脇役剣聖、『神刀』イチカ・クジョウと出会う

 さて、七大剣聖の摸擬戦は一か月後になった。

 それまで、王都に留まらなくちゃいけない。俺としては町の宿屋でいいんだが、団長に「七大剣聖なら王都に家の一つでも持て!!」って怒鳴られたので、しぶしぶ家を買うことに。

 まあ、大金使うとギルガがキレるので、そんな高い家は買わない。貴族街の隅っこにある、前の持ち主だった貴族が負債を抱えて自殺した事故物件を安く買った。

 現在、俺はサティ、ルシオと三人で家の前にいる。


「なかなかデカいな」


 横長の二階建て、庭付きの物件だ。

 しかも!! ここ!! なんと!! 風呂がある!!

 もう一度……ここ、風呂があるのだ。


「あの師匠、ここ……前の持ち主が自殺したって」

「ああ。おかげで格安、しかも風呂付きだ。ははは、好きな部屋使っていいぞ」

「は、はい」

「あ、あのラスティス師匠……ぼ、ボクもですか?」

「おう。俺の弟子だし、一か月みっちり鍛えるからな」


 と、俺はルシオと肩を組み、ボソッと言う。


「サティのヤツ、けっこう無防備だからな……風呂上りとか、寝間着姿を見れるかもよ」

「ッッッ!!」


 ルシオは一瞬で真っ赤になり、鼻血が出たのか鼻を押さえていた……じゅ、純情すぎる。

 

「あれ? ルシオ、どうしたのー?」

「い、いえ、ななな、なんでもっ、っぶ……鼻血」

「あわわ、あ、ハンカチ!!」


 サティがハンカチでルシオの鼻を押さえると、ハンカチが血で染まる。

 うんうん、若いモンは───。


 ◇◇◇◇◇◇


「九条流剣術、『斬天牙ざんてんが』!!」


 ◇◇◇◇◇◇


 俺は一瞬で抜刀、剣を受け止めた。

 仰天するサティ、ルシオ。

 俺はいきなり現れた敵を斬り伏せようとした……が。


「そこまで」


 横から現れたランスロットが、襲撃者の手を掴んだ。

 ランスロットの気配を感じたから反撃はやめたが……いやはや、ちょっとだけ驚いた。

 ランスロットはため息を吐く。


「イチカ。あなたは、背を向けた相手に斬りかかるという卑怯な真似をする子でしたか?」

「む……拙者、つい気が急いて。謝罪しよう」

「……おいランスロット。説明、あるんだろうな」


 俺は冥狼斬月を鞘に戻し、襲撃者……女の子を見た。

 長い黒髪をポニーテールにし、胸にはサラシを巻き、東方の国の『武士』が着る藍色の武道袴を身に纏った少女だ。ボロボロの陣羽織を纏い、背には『斬』と大きく刺繍されている。

 顔立ちはかなりの美少女……まあ、子供だけど。

 俺を見て目をキラキラさせているが、ランスロットが言う。


「この子はイチカ。東方で賞金稼ぎをしていた少女で、私が引き取りました」

「お初にお目にかかる。拙者、イチカ・クジョウと申す。お主がラスティス・ギルハドレッド殿で間違いないか!?」

「あ、ああ……ん? クジョウ?」

「いざ、尋常に!! 拙者と勝負してくだされ!!」

「……ランスロット、説明」

「その前に、立ち話もですし……あなたの新居でお願いしますよ」


 こうして俺は、いきなりすぎる展開に頭を痛めそうになるが、ランスロットたちを家に入れるのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 家具付きの物件でよかった。

 ソファにランスロット、イフリータ、そしてイチカとかいう子を座らせ、対面に俺、サティ、ルシオが座る。

 

