脇役剣聖、対処する

「ラス、魔獣が出た!!」

「またかよ!?」


 鉱山開発でクソ忙しいある日。

 俺の屋敷に、村の住人であるホーキンス爺さんが飛び込んできた。

 屋敷のロビーは大きな机がドンと置いてあり、そこに資料が山積みになっている。

 テーブルの周りでは、ギルガ、フローネ、ホッジにアナスタシア、ケインくんが集まり、開発についての話し合いをしているのだが……全員の視線が俺に刺さる。


「わかったわかった。退治してくるからそんな眼で見るなっつの」


 俺は『冥狼斬月』を手に屋敷を出た。

 俺はホーキンス爺さんに聞く。


「で、また『虎』か?」

「ああ。三匹はワシが始末したんだが、親玉が出てな、鍬だけじゃ倒しきれん」

「それでも鍬で倒したのかよ……」


 ホーキンス爺さん、騎士だったとか兵士だったとかじゃない、マジで普通の農民なんだが……なんか普通に強いんだよな。

 

「サティちゃんとエミネムちゃんが十匹くらい倒したところで、親玉が現れた。今、二人が戦っておる」

「マジか……よし、急ぐぞ」


 俺とホーキンス爺さんが急いで向かう。

 場所はホーキンス爺さんの畑。かぼちゃの収穫をしていたら、森の奥から虎が群れで襲ってきたそうだ。たまたま収穫の手伝いをしていたサティ、エミネムが戦っているとか。

 そして、畑に到着。うまい具合に畑の外に誘導したようだ。


「お、いたいた。けっこうデカいな」


 虎は全長二十メートルくらい……デカいな。

 周りには、部下の虎が二十匹くらい。みんな死んでいるようだ。

 サティ、エミネムは剣を構え退治している。


「『雷磁集鉄バンキング』!!」


 お、サティが金属製の農具を磁力で引き寄せ、巨大な『板』みたいな形状にした。


「『風速ウルク』」


 そして、エミネムは風を身体に纏わせ、噴射の勢いで虎に接近。

 なるほど……イフリータも似たような技を使っていたな。


「サティ、隙を作ります。一撃、お願いしますね!!」

「了解ですっ!!」


 農具だけじゃない。鉄分を含む岩石などのサティの磁力に集まっていく。

 どんどん大きくなる『磁力で作った板』が、空中でゆらゆら揺れる。

 そして、虎に接近するエミネムが、強烈な突きを虎の前足に突き刺す。


『ガルルォォォォォ!!』

「っ!!」


 虎が前足を振り、エミネムを押しつぶそうとする。

 だが、エミネムは回避。虎がエミネムを圧し潰そうと、前足でバンバン地面を叩くが、エミネムは全て回避……やるな、ちゃんと攻撃を見てから躱している。


「おいラス、何をぼーっと見てるんじゃ!!」

「大丈夫だって。本当にヤバイ時は手を貸す。たぶん、その必要はないけど」


 すると、サティが磁力の反発を利用して大ジャンプ……あんな技、いつの間に。


「エミネムさん!!」

「はい!!」


 そして、エミネムが離脱。

 ずっと地面を見てエミネムを圧し潰そうとしていた虎は、サティに気づくのが遅れた。

 上空で、巨大な『長方形の集合体』を浮かべたサティが、剣を思い切り振り下ろした。


「『圧殺ギブソン』!!」


 超重量の『磁力で周囲の鉄を集めて板状にした物体』が、虎を圧し潰した。

 かなりの重量だったのだろう。虎は完全に潰れたようだ。

 そして、虎が動き出さないことを確認……サティ、エミネムはハイタッチ。


「「やったあ!!」」


 うんうん、微笑ましい。

 恐らく、今の虎は討伐レートBくらいあったと思う。

 個人では無理でも、二人で協力すれば何とかなる、か。

 今の二人なら、初めて出会った上級魔族くらいなら相手できるかもな。

 俺はホーキンス爺さんと一緒に二人に近づく。


「お疲れさん。見てたけど、大したもんだ」

「あ、師匠!! 見ましたか? エミネムさんと二人で、でっかい虎をやっつけました!!」

「ああ、よくやった」

「あの、ラスティス様……どうでした?」

「強かったぞ。お疲れ、エミネム」

「えへへ……」


 二人とも嬉しそうだ。

 なんとなくサティの頭を撫でると、猫みたいに顔を綻ばせた。

 エミネムもついでに撫でる……うんうん、猫みたいだ。


「それにしても……」


 俺は、虎の死骸を見る。


「虎魔獣、本当に増えたな……」


 ここ最近、虎魔獣が多く出る。

 畑を荒らしたり、村の近くに普通に出没する。

 ホーキンス爺さんは「毛皮じゃ毛皮!!」と喜んで死骸を回収していた。


「サティ、エミネム。とりあえず風呂入れ。汗流してこい」

「はい!!」

「はい。う……汗臭いかな」


 ラクタパクシャ……この虎魔獣たち、お前に関係があるのだろうか?


