脇役剣聖、王城へ
「あー……かったるいな」
「お前なぁ、やる気出せよ。一応、上級魔族についての報告会になるんだぞ?」
「わかってるよ。おいラストワン、終わったら酒飲もうぜ」
「いいけど……サティちゃんのところに戻ってからな」
そんな会話をしつつ、アルムート王城へ。
城内に入り、七大剣聖が集まる大会議室へ。会議室に入ると、俺とラストワン以外揃っていた。
そして、意外な人物がいた。
「やあ、ラスティス」
「アーサー王子殿下。お久しぶりです」
アーサー王子殿下。
アルムート王国の王子。王の実子であり、次期国王でもある。
この国は一夫多妻制だ。王も貴族も側室を持つことが許されているが、現王ディスガイアは一人の妻を愛し、側室を誰も取らなかった……しかもその妻、王の幼馴染で男爵家の娘とか。
一人息子アーサー、そして妹が一人か……純愛王と呼びたくなるね。
しかもこのアーサー、スキルを持っていない。そのことに悲観することもなく、勉学に打ち込んでおり、国民や臣下たちの信頼も厚い。
おっと、今はそれどころじゃない。俺とラストワンは殿下に一礼する。
「さ、座ってくれ。ラスティス、みんな君の話を心待ちにしているよ」
そんな明るい笑顔で言われてもな……楽しい話とかじゃないし。
椅子に座ると、隣にいたフルーレがウインクしてきた。
「ではこれより、七大剣聖会議を始める。殿下……まずは、殿下から」
「ああ。皆も知っての通り、十四年ぶりに上級魔族が現れた。かつての『冥狼侵攻』……私はまだ四歳だったが、その恐ろしさは報告書を読むだけでも伝わってくる。上級魔族が現れた以上、魔界領地、または魔界から再び、魔族が現れるかもしれん……皆、用心してほしい」
真面目すぎる。まぁ、それが普通だけど。
アーサー殿下は、俺を見た。
「ラスティス。上級魔族と
「殿下、よろしいでしょうか」
と、ここでフルーレが挙手。
この行為に、団長がフルーレを睨む。
「フルーレ騎士。殿下の話を遮るとは、礼儀を忘れたか?」
「いえ。一つ、訂正を。殿下は重要な間違いをしています」
「間違い……ああ、済まない。上級魔族を討伐したラスティス、戦闘に参加したフルーレだったね。どうも、城下の噂が耳から抜けなくてつい。すまないね、フルーレ」
「いえ。差し出がましい真似をしました」
どっちでもいい!! ギスギスすんな!!……と、言えたらいいんだがな。
本当に、誰が倒したとか俺はどうでもいい。
アーサー殿下が俺を見て頷くので、俺は言う。
「いろいろ考えたけど、ここで取り繕っても仕方ないから本音で言う。今回現れた上級魔族は、『冥狼侵攻』時に現れた上級魔族と比べたらザコもいいところだ」
俺の言い方が気に入らなかったのか、団長が口を開きかける。
が、アーサー殿下が手で制した。
「団長、ランスロットは知ってると思うが、『冥狼』ルプスレクスが従えていた上級魔族の強さは、七大剣聖に匹敵する強さだ。『
ま、今回はマジでザコだった。
本来の上級魔族だったら、俺でももう少し苦戦したはず。
「あいつらは七大魔将の一体、『天翼』ラクタパクシャの部下らしい。どうやら、『天翼』らは、海を越えて人間界に来る術を確立させつつある」
「……それは、一大事だね」
「ええ。まだ詳しいことは不明ですけどね。まぁ、ザコとはいえ上級魔族が二人死んだんだ。『天翼』側も、何かしてくる可能性があるかもしれない」
「そうか。では、対抗策は?」
「簡単ですよ。俺たち七大剣聖、そして騎士、兵士たちが、今よりさらに強くならなくちゃいけない」
会議室内は静まり返る。
俺は間違えたこと、言ったつもりはない。
「正直、俺とランスロットと団長以外、上級魔族との戦闘経験が───……ああ、ランスロットは戦ってないな。俺と団長以外に上級魔族と戦ったことがないのはまずい。十四年前に戦った騎士も、兵士も、相手にしたのは魔獣や中級魔族だけだしな。たぶん、俺と団長以外は上級魔族に出会ったら、四割くらいの確率で負けると思う」
「そ、そこまでなのかい?」
「ええ。みんな『
俺ははっきり言う。ラストワン、アナスタシア、ロシエルは面白くなさそうだ。
だが、『
「……わかるかも。あの、魔族の腹の中にいるような怖気、不快感……一度経験しないと、普段の力は出せないわね」
「だろ? お前が上級魔族に手も足も出なかったのは、無意識のうちに身体が『
「……ふん」
フルーレはそっぽ向く。
アーサー殿下は、顎に手を当てて考え込む。
「では、どうすればいい? まさか、上級魔族を捕らえて『
「俺としては、七大剣聖を含め、もっと対人戦闘の技能を磨くべきだと思います。上級魔族のほとんどは人の姿をして、人が扱う武器を持つ。例外はありますけどね」
「では、対人訓練を増やし───……」
と、俺は殿下を手で制する。
「ただし、普通の対人戦闘じゃない。それじゃヌルすぎる。それこそ───……命がけの戦いレベルじゃないと、意味がない」
「なるほど……では、どうする? まさか、命がけで戦えと?」
「俺たち七大剣聖はそうするべきですね。騎士、兵士たちは───……そうだな、普段やるような摸擬戦じゃない。それこそ、昔やったような『闘技大会』みたいな戦いみたいに戦わせるとか」
なんとなく出した意見だが、ランスロットがニヤリと笑ったような気がした。
「では、いい案がございます」
「ん、なんだい、ランスロット」
「アルムート王国騎士団。そして、我がアロンダイト騎士団……さすがに全員とはいきませんので、各騎士団の代表を何名か選出し、戦わせるというのはいかがでしょうか」
「!!」
お、団長が反応した。
団長が口を開きかける前に、アーサー殿下が言う。
「おお、それは面白そうだな!! 歴戦の英雄たちが集うアルムート王国騎士団。そして、ランスロットの娘たち、今をときめくアロンダイト騎士団の戦いか。しかも、理にかなっている」
「そうでしょう? ねぇ、団長」
「…………フン」
団長は歯を食いしばり、かろうじて声を出した感じだ。
これ、もしかすると……めんどくさいことになるかもしれん。
「よし!! アルムート王国騎士団とアロンダイト騎士団の闘技大会としよう。詳細については後程、まずは父上に話をしておこう」
「はっ、ありがとうございます」
なぜかランスロットがお礼を言った……なんか、これもランスロットの功績になりそうな気がする。
アーサー殿下、なんかウキウキしてるような気もする。
「では、戦力向上のための闘技大会の開催しよう。七大剣聖に関しては、ボーマンダとラスティスに任せることにする」
アーサー殿下が言い、俺たちは席を立ち敬礼した。
こうして、この日の会議は終わった。
ランスロットと話そうとしたが、終わるなりさっさと会議室を出てしまう。団長には睨まれるし……あーあ、だから目立つような発言、したくなかったんだが。
まぁ、いい。
上級魔族……俺の予想だが、また近々来そうな気がする。悪目立ちしても、今の状況をきっちり伝えておかないとな。
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