脇役剣聖、遊ぶ
話し合いが終わり、俺は真っ先に団長の元へ。
「団長、いいですか?」
「……なんだ」
「以前はその、生意気言ってすみませんでした」
頭を下げる。
大会議室にはまだ全員いる。俺が頭を下げるところを全員が見ていた。
すると、団長は大きなため息を吐く。
「来い」
「あ、はい」
団長と一緒に、大会議室の隣にある小会議室へ。
会議室に入るなり、団長は言う。
「七大剣聖とあろう者が、人前で易々と頭を下げるな!!」
怒られた。
団長、けっこうイラついてるみたいだ。でも、俺には関係ない。
「人前だろうと、王の前でも、俺は悪いと思ったら頭を下げますよ。今回のは、団長相手に生意気な態度を取ったことに関して頭を下げます。でも……団長の命令を無視して、ギルハドレットに向かったことに後悔はありません。罰はいくらでも受けます」
「…………はぁ」
団長はため息をまた吐いた。
「もういい。その件に関しては不問とする。結果的に、貴様は上級魔族を倒したのだからな」
「……ありがとうございます」
「だが!! 貴様がエミネムを連れて行ったことに関しては話が別!! あれ以来、エミネムのやつは訓練に身が入っておらん!! 貴様、本当に娘に何かしたのではないだろうな……!!」
「ひっ……え、えっと、本当に何もしていないのですが。はい」
こ、こっわ!! めちゃくちゃ顔に青筋浮かんでるし、眼も血走ってる!!
い、今の団長とは絶対に戦いたくない。うん。死ぬ。
「……まあいい。ラスティス、少し話がある。ここではない、別の場所でだ」
「いいですけど。あー、飲みながらでいいっすかね」
「……いいだろう」
「じゃ、あいつの店で仕切り直しますか」
こうして、俺は団長と一緒に、王都へ繰り出すのだった。
◇◇◇◇◇◇
団長とやって来たのは、王都の中心から少し外れた場所にある高級バーの個室。
個室の壁には大きな水槽が埋め込まれ、綺麗な魚たちが泳いでいる。
室内には、オーケストラの生演奏が流れている。どうやら一階にあるホールで演奏し、それを『魔道具』を使い個室に流しているそうだ。
部屋の中心にテーブルがあり、椅子は五脚……そこに、俺、団長、アナスタシア、ラストワン、フルーレの五人が座っていた。
団長は、少し青筋を浮かべて言う。
「おいラスティス……なんだ、この連中は」
「あ、あはは……な、なんなんでしょうね。あ!! だ、団長の私服って初めて見たなぁ~」
団長の私服はシンプルなシャツにズボンだ。団長はムキムキだし、こういうシンプルなシャツを着ると筋肉が盛り上がる。いやだから何だよって感じだ。
俺はラストワンたちに言う。
「おいラストワン、なんでお前らがいるんだよ」
「ここ、オレの経営する店の一つだぜ。アナスタシアを誘って飲もうと思ってたら、お前と団長が来たんだ。で、席が個室しか空いてなくてな……ま、七大剣聖で飲むのもいいかなと思ったってわけよ」
「お前な……おいアナスタシア、いいのかよ」
「別に、構わないわ。あなたと団長がどんな話をするのか気になるし」
アナスタシアは、濃いブルーのロングドレスを着ていた。デカい胸がドレスの胸部を持ち上げ、ウェーブがかった髪は下ろされて波打っている。シンプルな眼鏡もアクセサリーみたいに見える。
そして、もう一人。
「で、フルーレ。お前は?」
「……別に、飲みたい気分だから適当な店を探していたら、ここを見つけただけ」
「そりゃすごい偶然……」
「フフ。素直に『ラスティスのあとをつけていた』って言えば? 素直になれないなんて、可愛いのね」
「あ? なにおばさん、何か証拠でもあるのかしら」
「……今、なんて?」
アナスタシアが持つグラスに亀裂が入る。
フルーレも引く気がないのか、アナスタシアを睨んでいた。
「待てマテ。なんで険悪になってるんだ。おいフルーレ、アナスタシアはまだ二十四歳だ。こんな美女相手におばさんとかあり得んこと言うなって」
「……っ」
「フン、別にいいけど」
アナスタシアがごまかすようにワインを一気飲みし、おかわりを要求した。
なんか顔赤いし、もう酔ったのか?
