脇役剣聖、村案内

 さて、ギルガもずっと仕事してくれたみたいだし、あとは俺に任せて家に帰ってもらうか。

 俺は自分が怠け者だと理解している。でも、王都にいる間はずっと領主の仕事してくれたみたいだし、しばらくは休ませてもいいな……あー、少しだけにしておくか。

 俺はまず、サティの元へ。

 部屋のドアをノックすると、サティが出てきた……って。


「お疲れ様です! 師匠、さっそく稽古を!」


 サティは、旅装を解いて皮鎧、木剣を手にしていた。

 いやいや、やる気ありすぎるだろ。


「あのな、帰って早々、稽古なんかつけるわけないだろ。とりあえずまだ日も高いし……屋敷と、ギルハドレッド領地について軽く説明、案内してやる」

「おお、そうでしたか」


 サティは皮鎧や木刀をポイっと投げ捨て、髪を結んでいたリボンを解く。

 長い銀髪がふわっと広がる……こいつ、綺麗な髪してるな。銀色とか珍しい。

 俺みたいな、野暮ったい黒髪とは雲泥の差だぜ。


「……とりあえず、屋敷の案内だ」

「はい!!」


 俺の屋敷。

 元は食糧庫で、新しい食糧庫を建てた時にもらった建物だ。

 砦みたいに頑丈で、広さもそこそこあるし、二階もある。で……なんといってもここには『風呂』がある。

 川の水を大鍋で熱し、栓を開ければ湯が浴槽に流れ落ちる。大鍋と川が繋がっているので、水汲みに行く必要もない。ふふふ、俺の自慢の風呂である。


「屋敷にあるモンは何でも使っていい。あと、風呂は毎日入れるから準備は手伝ってもらうぞ」

「お風呂……」


 風呂場はけっこう広い。大きな浴槽、洗い場、なんとシャワーも付いている。

 ここを改築する時に、風呂場だけは妥協しなかった。

 ま……ここまで言えばわかるだろ。そう、俺は風呂が大好きなのだ!!


「俺は風呂が大好きなのだ!!」

「わ、びっくりした」


 しまった。つい声が出てしまったぜ。

 コホンと咳払いをする。


「と……こんな感じだ。食事はギルガの奥さんが作ってくれる。基本的に俺は領主の仕事があるから、屋敷にいる。あと、領民たちが困ったら助けに行ったり、のんびり昼寝したり、裏山や森に現れる魔獣を狩ったりもするな」

「……あの、お昼寝って?」


 おっと、余計なこと言っちまった。 

 その質問は無視。屋敷の案内を終え、外に出た。

 外に出て、村の中を案内する。


「ここ、雑貨屋な。必要なモンはここで買うしかない。仕入れ先は王都だったか……欲しいモンあったら雑貨屋のおばちゃんに言えば、仕入れてくれるぞ」

「は、はい」

「あっちにあるのが村で唯一の宿屋。で、あっちが村の酒場」


 村を歩きながら説明すると、住人たちが声をかけてくる。


「お、ラス。なんだなんだ、デートか?」

「アホ。新しい住人の案内してんだよ」

「は、はじめまして!! サティって言います!!」

「おお、元気な子だな。ほれ、飴ちゃん舐めな」

「あ、ありがとうございます」


 と、こんな感じでサティにお菓子をいっぱいくれる住人たち。

 村の外に出ると、広い畑が広がって五ry。


「ここが村の畑。で、あっちが果樹園だ。村の産業は農業で成り立ってる」

「わぁ~……こんな大きな農場、初めて見ました」

「そりゃよかった」

「……あの、師匠。さっき『ここは二番目に大きい村』って言いましたけど、領主様って普通は、領地で一番大きな町に住むものじゃないんですか?」

「ああ、普通はな。でもここは……」


 と───理由を説明しようとした時だった。


「うぉぉぉぉい!! ラス、ラス!!」

「ん、ルアドじゃねぇか。どうした?」


 門兵のルアドが慌ててこっちに来た。

 ルアドは急停止し、肩で息をする。


「も、森からオーガが来やがった!! ドマが相手してるが、長くもたねぇ!!」

「よし……行くぞ、サティ」

「お、オーガって……と、討伐レートBの、魔獣」


 俺は走り出すと、サティとルアドが続く。

 

「は、速っ……」


 俺、ルアドの速度にサティが付いて来れない。

 だが、俺は無視。

 剣を抜き、村の入口に到着すると……いたいた。

 門兵のドマが、オーガと戦っている。だが、押されているのか、ドマは流血して息も絶え絶えだ。


『ギャォォォォォォ!!』

「はぁ、はぁ、はぁ……さぁ、来やがれ!! 村には一歩も──」

「ほい、選手交代」


 俺はドマの首根っこを掴んで後ろへ。ドマが立っていた場所に棍棒が振り下ろされ、地面に亀裂が入る。


「ら、ラス!!」

「よ、大丈夫か?」

「お、おう。あいちちち……油断したぜ」

『グォォォォォォォォ!!』


 オーガの棍棒が振り下ろされる。

 力の流れを見ると、力任せに振り下ろしただけ──まっすぐ、上から下に向かって流れる力。

 こういう力は、横からの力に弱い。

 俺は紙一重で棍棒を躱し、棍棒が地面に触れる前に、剣の腹で棍棒を真横から軽く叩いた。


『グァォッ!?』


 急に力の流れを乱されたことで、オーガの棍棒が横にグルンと回転。

 オーガも態勢を崩し、たたらを踏む。

 俺は剣を鞘に納め、構えを取る。


「え……何、あの構え」

「ああ、お嬢ちゃんは知らねぇのか。あれは、ラスしか使えない剣技さ」

「師匠だけの?」


 おいドマ、ネタバレすんじゃねえぞ。

 俺は全身の力を足、太腿、腰、腹、胸、肩、腕、肘、手首、指先と伝え、全ての力をフルに使い抜刀、オーガを一刀両断した。


「え」

「見えたか?」

「……勝手に、斬れた?」

「ちゃうちゃう。ちゃんと抜いて斬ったさ。速すぎて初見じゃ見えねぇんだ。ははは、まぁ慣れれば嬢ちゃんでも見れるようになるさ」

「オレは一年くらいかかってようやく見えるようになったぜ?」

「オレは半年! はっはっは、オレの勝ちだな、ルアド」

「んだとぉ?」


 緊張感なさすぎだろコイツら!! 

 オーガは縦にぱっくり割れてる。当然だが即死。

 剣を収め、俺はサティに言う。


「これが、俺が町に行かない理由だ」

「……え?」

「この村は、魔獣の住む山と森から近い。こうして守らないと、畑も果樹園も小麦畑も駄目になっちまうからな。ああ、町の方は俺の部下が取り仕切ってるから問題ない」

「…………」

「と、今日の案内はここまで。さ、帰って風呂にしようぜ」

「……はい!!」


 オーガはルアドたちに任せて、俺とサティは屋敷に戻る。

 その道中、サティは言う。


「師匠、あたし……師匠の弟子になれて、本当に嬉しいです!!」

「ん、ああ。そりゃよかった……?」


 なんだいきなり……そんなキラキラした眼で、俺を見るなっての。

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