脇役剣聖、最後は締める
ダンジョンを巡って早十三日……いよいよ、最後のダンジョンに挑戦する時がきた。
最後のダンジョンは、廃棄された街。
大昔、人が住んでいた街だが、どういうわけか濃度が濃い魔力が地面から吹き出し、そのままダンジョンと化してしまった場所だ。
廃棄されて百年ほど経過しているらしいが、近づいただけで『濃い』街だとわかる。
そんな街の入口に、俺たちはいた。
「ここが最後のダンジョンだ。感じるか?」
「「「…………」」」
三人とも無言。
この十三日。ダンジョン漬け、戦い漬けの毎日だからか、疲労が濃い。
だが……間違いなく、三人は強くなっていた。
「俺が『視た』ところ、大型の中級魔族が四体いる。それぞれ進んで、そいつらを討伐してこい」
「四体……最後の一体は?」
サティの覇気がない。眼もドロンとしてるし、全身ドロドロだ。
フル-レ、エミネムも同じだ。疲労こそあるが、逆に研ぎ澄まされた剣のような雰囲気がある。
「最後の一体は、俺が倒す。俺も運動不足だし……それに」
「……それに?」
「ふふ。内緒だ。さて、終わったらみんなにご褒美をやろう。さぁ、頑張れよ!!」
「ご褒美!! わぁ、なんだろう?」
「……子供じゃないんだけど」
「ラスティス様のご褒美……」
みんな、少しは元気が出ただろうか。
俺はみんなの背中を叩き、ダンジョンに送り出した。
「さて、俺も行くか……少しは、動かないとな」
俺にも、大事な仕事があるからな。
◇◇◇◇◇◇
俺が真っ先に向かったのは、町の一番奥。
道中の魔獣は無視。町の一番奥にあったのは領主の館。ここを根城にしていたのは、漆黒の騎士。
真っ黒な鎧、マント、そして剣を持つ騎士……じゃない。
こいつは魔獣だ。
「『黒騎士ブジンソード』か……昔、こいつと似た魔獣を、何体も倒したっけ」
討伐レートはSの、危険な中級魔族。恐らく、俺が倒した上級魔族と同じくらい強い。
「参ったな……俺じゃなくて、サティと戦わせればよかったかな」
すると、黒騎士は剣を抜き、盾を構える。
俺は抜刀態勢に入り、剣の柄に手を添えた。
「悪いけど、お前の後ろにある屋敷に用があるんだ。それと───……俺もやることができたんで、ちょっとお前には付き合ってもらうぞ」
俺の腰には『冥狼斬月』があり、俺は半身で柄に手を添えている。
黒騎士は、剣を振りかざして俺に迫ってくる。
「───……」
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
サティ、エミネム、フル-レの三人は、ラスが指定した魔獣と戦闘していた。
が───……一瞬だけ感じた強大な『圧』に、思わず動きを止めてしまう。
「……師匠?」
「……」
「ラスティス様……?」
三人とも、同じことを考えていた。
間違いない。
ラスティスが、本気の一撃を繰り出した。
何が起きたのか理解できないし、ラスティスが本気を出すレベルの敵がいるとも思えない。
それでも、ラスティスは本気で剣を振るったのが、三人にはわかった。
「師匠───……さすがです!!」
「……本当に、嫌になるわね。なんであれだけの力で、序列六位なのかしら」
「本当に、ラスティス様はすごい」
三人は、気合を入れ───今ある全力の力で、魔獣を屠った。
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
三人が、俺のいる領主の館にやってきた。
怪我らしい怪我もしていない。その表情は自信に満ちており、やり切った感じが見て分かった。
俺は、三人を出迎える。
「お疲れさん」
「師匠、終わりました!!」
「ふぅ……不思議と、強くなった気がするわね」
「不思議じゃありません。私たち、強くなりました」
そう、三人は強くなった。
ダンジョンに挑戦する前とは雲泥の差。今なら、上級魔族とも戦える。
俺は三人を連れ、領主の館に入る。
「今日はここを宿にする」
「あの、師匠……さっき、ものすごく強い力を感じたんですけど」
「ああ、俺だ。ここを根城にしていた中級魔族を倒したんだ」
「……そんなに強い魔獣だったんですか? 師匠なら、その……もっと軽くやっつけられたんじゃ」
「ま、俺にもいろいろあるんだ。さ、お前たちが来る前に掃除したぞ」
空き部屋の一つを掃除し、テントを張った。
無事な椅子テーブルを集めて綺麗に水拭きしたし、窓も綺麗に拭いた。
今日はここで一泊。明日、王都に戻って最終調整をして、闘技大会に挑む。
「さて、みんなにご褒美をやろう」
「やったー!! わくわく、なんだろう?」
「……甘いの、食べたいわ」
「ああ、確かに……ご褒美って、チョコとかですか?」
「違う違う。ささ、こっちに来い」
三人を連れて、領主の館一階の隅にある部屋へ。
そこのドアを開けると───ふっふっふ、そう、脱衣所だ!!
そして、脱衣所の先にあるドアを開けると、そこにあったのは浴場だった。
「というわけで、ご褒美は『風呂』だ!! 掃除もして、湯も張り替えたから綺麗だぞ~」
「おおお!! すごいです!!」
「へぇ……これは嬉しいわね」
「あの、ラスティス様。ここにお風呂があるって、知ってたんですか?」
「ああ。団長がくれたダンジョンの地図と資料を見て、ここの領主館には風呂が備え付けられているのを知ったんだ。で、詳しく調べたら、この地下に温泉が湧いてるらしくてな、領主が独り占めしてたんだよ。ゆるせん奴だ」
俺が全力を出して魔獣を屠った理由その一。早く温泉を確認したかったから……なんて、あまり言いたくないことだ。
「さ、俺は夕飯の支度するから、お前たちはゆ~っくり風呂に入れ」
「はい!! やった、みんなで入りましょう!!」
「いいわね。ふぅ……ここ最近、ずっと戦い漬けだったし、のんびりしたいわ」
「私も、身体を洗いたいです。ふふ、温泉……嬉しい」
三人はキャッキャしながら温泉へ。
俺は食事の支度……ふふふ、温泉は後で楽しませてもらうぜ。
◇◇◇◇◇◇
深夜。
俺は一人、温泉を堪能していた。
「ふぁぁぁ~……いいね、温泉」
サティあちは、温泉から上がって食事を済ませると、疲れのせいか死んだように眠っている。
明日、王都に帰るだけだ。今日はのんびり休んでもらおう。
そして、明後日……いよいよ、始まる。
「アルムート王国騎士団と、アロンダイト騎士団の親善試合。闘技大会、で……アルムート王国騎士団には、生き残りを賭けた戦いか」
今更だが、死ぬのはアルムート王国騎士団で、王国騎士団が買ってもアロンダイト騎士団には特にダメージはない。アルムート王国騎士団も延命するだけで、いずれは解体される日が来るかもしれない。
「……ランスロット」
奴は、何を考えているのか。
考えられることはいくつかある。
まず、権力……アルムート王国騎士団が解体され、ただの一般兵として運用されることになれば、その全ての指揮権はランスロットの手に落ちる。
七大剣聖は独立してるから指揮権はないが、王国騎士、兵士の全てはランスロットに従うだろう。
「あいつは、権力を望んでいるのか? ったく……ヴァルファーレ公爵家も立派な権力だろうが」
昔のランスロット……そういや俺、あいつのことよくわからんな。
あいつがなんでああなったのか……そこに、ランスロットの闇が隠されているような、そんな気がした。
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