と───ようやく団長を思い出した。
「……おいラスティス。そろそろいいか?」
「あ、はい。おいお前ら、同席するのはいいけど、俺たちの邪魔するなよ」
「へいへーい」
「私はお酒を楽しんでいるから」
「私、興味ないし」
団長が頼んだ酒とツマミが到着し、ようやく本題に入るのだった。
◇◇◇◇◇◇
「話というのは、先ほど貴様が言った『闘技大会』のことだ」
「ああ、勢いで言ったんすけどね……ランスロットのヤツ、乗り気だったな」
「……貴様、本当に現状を理解しておらぬのだな」
「はい?」
「田舎暮らしだと、王都の噂は耳に入ってこないのか?」
「まぁ、そうですね」
「…………」
団長、濃いテキーラを一気に飲み干す。
俺はワインを飲む。このワイン、かなり美味い……おかわり!!
「現在、アルムート王国内では、アルムート王国騎士団と、ランスロットのアロンダイト騎士団があることを知っているな?」
「さすがにそれくらいは」
「……先の上級魔族戦、その功績が全て、貴様ではなくランスロットの物になっているということは?」
「ああ、ラストワンに聞きました」
「……では、国王陛下が、アルムート王国騎士団を解散し、兵士として運用することを検討していることは?」
「「「「!!」」」」
俺、ラストワン、アナスタシア、フルーレが驚愕。まだ誰も知らない情報のようだ。
「ラスティスにだけ話すつもりだったが、貴様らに聞いてもらうのもいいな。どうやら……ランスロットが手を回しているようだ。今回、上級魔族の件で情報操作をし、不自然な形でないよういかにも『自分が魔族を倒した』ような情報を流布し、国民感情を高め、自身に対する名声を強めた。批判は全て、アルムート王国騎士団に来るようにな」
「……そんな大それたことを、ランスロットが」
アナスタシアが驚いている。
なんというか、大したやつ。
「……ランスロットの狙いは何?」
フル-レが言うと、ラストワンが答える。
「そりゃ、権力だろ。恐らくランスロットのやつは、団長が騎士団の団長であり、七大剣聖の団長っていうのが気に食わないんだ。だから、まずは騎士団を潰しにかかる。騎士団が兵士と変わらなくなれば、団長は騎士団の団長ではいられない。兵たちの指揮は騎士団がするのが普通だからな。つまり、アロンダイト騎士団が王国の兵全ての指揮を執る……つまり、ランスロットが全軍を仕切るってこった」
「……それが狙いだろう。ワシもそう思っている」
アナスタシアがチーズを一切れ口の中へ。咀嚼し、呑み込んだ……なんか色っぽいぞ。
「なるほど。今回の『闘技大会』で、アルムート王国騎士団の精鋭がアロンダイト騎士団の精鋭に敗北したら……アルムート王国騎士団の解散はほぼ確実になるってことね」
「ああ。恐らくだが、ラスティスが言わずとも、ランスロットがどこかで提案していただろう」
「……あー、マジか」
俺は、国を思って言っただけなのに……なんでこう、めんどくさいのかね。
すると、ラストワンが。
「ラス。前も言ったけど、これはお前のせいでもあるからな」
「…………」
沈黙すると、団長が言う。
「ラスティス。貴様とは長い付き合いになるな」
不思議と、穏やかに聞こえる声だった。
昔……こんなふうな声で、話しかけられたこともあったかもしれん。
「ワシの弟子になり鍛えること三年。十五で当時の七大剣聖を倒し入れ替わり入団。十六で上級魔族を屠り、たった一人で『冥狼』を降した」
「あの、ルプスレクスを討伐したのは、ランスロットで」
「もう誤魔化すな。ラスティス……貴様、何があった? どうしてそこまでやる気をなくした? いい加減、話せ」
「…………」
ラストワン、アナスタシア、フル-レが無言で俺を見る。
なんとなく、気付いてしまった。
きっと、騎士団云々じゃない。この話が、団長の本題。
「…………すっごい情けない、アホみたいな話っすよ」
俺は負けた。
おかわりのワインを一気に飲み、事情を説明した。
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