脇役剣聖、弟子三人組を比べる

 さて、サティにルシオ、そしてイチカ。

 俺の弟子三人だ。いちおう、フルーレやエミネムも俺の弟子ではあるが……フルーレは一時的な弟子だし、エミネムは団長から預かったような暫定的な弟子だし、純粋な弟子はこの三人だ。

 現在、三人は横並びで俺の前にいる……改めて見ても若いな。そういや全員十六歳だっけ。


「さて、これから一か月、お前らを鍛えるぞ。特にサティは、一か月後にイフリータとの再戦があるから、厳しくいく」

「はい!! あの、師匠も戦うんですよね……イフリータが言ってました」

「ああ。俺はランスロットと、んでラストワン、フルーレ、アナスタシアの三人と戦う」

「え……」

「ちなみに、エミネムもデボネアって子と再戦するぞ」

「デボネア……あの『神毒』の子でしたっけ」

「ああ。みんな、ランスロットが鍛えた。かなり強くなってるぞ」

「…………」

「師匠!! 拙者の戦いは?」


 イチカがワクワクしながら言う……ってか、戦いって何だ。


「いや、お前は特に。お前は、今じゃなくてこれからの戦いに向けて強くなってくれ」

「これから?」

「ああ、魔族だ」

「……『もののけ』ですか。ふむ、なるほど」


 東方じゃ魔族のこと『もののけ』って言うんだっけ。

 ルシオは、まだよくわかっていない。


「あの、ボクは……」

「お前はともかく、身体づくりと神スキルに慣れないとな。さて、まずは……サティ、イチカ」

「はい!!」「はっ!!」

「お前らで摸擬戦だ。神スキルなし、武器は木剣で、純粋な剣技のみで戦え」

「「…………」」


 二人は互いに顔を見合わせる。

 俺は、用意しておいた木剣を二人に投げると、二人はキャッチ。


「神スキルを使ったらおしおきするからな。はい、構えて。ルシオは俺の隣へ」

「は、はい」


 サティ、イチカは距離を取って構えを取る。

 サティは木刀二本。一本を突き出し、もう一本を交差するように前へ。

 イチカは、腰を落とし剣を下に……居合の構えを取る。


「そういえば、名を名乗っていなかった。拙者、イチカ・クジョウと申す……姉弟子」

「サティ・ギルハドレッドです。よろしくお願いします、イチカさん!!」


 いや、サティはギルハドレッドじゃ……ああもう、別にいいや。

 俺は右手を上げ、振り下ろす。


「じゃ、始め!!」

「「ッ!!」」


 二人は飛び出した。

 踏み込みからの速度はイチカが早い。


「九条流剣術『居合』───〝旋輪刃せんりんば〟」

「ッ!!」


 一回転からの抜刀、横一閃。

 サティは右の木刀で受け、左の剣を突き出していた。

 だが、回転を加えた横薙ぎは片手だけで受けるには耐え切れない。サティの右木剣が弾き飛ばされた。そして、そのままイチカに向けて木刀を突き出したが、イチカは首をひねっただけで躱した。

 

「御免!!」

「がっ……!?」


 イチカの前蹴りが、サティの腹に突き刺さり、サティは後ろに吹っ飛んだ。


「そこまで。ルシオ、サティを」

「は、はい!!」


 ルシオはサティに手を貸し、俺は落ちた木刀を拾う。

 イチカは、サティを心配せずにじっと見ていた。うんうん、下手な心配をするのは戦った相手に無礼だとわきまえている感じかな。

 サティはルシオに掴まり立ち上がる。さすがにルシオも照れはせずに心配していた。


「とまあ、こんな感じだ。三人の中でズバ抜けて、イチカは剣技に優れている」


 イチカは無言で、サティに頭を下げた。


「だが、神スキルを使えば……サティ、お前が圧倒的に上だ」

「え……」

「……む、師匠、それは」

「サティは『臨解』と『神器』に目覚めている。イチカ、お前は?」

「……『臨解』には目覚めましたが、使用を禁じられています」

「やっぱそうか。まあ、仕方ない。さすがに神器と臨解を使った摸擬戦はできないからな……まあ、俺がそう言うんだから納得してくれ」

「……御意」


 微妙に納得していないな。まあ、その辺は子供っぽい。

 

