脇役剣聖、イライラする
竜巻で飛ぶこと五時間……休憩を挟んだとはいえ、長時間の飛行は気持ち悪い。
とりあえず一時間頑張ったが無理だった。なので、エミネムの槍でぶん殴ってもらい、気を失った状態で運んでもらった……おかげで、酔いは最小限で済んだぜ。まぁ、後頭部痛いけど。
「あの、大丈夫ですか? その……殴ってゴメンナサイ」
「いいって。おかげで、半日かからず戻ってこれた……大丈夫か?」
エミネムの顔色も悪い……ああ、魔力の枯渇状態か。
無理もない。休憩を入れたとはいえ、ずっと神スキルを酷使してたんだ。
「エミネム、ありがとうな。俺はこのままギルハドレット領地に向かう。時間がどのくらいあるのかわからないが……行かねぇと」
「あの!! だったら、私も行きます!! 私の『風』なら、馬より早く運べ───」
と、エミネムは最後まで言えなかった。
俺たちが着地したのは、第一部隊の訓練場。
そこに、団長が現れた。
「お、お父様」
「…………」
団長は無言でこちらに向かってくる。そして───。
「あうっ!?」
「この、大馬鹿者が!!」
エミネムの頬を張った。
そして団長は俺を見る。
「ラスティス・ギルハドレット、貴様……娘に何を言った!!」
「お父様。ラスティス様に付いて行ったのは私の意志です!!」
「黙れ!! お前には待機命令が出ていたはずだ!! それを無視し、この男にたぶらかされ付いて行くなど、何を考えている!!」
「う……」
…………あー、もう。
「あの、団長。報告があります。中級魔族二体と接触、上級魔族はどうやら、ギルハドレット領地に向かったそうです」
「何ぃ?」
「数は二体。放っておけば、ギルハドレット領地に甚大な被害が出る可能性がある。言いたいことはあるでしょうが、俺はこのままギルハドレット領地に戻ります」
「そんな与太話を信じろと? この場から逃げるための言い訳だろう!!」
…………本当に、もう。
「冗談じゃありません。今は、こんな言い争いしてる場合じゃない。それに、エミネムのおかげで、デッドエンド大平原から数時間で帰ってこれた。確かに、待機命令を無視したのは悪い……でも、連れて行ったのは俺です。責任は俺が取ります」
「ふざけるな!! もういい、貴様は七大剣聖から除名だ。ワシが王に掛け合って、爵位はく奪と領地の没収をするように言ってやる!!」
…………あー。
「はぁ……あの、団長」
「さぁ来い!! エミネム、お前は屋敷に戻れ!!」
「団長」
「黙れ!! 貴様はもう喋るんじゃない!!」
◇◇◇◇◇◇
「───団長」
◇◇◇◇◇◇
腹の奥底から出た声だった。
団長が目を見開き、エミネムが息をのむ。
もういい。本当に、団長に構ってる場合じゃない。
「団長、もう一回言います。責任は俺が取るし、あとで何でもやります」
こんな気持ちは久しぶりだった。
自然と、『開眼』してしまう。
神スキルを得てからしばらくして気づいた。普段の俺は赤い瞳をしているが、『開眼』すると赤目がぼんやり輝くそうだ。
そんな輝いた状態で、俺は団長を見て言う。
「これ以上、邪魔しないでください───
「っ……」
団長が、腰に差してある剣の柄に触れようとした。
不思議だった。
このまま団長と戦うことになっても、別にいい気がした。
「───そこまでです」
と、ここで第三者の乱入……あーもう、マジでめんどくさいう奴だ。
「ランスロット……」
「ラスティス・ギルハドレット。今の話、聞かせてもらいました。ギルハドレット領地に上級魔族が、しかも二体向かったと」
「ああ」
「真偽はともかく、その情報にはあなただけの価値がある。一度だけ聞きます……デッドエンド大平原に、上級魔族はいなかったのですね?」
「いない。いたのは、中級魔族が二体だ。それぞれ別々に主がいるらしく、上級魔族が二体いると確定した。まだアルムート王国を襲撃するには数が足りないらしい……そこで、田舎のギルハドレット領地で、人間を食うとか言ってたぞ」
「わかりました。では、その話は私が王に報告します。のちに、ギルハドレット領地に援軍も送りましょう」
「ランスロット、貴様!!」
「わかった。よし、行くぞエミネム」
「あ、でも」
「いい。俺を運んでくれ……頼む」
「は、はい」
俺はエミネムと一緒に、第一部隊訓練場を出るのだった。
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
ラスティスたちが去ったあと、ボーマンダは地面を思い切り踏みつけた。
すると、地面が爆発……ボーマンダが立つ地面に、クレーターが生まれる。
「ランスロット、貴様!! 何を勝手に!!」
「団長、落ち着いて下さい。ふふ、むしろ感謝して欲しいですね」
「何……?」
ランスロットは、ボーマンダに近づく。
互いの間合い。だが、二人は剣を抜くようなことはない。
「あなたは、ラスティスを怒らせるところでした。わかりますか? ラスティスが本気になれば、あなたの首は落ちてましたよ」
「馬鹿を言うな。あのような腑抜けの剣が、ワシに届くとでも」
「届きます。ラスティスは、腑抜けではありません」
「……なんだと?」
「団長、あなたは知らないのです。ラスティスが腑抜けた理由を……『冥狼侵攻』の真実を」
「……貴様、何を知っている」
ランスロットは、七大剣聖に抜擢されたとはいえ、当時はまだ新人。
後方待機だったはずなのに、気付けばラスティスの近くに……そして、ルプスレクスを討伐した。
ラスティスが腑抜け、ランスロットが英雄となった『冥狼侵攻』……ボーマンダは、何も知らない。
ランスロットは、口を少しだけ歪めて笑った。
「まぁ、あなたは知らなくていい。今は、高い場所で眺めていてください。ああ……高い場所だからこそ、見えない景色があるというのもお忘れなく」
「……貴様」
それだけ言い、ランスロットは去っていった。
今、大事なことは上級魔族。そのはずなのに……ボーマンダもランスロットも、まるで頭にないようだった。
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
「頬、大丈夫か?」
俺はエミネムの腫れた頬を見た。さっき団長に叩かれた跡が残っている。
エミネムは頬を押さえ、少しだけ微笑んだ。
「大丈夫です。それより、早くギルハドレット領地に行きましょう。いつ、魔族が現れるかわかりませんから!!」
「ああ。だが……あまり無茶するな。お前の魔力の様子を見て急ごう」
「はい!!」
目立たないよう、第二部隊の訓練場に移動して飛ぶ。
エミネムの竜巻で身体が浮かぶ───少しは慣れたか、何とか耐えられそうだ。
「あの、ラスティス様」
「ん……」
「ギルハドレット領地には、兵士や騎士はいますか?」
「元騎士ならいる。俺の部下だった連中でな……俺がギルハドレット領地を治めることになっても付いてきやがった馬鹿どもだ。全く……あいつらの腕前なら、部隊長クラスになれたのにな」
と───『騎士や兵士』で思い出した。
「サティ、フルーレ……あいつら、大丈夫かな」
上級魔族と鉢合わせ……いやいや、そんな最悪なこちとにはならないって、マジで!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます