脇役剣聖、試合前に激励

 闘技大会、いや親善試合……まぁ、どっちでもいい。

 ダンジョンから戻り、団長に報告。

 闘技大会の詳細を聞いた。

 現在、俺とサティとエミネム、フルーレ、団長が選抜した闘技大会の代表騎士五人で、会議室にいた。


「試合は明日。早朝より始める。第一訓練場には陛下と殿下、そして騎士たちが多く集まる……ここで我々が敗北すれば、アルムート王国騎士団は解散となるだろうな」


 代表騎士五人は知っているのか、特に驚かない。

 団長が大会のために鍛えなおしたんだろう……騎士の中でもかなり強い。

 でも、サティとエミネムには劣る。もともと、この二人は『神スキル』持ちだし、鍛えれば鍛えるほど、スキルの力は強くなる。

 団長が言う。


「さて、試合は勝ち抜き戦。総当たり戦ではない……先鋒が戦い続けることもできる」

「私がいきます」


 これには全員、特に団長が驚いていた。

 団長が言い終わる前に挙手したのは、エミネムだ。


「……本気か」

「はい。私一人で、六人倒します。最後、イフリータ総隊長は、サティに譲りますので」

「え、エミネムさん……」

「ふふ、言うわね。面白いじゃない」


 サティが唖然とし、フルーレが面白そうに笑った。

 まぁ、これには俺も同意する。


「団長、どうします? 俺はいけると思いますけど」

「……確かに。エミネムは以前と別人だ。正直……ここまで化けるとは思わなんだ」

「お父様……」

「確認する。いけるのだな?」


 団長は、エミネムをまっすぐ見た。

 エミネムも、団長の目をまっすぐ見て、大きく頷く。


「いけます」

「───……いいだろう。では、先鋒をエミネム。次鋒をサティとする」

「……お父様」

「『神スキル』持ちとして、恥ずかしくない戦いをしろ」

「───はい!!」

「……後で、第一部隊長室に行け。以上」

「え?」


 それだけ言い、団長は出て行った。 

 その後、俺で残りの騎士の順番を決め、解散となった。

 今日はサティ、第一部隊の宿舎にあるエミネムの部屋に泊まるとか。

 俺も、王城にある自分の部屋で休むことにした。


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


 エミネムは、サティと一緒に第一部隊の部隊長室……エミネムの執務室へ。

 執務室に入ると───細い包みがテーブルに置いてあった。


「……これって」

「団長さんが言ってたヤツですか?」


 包みを外すと、それは───、一本の槍。

 いつも使っている愛用の槍とほぼ同じ形。先端部分が、少しだけ改良してあった。

 

「わぁ~、綺麗ですねぇ。槍の部分、まるで宝石みたいです」

「……グレムギルツ」

「え?」

「グレムギルツ公爵領地で採掘される鉱石です。少量しか採掘できない、希少な鉱物なのですが……」


 グレムギルツ鉱石。

 ミスリルより硬く、ダマスカス鋼に匹敵する硬さ。そして魔力を流しやすい材質として貴重な素材。それが槍の部分に使われていた。


「……お父様」

「団長さん、エミネムさんのために、新しい槍を……素敵なお父さんですね」

「……」


 エミネムは何も言わず、槍をそっと抱きしめた。


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇

 

 翌日。

 試合の日。俺は第一部隊訓練場に行く。

 すると、サティとエミネム、団長、そして五人の騎士、ついでにフルーレが揃っていた。

 

