上級魔族『美食家』ヤズマットと『調理師』ビオレッタ⑤
少しだけ、時間を遡る。
俺とエミネムは、クロロ山脈に馬でやってきた。
山脈入口に馬を止め、エミネムは遠くにある山を見る。
「クロロ山脈……すごく大きいです。あの、ここからどうやって探せば」
「恐らく、上級魔族は『
「え、え……? ゆ、ユートピア?」
「説明は後。とりあえず、俺の指示に従ってくれ」
「は、はい」
おかしいな……第一部隊の隊長なのに、上級魔族が使う『
まぁいいや。とりあえず今は上級魔族だ。
「では、行きます」
「ああ。無理ばかりさせて悪いな。終わったら、美味いメシでも食おう」
「はい!!」
エミネムの『風』で一気に浮き上がる……さすがに、何度も竜巻に揺られて慣れてきた。
俺の指示で飛んでいくと、魔力が一気に濃くなる。
俺は『見える』けど、エミネムは『感じた』ようだ。
「う……な、何、この魔力」
「『
「!!」
山頂より手前にある崖の傍に、この山には不釣り合いな『家』があった。
あれが、上級魔族の展開した『
近くまで降りると、エミネムは真っ青になる。
「な、なに……この、気持ちの悪い、濃い魔力」
「魔族の魔力と、人間の魔力じゃ濃度が違う。水で例えると、コップ一杯の水が魔族の魔力だとすると、人間は大きな湖くらいの水量が必要になる」
「……え」
「さらに、上級魔族は大きな湖くらいの魔力を使って、この『
ちなみに、この『家』の外殻……やっぱり、とんでもない硬度だ。
壁をコンコン叩くが、鋼鉄を叩いているような感覚がする。
「ど、どうやって中に……?」
「方法は二つ。一つ、魔族に入れてもらう。二つ、無理やり入口をこじ開ける……かな」
「……今回は?」
「こじ開ける」
俺は、ギルガが用意した細長い包み───俺の、
その剣は、柄、鍔、鞘が全て銀色。さらに普通のロングソードより長い剣……いや、『刀』だ。
「わぁ……長いです。それに、綺麗」
「……こいつは、『冥狼ルプスレクス』の牙、骨、核で作った剣……『
「っ!! め、『冥狼ルプスレクス』の……!!」
「さて、少し離れてろ」
俺は普段の剣を鞘ごとベルトから外し、『冥狼斬月』をベルトに下げる。
そして、半身となり、柄に触れる。
「独特な構え……見たことのない流派です」
「はは。俺のオリジナルだからな」
帯刀状態から一気に剣を抜き、俺は『家』の壁を両断。
中は真っ暗だ。だが、恐怖はない。
「さて、俺は行く。エミネム、お前は」
「行きます。不思議です……ラスティス様と一緒だと、何も怖くありません」
「そうかい。じゃあ、頼れるおっさんの力、見せてやるか」
「はい!!」
ちょっと冗談だったが……素直に頷かれると恥ずかしいな。
◇◇◇◇◇◇
領域に飛び込むと、素っ裸のサティが魔族に剣を向けていた。
俺、エミネムが出た場所は上空。建物の上から落下している状態だ。
「あたし、怖い……!! でも、でも……!! ここで、守られるだけで、震えるなんて……そんなの、かっこよくない!! 絶対に勝てなくても、死ぬとしても……誇れる自分で死にたい!!」
サティは泣きながら、震えながらも啖呵を切る。
その姿は情けなくなんてない。とんでもなくカッコよかった。
今、まさに魔族がサティに向かって火を放とうとしている。
「『開眼』」
力の流れを見る。
俺は空中で柄を握り、一気に抜く。
「『飛燕』」
抜刀の勢い、そして力の流れを操り、空を切り裂く斬撃を放つ。
斬撃は、離れた場所にいる魔族の男の右腕を斬り飛ばし、サティの間に着地した俺は向かってくる炎をかき消した。開眼状態なら、炎の流れを見切りかき消すなんれ朝飯前だ。
「いい啖呵だった。よくやったぞ」
「し、ししょ……ぉ」
「うんうん。間に合ってよかった……って、お前ら素っ裸じゃねぇか。ったく……年頃の娘ひん剥いて何しやがった。あの変態どもめ」
「う、ぅ……うぇぇぇぇぇぇぇん!!」
「うおっ!? おいおい、服、服!! おーいエミネム、なんか羽織るモン頼む!!」
「は、はいっ!!」
着地したエミネムが、荷物から手ぬぐいを出してサティ、そしてフルーレへ渡す。
腰布替わり、そして胸を隠すように手ぬぐいを巻く。
俺は泣きじゃくるサティの頭を撫でながら、フルーレの元へ。
「生きてるかー?」
「……痛いわ。本当に、もう」
「そっか。生きてる証拠で、生きてる実感だな……シャロを守ってくれて、感謝する」
「当然のことをしたまで。私……七大剣聖だもん」
「おう。お前も、カッコいいな」
「……ふん」
フルーレは、顔を赤くしてそっぽ向いた。
撫でてやろうと思ったが、フルーレが睨むのでやめておく。
すると。
「これはこれは……侵入者ですか」
男の魔族は、落ちていた腕を拾って断面を合わせくっつけた。すると、数秒しないうちにくっつく。
「お兄様。どういうこと……? 領域の外殻が、
「……その剣。ただの剣ではありませんね? クンクン……その匂い、どこかで」
「おい、そんなことより……言うこと、あるんじゃねぇか?」
「「?」」
「ハドの村を襲撃、俺の仲間を傷つけて、年若い娘を攫ってひん剥くド変態ども。お前らは、俺を本気で怒らせた。まず、俺に謝罪しろ。それが終わったら、ブチ殺す」
「「…………」」
二人は互いに顔を見合わせ、思い切り笑い出した。
「はっはっは!! いやいや……なんとも、面白い人間だ」
「お兄様お兄様。あれ、アホっていうのよ!!」
「……反省の色、なし」
俺は、どこか顔色の悪いエミネムを見る。
「エミネム、大丈夫か?」
「は、はい……あの、ラスティス様……この二人、恐ろしく強いです……!!」
ああ、強さにビビってたのか。
まぁ、上級魔族なんてこの世代は見たことがないからな。
「あの二人は俺がやる。お前は、サティたちを頼む」
「で、でも……」
「大丈夫だって」
俺はニッコリ笑い、首をコキコキ鳴らして一歩前へ。
「まぁ見てろ。俺は七大剣聖の中でも地味だし、脇役っぽいし、ハデな技とかあるわけでもない。でも……こう見えて、けっこう強い」
「……ラスティス様」
「ラスティス・ギルハドレット……」
「師匠……」
若い子たちに、大きな背中を見せるのも、ロートルの役目だ。
この三人はいずれ、アルムート王国でも特に強くなるだろうしな。
「おい、そこの虫二匹。お前らを駆除する」
「「……は?」」
俺は剣の柄に手を乗せ、半身で構えた。
「七大剣聖序列六位『神眼』ラスティス・ギルハドレットだ。さぁ、盛り上げて行こうじゃねぇか」
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