「さっそくですがラスティス。この子を、あなたに任せようと思います」

「……は?」

「イチカを、あなたの弟子にということです」

「いやいや、なんで俺? というか、お前がやればいいだろ」

「それでもよかったんですけどね……」


 ランスロットがイチカを見ると、イチカは興奮したように言う。


「拙者、ラスティス殿に憧れてここまで来た!! ラスティス殿、九条流剣術に聞き覚えは?」

「クジョウ……まさかお前、ゲンゾウ爺さんの?」

「うむ、孫だ!!」

「……お知り合いだったのですか?」

「知り合いというか、こいつの爺さん……ゲンゾウ・クジョウは、一時だけ俺の師匠だった」


 俺の『閃牙』は、ゲンゾウ爺さんの技をヒントにした技だ。

 

「孫がいるって言ってたな。まさか、お前だったのか」

「うむ!!」

「爺さんは元気か? もう十五年以上会ってないな」

「……一年ほど前に、天寿を全うした」

「……そうか」


 俺の師は団長だけど、団長が遠征で一年ほど留守にする機会があって、その間に剣を教えてくれた人なんだよな。

 俺はそれまで、王国製の両刃剣を使っていたけど、ゲンゾウ爺さんが『居合向きだな』って言って、俺に刀を使い方を教えてくれた……『閃牙』はそこで生まれた。

 一年して、ゲンゾウ爺さんは故郷に帰ったけど、俺は教えを忘れたことはなかった。


「祖父はいつも、あなたのことを自慢しておりました。生涯で最高の弟子、ラスの居合はワシをしのぐ、もう一度美味い酒が飲みたい……と、拙者に語り聞かせてくれました」

「……そうかい」

「そして、死の間際……あなたに、手紙を渡して欲しいと。そして、拙者を頼むと」

「え」


 イチカは手紙を出し、俺へ。

 その手紙には、『イチカを仕込んでやってくれ』と書かれていた。

 

「ラスティス殿!! 拙者、祖父が認めたあなたの剣を見たい!! 拙者を弟子にして欲しい!!」

「…………」

「やれやれ。養子の話はナシにしましょう。どうやら、ラスティスに任せるのが一番のようだ」

「ランスロット殿。そなたの協力に感謝する」

「いえ。ではラスティス、その子をお願いしますよ。サティ、ルシオと続き、三人目の弟子ですね。ではイフリータ、帰りましょうか」

「はい。サティ……せいぜい、修行するんだな」

「え、あ、うん」


 ランスロット、イフリータは出て行った。

 残されたのは俺たち……とりあえずいう。


「じゃあ、お前も俺の弟子……で、いいんだな?」

「はい!! ですが師匠、一度師匠の剣を見せてほしい。祖父はあなたを認めていたが、私はまだあなたの剣を見ていない。お願いします!!」

「……わかったよ。ゲンゾウ爺さんの孫だ、相当仕込まれてるんだろうな……あの世の爺さんが驚くくらいのモン、見せてやる」


 俺は冥狼斬月を手に立ち上がるのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 庭に出た。

 サティ、イチカ、ルシオの三人が俺を見ている。

 イチカは、荷物から金属棒を取り出し、地面に突き刺す。


「東方でのみ採取される『ヒヒイロカネ』を精製した鉄棒です。ヒヒイロカネはオリハルコン鉱石の約二十五倍の強度を持つ……これを斬ることが、九条流剣術の皆伝試練……ラスティス殿なら斬れると、祖父は言っておりました」

「へえ……」

「見せていただきたい。その剣技を」

「わかった」


 俺は構え、腰を落とす。

 柄に触れ、ゆっくり抜刀……そして、カチンと納刀した。


「…………え?」


 パキキン、と……鉄棒がバラバラになった。

 

「七回斬ったけど、見えたか?」


 三人は首をブンブン振る。

 イチカは恐る恐る鉄棒に近づき、残骸を拾い……そして、俺に向かって土下座した。


「お、御見それしました!! 師匠!!」

「ああ。どうやら、合格みたいだな」


 こうして、俺はイチカの師となった。

 サティ、イチカ、ルシオ。三人の弟子か……鍛えがいがありそうだ。

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