお前がそんなこと言うとはな……いいぜ、やるか!!」
嬉しそうに言うラストワンだが、アナスタシアはイヤそうだった。
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
サティたちが煙を吸うと、猛烈に身体が『疼き』始めた。
「な、なんですか、これ」
「……くっ」
ピンクのモヤモヤ。これが原因なのは間違いない。
コントンは楽しそうに言う。
「この煙を吸うと、生物は発情しちゃうのよ。女も男も、飢えた獣みたいにネ。どう? 身体、疼いてきたでしょ? ふふ、すぐに気持ちよくな──」
「『
風を螺旋状に巻いた強烈な突きが繰り出され、コントンは回避する。
そして、首を傾げた。
「あなた、なんで?」
「煙。すなわち毒と考えるのが自然です。私の《風》なら、この程度の毒、身体に触れさせないことなど、問題ありません」
エミネムの周囲に風が舞う。
サティたちに向かって槍を向けると、二人の周囲にも風が舞い、ピンクのモヤモヤを吹き飛ばした。
「あら……つまらないわね」
「おお、やっと臭いにおいが消えました!!」
「ありがとう。感謝するわ」
「いいえ。さぁ、三人で合わせましょう」
エミネムのおかげで、サティとフルーレが戦えるようになる。
だが、コントンは首を軽く傾げるだけで、特に気にしていない。
「まぁ、いいわ。この『愛ノ煙』だけが、私の領域の全てじゃないから」
コントンはぺろりと舌を出し、妖艶に微笑むのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます