七大魔将『破虎』ビャッコ②/狂う虎
ラストワンが曲刀を振るい、トウコツに接近戦を挑む。
スキル『神増』はあらゆる物を増やすが、援護がある今では使う必要がない。
援護はアナスタシア、エミネム。
ラストワンに並び、サティとフルーレが剣を振るう。
「さぁ、踊ろうぜ!!」
「面白い!!」
ラストワンは、一対多数を得意とする。だが、一対一でも弱いわけがない。
ラスティスに指導を受け、ラスティスに手傷を負わせたこともある剣豪だ。ラストワンの趣味であるダンスと、変幻自在の曲刀を合わせた独特な技は、トウコツを困惑させる。
「『
「!!」
曲刀を二本手に持ち、クルクル回転させながらラストワンも踊る。そして、連続で斬り付ける技。その華麗なステップと、変幻自在な剣は、並の人間では読みきることは不可能。
だがトウコツは躱す。
「面白い、経験したことがない動き、技!! いいぞ!!」
「チッ、めんどくっせぇ!!」
「『
すると、隙を伺っていたサティが、トウコツの側面から剣を振るう。
トウコツは二の腕で受けた。サティの剣技ではトウコツの皮膚を傷付けることはできないが……斬るのが目的ではなく、触れることが目的だ。
トウコツの右腕が、ぼんやりと光る。
「む……なんだ、これは」
「フルーレさん!!」
「ええ!! 喰らいなさい!!」
フルーレの高速突き。サティの背後から現れたフルーレは、完全にトウコツの隙を突いた。
が、トウコツは素早く反応……剣を掴もうとする。
「『
「『
だが、アナスタシアとエミネムの援護が、トウコツの伸ばした腕に直撃。
フルーレの剣を掴むことなく、左腕で防御。
そして、フルーレの剣の先端が右腕に突き刺さろうとした瞬間。
「『
フルーレの剣が磁力に引かれ、加速した。
加速した剣はトウコツの腕に刺さり、血が噴き出す。
「ぐっ……」
「ラストワン!!」
「おう!!」
そして、トウコツの背後──……曲刀を一本、トウコツの背中に突き刺した。
「っぐ、っぁぁ!?」
「そのまま核を抉ってやらぁ!!」
剣を深く突き刺し、そのまま魔族の『核』を破壊しようとした時だった。
「調子に──……乗るんじゃねェェェェ!!」
「ッ!?」
トウコツの身体から、魔力が一気に噴き出した。
サティの磁力が解除され、フルーレの剣が抜け、ラストワンの曲刀も抜けて吹き飛ばされる。
トウコツは魔力を漲らせ、全身に紋様が浮かんでいた。
虎のような、黒い紋様が全身を包み込んでいる。
その様子を見たビャッコは言う。
「あいつ、キレやがったな。出ちまうんだ……狂暴な虎の血が」
◇◇◇◇◇◇
戦闘パターンの変化。
冷静な部分もあったトウコツの攻撃が、力任せ、狂暴なモノに変わった。
武を感じた拳はただ殴るだけ、だが……威力、速度が桁違いに上がった。
「んだ、コイツ……ッ!?」
ラストワンは、曲刀を交差させトウコツの拳を受ける。
「ギャハハははハァァッ!! 死ね死ね死ねェェェェ!!」
乱雑な動き。
受けるので精一杯。ラストワンは叫ぶ。
「全員、攻撃しろ!! コイツ、マジでヤバいぞ!! とにかく攻撃だ!!」
そして、援護をやめたアナスタシア、エミネムも武器を構え飛び込む。
サティたちも、ラストワンが攻撃を受けている隙を突くよう、攻撃に入る。
もう、戦略もクソもない。トウコツはここで殺さないと危険だ。
「ラストワン!! トドメは任せていい!?」
「ああ、頼むぜアナスタシ──……」
ズドン!! と、ラストワンが吹き飛んだ。
トウコツに集中していた。攻撃が来るならわかったはず。
だが、ラストワンは攻撃を避けれなかった。
「あ~、悪いなぁ? 我慢できなかったぜ」
ビャッコ。
七大魔将『破虎』ビャッコが、いつの間にか戦場に立っていた。