「おはようございます。ラスティス様」

「師匠、遅いです!!」

「おう。というか、時間通りだぞ……ん? エミネム、新しい槍か?」

「ええ。今日はこれを使います」


 ちらっと団長を見る……ああ、そういうことか。

 団長、エミネムが可愛いのか親バカなんだよな。というか、娘にそんな優しくできるなら、息子のケインくんにも優しくしてやればいいのに。


「……なんだ、ラスティス」

「いえ、なんでも。さて……そろそろ試合か。ひょんなことから始まったけど、これに騎士団の未来がかかってるのか」

「フン。騎士団のことなぞ、どうでもいいくせに」

「そんなこと思っていませんよ。それに……ランスロットにこれ以上、権力を持たせない方がいい」

「ほう、貴様がそう言うとはな」

「団長は、権力の重さを知ってるから任せて大丈夫ですけど、ランスロットはまだガキですからね」

「……ふむ」

「ちょっと昨日、思い出したことがありまして。ランスロットのことでね」

「…………」

「まぁ、今は試合に集中しましょう」


 こうして、闘技大会が始まる。


 ◇◇◇◇◇◇


 団長、ロシエル、フルーレ、ラストワン、アナスタシアの五人は、観戦場に設置された陛下と殿下のための特別席の近くに座った。

 俺、ランスロットはそれぞれ代表選手のいる専用スペースにいる。

 訓練場の周囲には、オリハルコン製の壁板で補強してあるので、強力なスキルでも傷つくことはない。

 相手側の専用スペースを見ると。


「ランスロットと、その娘たちか……」

「……イフリータ、エニード、ロディーヌ、カリア、ブランゲーヌ、リン。みんな、アロンダイト騎士団では上位の強さを持つ騎士です。と……最後の一人は、初めて見ました」

「…………関係ありません。誰だろうと、蹴散らします」


 エミネムはすでにやる気満々。

 だが、その前に。


「アルムート王国騎士団、そしてアロンダイト騎士団。わが国には二つの騎士団がある」


 陛下の話が始まった。

 俺たちは全員、陛下の方へ向く。


「上級魔族の脅威がある今、二つの騎士団の力を合わせ───」


 陛下の話が続く。

 すると、エミネムがぽつりと言う。


「騎士団が二つあることに対して、陛下はどう思っていたのでしょうか……」

「さぁな。でも、ルプスレクスを討伐したランスロットの意見を無視するわけにはいかなかったんだろう。それに、戦力という意味では、無駄じゃないと思う」

「……そうですか」

「お前は、納得いかないのか?」

「いえ。多少の憧れはありましたけど、特に思うことはありません。でも……私と同世代で神スキルを持つ、イフリータ総隊長と話してみたい気持ちはありました」

「ふむ……」


 イフリータ。あの赤い髪の少女か。

 なかなか大きな剣を持っている。あれを振り回すのかな。

 サティを見ると、陛下ではなくイフリータを見ていた。


「……イフリータ」

「サティ、大丈夫か?」

「あ、はい。ちょっと緊張してるかもしれません」

「リラックスしろ。これが終わったら、ギルハドレットに帰ろう。あ、公衆浴場も完成してるかもな。俺、新しい風呂まだ一回しか堪能してないんだよ。もっと入りたいぜ」

「あはは。師匠らしいですね」


 サティも、少しは緊張がほぐれたかな。

 陛下の話が終わり、参加騎士たちが剣を掲げた。


「では、第一試合!!」


 団長が大きな声で叫ぶ。

 エミネムが、槍を手に前に出た。


「では、行ってきます」

「ああ、エミネム……勝ったら、何でもご褒美やるからな。王都にある美味い店とか、いい雰囲気のバーとか連れて行ってやる」

「───っ」


 エミネムは、ブルリと震えて戦いの場へ。


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


 ステージに上がったのは、エニードだった。


「ハッ……サティかと思ったけど、お前かよ」

「…………」


 エニードの手には剣。

 肩でトントンと担ぎ、ニヤニヤしながらエミネムを見る。


「ダンジョン、潜ったんだって? ハハッ……こっちはな、親父と地獄の特訓だ。ダンジョンなんて生ぬるいヤリ方じゃねぇ……命を懸けた戦いだ。成長するなってのが無理だ。断言するぜ、今のアタシは、神スキル持ちと同じレベルだぜ」

「…………」

「お前、アルムート王国騎士団唯一の神スキル持ちらしいな? ククッ……おっさんたちに囲まれてどうだった? くせぇケツ舐められたか? いいよなぁ、生ぬるい場所でイキれるってのは」

「…………です」

「あ?」


 ボーマンダが手を上げ、思い切り叫ぶ。


「それでは、試合開始!!」


 エニードは剣を肩で担ぎ、スキルを発動させようとした。


「……ラスティス様が、どんな場所でもいい……って。それって、ででで、デート……っ!! か、勝ったら、デートしてくれる……っ」


 ぶつぶつと、エミネムが何かを言っていた。

 とりあえず───瞬殺し、サティを引きずり出す。

 そう、決めた時だった。


「邪魔です」


 ゾッとした。

 エミネムがエニードを見て、ニヤリと笑ったのだ。

 背筋が凍り付く───そう思った瞬間、エニードは『竜巻』に巻き込まれ、吹き飛ばされ、観客席に激突した。

 エニードは、観客席に激突した衝撃で、意識を刈り取られた。


「すごく、やる気が出てきました。さぁ───次はどなたですか?」


 エミネムの周囲には、小さな竜巻がいくつも渦巻いていた。

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