 ◇◇◇◇◇◇


 屋敷に戻ると、アナスタシアが言う。


「魔獣は?」

「サティとエミネムで対処できた。あの二人なら、レートBくらいの魔獣なら問題なく対処できるだろう。神スキルの使い方も様になってきてるしな」

「そ。それにしても……ここ最近の魔獣の出現率、異常ね」

「……」


 ラクタパクシャの件、アナスタシアは知らない。

 団長にも報告していない。きっとまずいんだろうな。

 このまま魔獣が増え続ければ、面倒なことになる気がする。


「……ラス。原因を探る必要がある?」

「……たぶんな。でも、情報がない」

「そうね。あるとしたら……知能のある虎魔獣、つまり中級魔族に聞くしかないわね」

「中級~? おいおい、そんなのデッドエンド大平原にもいるかどうか。それに、中級は意志疎通が何とか可能ってだけで、会話になるかどうか……聞くなら上級魔族だろ」

「そうね。でも、何もしないよりはましでしょ。このまま虎魔獣が増え続ければ、鉱山開発にも影響が出るわ……というか、もう出ている」


 と、アナスタシアがフローネを見た。

 フローネは頷く。


「さっき、私の育てた斥候が、三番鉱山の下見に行って帰って来たんだけど」


 三番鉱山。

 便宜的に、鉱山四つに番号を付けて管理している。三番鉱山は最後に調査した鉱山で、四つの中では一番未開の地だ。獣道すら微妙なところにある。


「三番鉱山付近に、虎魔獣の足跡が大量に見つかったわ。以前は『セキレイ』だっけ? その鳥の調査だけだったから、見落としたのかも……」

「……ふむ。それで?」

「問題は、足跡。数は二百を超えていたそうよ。で……そのうち、ボスの足跡だけが『二足歩行』だったらしいの。二足歩行の虎……恐らく、中級魔族」

「……そんな奴が、ギルハドレット領地に」

「ええ。ずっと隠れ住んでいたのかもね。最近になって、動き始めた……」

「…………」


 考え込む俺。

 そして、アナスタシアが言う。


「ラス。調査が必要ね」

「だな……よし、俺が行く。数は二百かそれ以上……サティたちはまだ危険か」

「それなら、私が行くわ」

「待った。お前は残ってろ。以前、俺が留守の間に、上級魔族が二体現れた。嫌な予感がするし……お前はここで、仕事と村の防衛を頼む。もちろん、サティとエミネムも一緒に」

「……あなた、一人で行くの?」

「ああ。まぁ、二百くらいなら何とかなる。それに……俺も久しぶりに、本気でやりたいからな」


 そう思っていた時だった。

 屋敷のドアがノックされ、ミレイユが対応する。

 また魔獣か? と思っていたら。


「よ、ミレイユさん。相変わらず美人だけ」

「まぁ!! ラストワンくんじゃない!!」

「は?」


 なんと、ラストワンだった。

 そして、ラストワンを押しのけ入ってきたのは。


「久しぶりね。ラスティス・ギルハドレット」

「ふ、フルーレ? お前も? 七大剣聖が二人も、なんでここに」

「ははっ、お前とアナスタシアもいるから、七大剣聖のうち四人が揃ったってこった」


 ラストワンが笑う。

 するとフルーレが近づき、俺の襟を掴んで顔を寄せた。


「あなた、どういうつもり? 魔族と内通してたの?」

「は? いや、いきなり何だよ」

「私と軽薄男が二人で来た理由なんと、一つしかないでしょ」


 ラストワンが「軽薄男ってオレかよ」と苦笑。

 意味が分からず首をかしげていると、騎士が家に入ってきた。


「私たちが来たのは、あなたに話を聞くため。コイツが何だかわかるわよね」


 騎士が連れていたのは、腕を拘束され、翼を鎖でがんじがらめにされた魔族……ドバトだった。

 酷い怪我をしていた。全身包帯を巻き、息も絶え絶えだ。


「お前、ドバト!!」

「わ、わが友……」

「おいお前ら……こいつに何をした」


 フルーレの手を外し、騎士たちを睨む。

 すると、ラストワンが割り込んだ。


「待て待てキレんなって。こいつをこんな風にしたのはオレらじゃねぇ。というか、お前こそどういうつもりだよ。魔族を……しかも、『天翼』を囲ったって、マジなのか?」

「……」

「その反応、マジか……ったく。お前が暴れ出すかもしれねぇから、オレとフルーレちゃんの二人で来たんだぜ? お前、魔族と内通してるって疑われてんだぞ」

「……マジか」

「まあ、お前が『いい魔族もいるかも』なんて団長に言うから、まずはお前の話を聞くってことになってるんだがな……おいラス、話聞かせろよ。この鳥魔族から聞いた話と、お前の話を合わせて、お前が魔族側に付いたかどうか、判断させてもらうぜ」


 ラストワンは本気だった。

 フルーレも俺を睨んでいる。


「……わかったよ。とりあえず、ドバトを解放しろ。俺もいろいろ聞きたいことあるんだ」


 とりあえず……第三鉱山の調査は、後回しだな。

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