ラストワンを殴った。
ラストワンはギリギリで曲刀を交差させて防御したが、曲刀はあっさり砕け、拳が腹に直撃。
「ぐぁっは……ゲほ、げっほ……グェっ」
何度も血を吐き、右腕は折れ曲がっていた。
アナスタシアが青くなる。そして、ビャッコに殺意を向けた瞬間───。
「どこ見てんだァァァァァァ!!」
「ッ!? しまっ……」
トウコツの飛び蹴り。フルーレが氷の盾を作り守るが、氷は容易く割れてアナスタシアに直撃する。
腕を交差させて防御するが、両腕がへし折れ何度も地面を転がり、近くの岩に激突してようやく止まった。血で真っ赤に染まるアナスタシアは、すでに気絶している。
「ラストワン様!! アナスタシア様!!」
「おい、余所見してる場合か?」
「ッ!?」
エミネムの傍に、ビャッコが立っていた。
瞬間的に槍を突き出すが、人差し指だけで止められる。
「オマエは、つまんねぇな」
ビシッ!! と、デコピンでエミネムは吹き飛ばされた。
頭にデコピンを受け、額が割れておびただしく出血。吹き飛ばされ地面を滑り、五十メートル以上地面を転がってようやく止まった。
デコボコの地面を何度も転がったせいで、鎧は砕け、服は破れ、全身に酷く裂いたような傷を負った。
「……あなた、手を出さないんじゃなかったの」
フルーレは、酷い冷や汗を流しながら、ビャッコを見る。
それは、トウコツも同じだった。
「親父ィィィィィ!! なんで手ぇ出すんだよ。こいつはオレが」
「おいトウコツ。お前、誰に意見してんだ? ってか、オレが直々に出て来てんだぜ? キレ散らかすのはいいが、わきまえな。確かに、オレは様子見してた。だが、もう飽きたから出てきた……それだけだ」
「ッッッ……!!」
「そういうわけだ。さーて、ガキが二匹。お前ら嬲り殺して、ルプスレクス殺した奴を誘き寄せるとするかね」
「……できるものなら」
フルーレは剣を構えた。
だが、次の瞬間───いつの間にか真横に移動していたビャッコが、フルーレの腕を掴んだ。
「できるぜ。力の差ぁ理解してんだろ? それでも剣を向ける度胸は褒めてやる……グァ」
「ッッッ!? っづ、ァァァァァッッッッ!!」
そして、フルーレの右腕は……ビャッコに
肘の辺りから喰われ、消失した。
断面からボタボタと血が流れるが、ビャッコは腕を強く握りしめ止血。
「くははっ……女の肉はうめぇなぁ。全部食っちまいてぇぜ」
「あ、ぁ……っぐ」
「だが、ま~だ殺さねぇよ。ルプスレクスを殺したヤツを殺すまでは、な」
そして───ビャッコの目が、サティに向いた。
「……」
「お~お~、呆けちまって。衝撃だったか?」
ビャッコはフルーレの頭を掴み、少しだけ握る。すると、頭から血が噴き出し、フルーレの身体がビクンと跳ね、失禁……地面が濡れた。
「や、やめ」
「やめてやる。その代わり……お前とオレで、一騎打ちだ」
「い、一騎打ち……」
「ああ。お前が勝てば、こいつら見逃してやる。ルプスレクスを殺した奴が来るまで、今度こそ何もしねぇ……どうだ?」
「…………ッ!!」
サティは双剣を構えた。手が震え、顔は真っ青……それでも、構えた。
ラストワン、アナスタシアは血濡れで死にかけ、エミネムは全身ボロボロで息も絶え絶え、フルーレは右腕を失い、出血多量で完全に気を失っていた。
トウコツはつまらなそうにムスッとしており、ラクタパクシャは震えている。
今、戦えるのは……サティだけ。
「ほれ、最初の一撃、くれてやる……ほれほれ」
ビャッコは、馬鹿にしたように両手を広げていた。
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