「三人の序列をつけるなら、サティが一番、イチカが二番、ルシオが三番だ」

「あたしが一番……」

「むう……二番手」

「……まあ、当然ですよね」

「だけど、神スキルの力で順序を付けるなら、ルシオが一番だ」

「え」


 サティ、イチカがルシオを見た。

 そりゃそうだ。『神虹』……七属性を自在に操ることができるなんて、凡庸性高いなんてもんじゃない。しかも目覚めただけで、臨界も神器も目覚めさせることができる。

 それに……ルシオは何も染まっていない紙のようなもんだ。下手な先入観がないから、俺の教えをすんなり受け入れることができる。


「ルシオ殿だったか。拙者が見た限り、身体付きも貧弱、武芸を納めているようには見えんが……」

「ひ、貧弱……うう、確かにそうだけど、はっきり言わなくても」

「あはは。でもでも、可能性の塊ってことですよね!!」

「ま、そういうこった。さて……今日はルシオの可能性を探る。二人とも付き合ってくれ」

「はい!!」

「うむ。師匠が言うなら」

「え、えと……可能性?」


 ここは訓練場だし……いろいろ、準備してみるか。


 ◇◇◇◇◇◇


 さて、訓練場にあった武器を一通り持って来た。

 剣、大剣、斧、弓、槍。他にもいろいろだ。

 

「ルシオ。お前、武器を使った経験は?」

「い、いえ全く……刃物なんて、包丁くらいしか」

「ふむ……話にならん」


 イチカが呆れる。やや当たりが強いな。ルシオ、しょんぼりしちまったぞ。

 俺はルシオに言う。


「確かにどうにもならん。でも……裏を返せば、何も染まっていない、あらゆる武器を使える可能性があるってことだ。いろいろ準備したから、まずは筋を見てみるか」


 俺はショートソードをルシオに渡す。

 初めての剣なのか、興味深そうに見ていた。


「イチカ、正面に」

「はい」

「ルシオ、イチカを斬れ。イチカは絶対に攻撃に当たるな。少しなら反撃してもいい」


 二人は向き合う。

 ルシオは戸惑っていたが、イチカは木剣を手に構えを取る。


「来るがいい」

「い、いきます!!」


 ルシオはイチカに向かって斬りかかるが、イチカは一歩も動かず躱した。

 そして、木刀でルシオの手を叩く。


「いだっ!?」

「真剣だったら手が落ちていたぞ」

「っ……」

「前を見ろ、へっぴり腰、構えを取れ」

「は、はい!!」


 イチカの言葉に、ルシオはもう一度斬りかかる。

 だが、イチカが木刀を振ると、剣が叩き落とされた。


「……まあ、こんなもんか。二人とも、もういいぞ」

「うう……」

「…………」


 その後、槍や大剣、斧、ナイフなども使わせてみた。

 当然だが素人……ひどい動きだ。

 だが、ルシオの適性がなんとなくわかってきた。


「じゃあ、最後はこれだ」

「これは……弓?」

「ああ。的を用意したから、あれに向かって射るんだ」

「はい!!」


 二十メートルほど離れた位置にある板切れだ。

 俺、サティ、イチカが見守る中、ルシオは矢を番える。

 当然、やり方なんて教えていない。だが……意外にもサマになっている。


「───っし」


 シュパン!! と、矢が放たれ……板切れに命中した。


「あ、当たった!! やった!!」

「おー、よくやった。よし、板切れもってこい」

「はい!!」


 ルシオは、板切れの元へ。

 するとイチカが言う。


「師匠……奴は」

「ああ、思った通りだ」

「え? え? 師匠、イチカさん……何か気付いたんですか?」

「ああ」


 俺は、ルシオが武器を持ち換えてイチカと戦っているところ、そして今の弓を見て確信した。

 イチカも気付いた。サティは気付いていないけど。

 なので、ネタばらしする。


「ルシオは『眼』がいい。動体視力が並みじゃない。イチカは気付いたな?」

「はい。奴……拙者との摸擬戦の途中で、拙者の剣を目で追っていました。まだ躱したり、受けたりする技量はありませんが……それに剣筋も悪くない。才があります」


 そう、ルシオは目がいい。

 イチカの木剣を目で追い始めたのを見て、もしかしたらと思った。

 

「動体視力。剣、そして弓の適性がありそうだ。神スキルと合わせて、近接、遠距離の攻撃ができる万能になる可能性があるな」

「ルシオくん、すごい……」

「才能だけなら、サティとイチカよりも上だ。まあ、お前たちに追いつくには何年もかかるだろうけどな」

「「…………」」

「師匠!! 持ってきました。真ん中に当たっていました!!」

「おう。よし、じゃあルシオは剣と弓が武器な」

「え? あ、はい」


 さて、方針は決まった。

 このまま修行開始……ではなく。


「じゃ、今日は親交を深めるため、みんなでメシ食いに行くか」

「「「え?」」」

「メシだよメシ。ところでイチカ……お前、どこに住んでるんだ?」

「ランスロット殿には、師匠の世話になるようにと」

「じゃあ、うちだな。はっはっは、弟子三人と俺の共同生活だ。うちには風呂もあるぞ」

「なんと!! それはありがたい!!」

「あの、サティさん……その、ボクもですよね」

「そうだね!! あはは、なんか楽しくなりそうかも!!」


 こうして、俺たちはメシ食いに行くのだった……さて、何を食うかなあ。

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