閑話⑤/デッドエンド大平原の虎
七大剣聖序列一位、『神撃』のボーマンダ。
武器は、全長三メートル、横幅一メートルはある巨大剣。重量は推定一トン、材質はグレムギルツ鉱石とオリハルコン、超希少なヒヒイロカネ鉱石を混ぜ合わせた、人間界最高硬度とされる金属。
製造され三十年経過するが、これまで一度も傷ついたことのない武器。
その名も『聖重剣エッケザックス・グレムギルツ』である。
「……終わったか」
ボーマンダは、そんな超重量の剣を片手で持ち、肩に担ぐ。
フルーレはかなり距離を取って見ていたが、戦慄しかなかった。
「あれが、団長のスキル……『神撃』」
ボーマンダの半径数百メートル圏内に、大型の魔獣が粉々になって転がっていた。
あらゆる物を粉砕する『神撃』の力。剣に乗せて振るうだけで、恐ろしい暴力となる。
技名も『神撃』……ボーマンダを冠する技である。
「フルーレ、来い」
「は、はい」
ボーマンダの弱点。それは、あまりに技が強すぎるのと、味方を捲き込み兼ねない力のせいで、仲間がいる場合はかなりの距離を取らせなければならないということ。
フルーレがボーマンダに近づく。
「やはり、魔獣が活性化しているな」
ミンチでわからないが、ボーマンダが倒した魔獣は全て『虎』の魔獣だった。
「フルーレ、気付いたことを言ってみろ」
「はい。ここに来るまでの道中、普段この辺に生息している魔獣はほぼ全て、虎魔獣に食われていました。襲ってきた虎魔獣たちも、その……妙に興奮していたというか。変な直観なんですけど……歓喜していたような、そんな気がします」
「歓喜、か」
「はい。私にはその……虎魔獣たちの叫びが、喜んでいるように聞こえて」
「……ふむ」
「やっぱり。何かある……確実な方法は、もう少し知能のある中級か、それこそ上級魔族を捕らえるなりして、話を聞くべきだと思います」
「確かにその通りだ。だが……この地に、上級魔族はいない」
「ですよね……」
フルーレが、がっくりと肩を落とす。
今、できることは、表れた虎魔獣を倒すことだけだろう。
「団長、次に魔獣が出たら、私が戦います」
「いいだろう───……ほう、さっそく来たか」
「はい。ん……?」
こちらに向かってくる大型の虎魔獣が一体。
フルーレが剣を抜き、構えた時だった。
「あの、団長……」
「……やれやれ、どういう状況なんだ」
虎は、獲物を追っていた。
その獲物は───
「チョウワッ……!! っぐ、こ、ここまで、か……」
鳥人間はボロボロだった。
右手、左足を失い、背中の翼が酷くボロボロだ。そして、空を飛んでいるが今にも落ちそうだった。
あのままでは、いずれ虎に食い殺されるだろう。
フルーレは、落ち着いて言う。
「情報源、ゲットですね」
「ふ……そうだな」
ボーマンダは剣を担ぎ、スタスタとその場を離れる。
フルーレは細剣を地面に突き刺した。
「『
地面が凍りつき、虎に向かって一直線に伸びる。
虎の走る地面が凍り付くと、そのまま滑って転倒した。
フルーレは虎に近づき、細剣の先端を凍らせる。
「『
虎の頭部に連続で突きを入れると、突き刺した部分が凍り付き、虎の頭部で血と混ざりあい一気に氷柱と化す。
フルーレは氷を、水分を凝結させる。それが液体なら、フルーレは凍らせる。
たとえそれが血でも。フルーレの剣に触れた瞬間、血の氷柱となる。
脳が氷柱でズタズタになり、虎は泡を吹いて死ぬ。
フルーレが剣を納めると、驚き見ていた鳥人間が地面に降りてきた。
「チョウワッ……た、助かった!! か、感謝、する……ぅ」
「ちょっと、気を失う前に……ああ、もう」
鳥人間は、そのまま気を失ってしまった。
◇◇◇◇◇◇
テントを張り、同行していた騎士団員に鳥人間の手当てをさせた。
デッドエンド大平原に来ているのはボーマンダ、フルーレだけではない。荷物運搬のための騎士、治療系スキルを持つ騎士も同行させていた。
治療といっても、失った四肢を治すほどではない。
上級魔族は核さえ無事なら四肢もいずれは生えてくる。今は、血止めだけの治療だ。
テントの中で眠る鳥人間を、フルーレは観察していた。
「鳥、ですね……以前私が見たのは虫でしたけど」
「虫は、『地蛇』の元にいる種族だ。鞍替えする者もいるが、こいつは『天翼』の配下だろうな」
「なるほど……それにしても、変な感じ」
フルーレは以前、上級魔族と対峙している。
当時は『敵わない』と思ったが、鳥人間を見ているとそんな風に思わない。
鳥人間が弱っているというのもあるが、自分も成長したのだろうか、とフルーレは考える。
「こやつ、なかなかの強さだな。恐らく『天翼』の配下の中でも、上位の強さだ」
「わかるんですか?」
「ああ。なんとなくな」
現在、テントの周りにはボーマンダ、フルーレのみ。
いざ、戦いとなった場合、一般騎士では相手にならないので、距離を取らせている。
「体力、魔力の衰弱が激しい。自己治癒が働かないほど身体と魔力を酷使したのだろう。恐らく……魔界からここまで飛んできたのだろうな。それだけでも、こいつが強者とわかる」
「問題は、理由ですね……『虎』と関係あるのでしょうか」
「わからんが……今は、こいつから話を聞くべきだろう。幸い、これほど衰弱していれば、一般騎士でも倒せる。念のため、ワシとお前で対処する」
「はい。あの……話を聞いた後は?」
「始末する。上級魔族なぞ、生かしておいて得はない」
「…………」
ふと、フルーレは思い出した。
ラスティス……『もしかしたら、いい魔族もいるかもしれない』ということを。
少し悩んでいると、鳥人間が目を覚ました。
「む、ぅ……」
すると、ボーマンダが剣を突きつけた。
「動くな。そのまま話をしろ」
「チョウワッ……た、頼む。ともに、友に合わせてほしい」
「何?」
「友? あなた、ここに友人がいるの?」
「ああ。わが、主……ラクタパクシャ様の一大事なのだ」
鳥人間は、ボーマンダの剣を抑え、身体を起こす。
フルーレも剣の柄に触れるが───……。
「頼む!! わが友、ラスティス・ギルハドレットに会わせてくれ!!」
「「…………は?」」
想定外の名前に、フルーレとボーマンダは揃って声を出すのだった。
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