脇役剣聖、修行を付ける
フル-レの屋敷は、さすが七大剣聖と言わんばかりに大きい。
裏庭には訓練用の広場もあり、俺とサティは向かい合う。
サティは双剣。そして俺は木剣だ。
「はぁぁぁぁ!!」
サティの連続攻撃。
俺がいない間も訓練を続けていたのだろう、鋭さが増している。
技の組み合わせも、フェイントも、一撃の重さも、初めて出会った頃に比べると雲泥の差。うん、かなり成長しているな。
俺は、木剣でサティの斬撃を受ける。さすがに、真剣を木剣で受けると両断されてしまうので。
「───……っ、っく!!」
「ほれほれ、速度落ちてるぞ。それと、太刀筋だけ見ないよーに」
俺は、サティの剣の切っ先、それも側部だけを木剣の切っ先で突き、斬撃を受け止める。
「……どういう目をしてるんだか」
木剣を持ったフル-レがぼそりと言う。
悪いな。目の良さだけなら、俺は間違いなく七大剣聖最強だ。
「せめて、一太刀っ!!」
「お」
バチンと、サティの身体が紫電で爆ぜた。
一応、剣術だけの場合はスキルなしだけど……どうやら、無意識に発動したらしい。
速度が跳ね上がり、一瞬で俺の間合いに入った。
「だぁ!!」
剣を交差させての一撃。
だが、俺は木剣を突き出し、剣が交差した瞬間、剣の側部を突いて動きを止めた。
「くっっ!?」
「はい、そこまで」
「うう……一太刀も入れらませんでしたぁ」
剣を落とし、サティはへたり込む。
俺は、サティの剣がボロボロなのに気づいた。
「サティ、剣……だいぶボロボロだな」
「そうなんですよ。昨日、武器屋を何件か回ったんですけど、いいのがなくて……」
「ふむ……じゃあ、俺の知り合いの武器屋、ってか鍛冶屋に行くか」
「え!? 師匠の鍛冶屋!?」
「俺のじゃなくて、俺の知り合いな。俺の剣を打った鍛冶屋でもある」
「行きます!!」
「よし。今日は午後から会議があるから……飯食ったら行くか」
「はい!!」
と、ここでフル-レが割り込んできた。
「ちょっと、買い物の前に、私の相手よ」
「わかってるって。ほれ、かかってこい」
「その余裕、無くしてあげるわ!!」
フル-レが立てなくなるまで相手をしたが……こいつも、かなり強くなっていた。
◇◇◇◇◇◇
朝食をフル-レの家で食べ(俺も頂きました。うまかった)、俺の案内で鍛冶屋へ。
「……なんでお前まで?」
「別にいいでしょ」
なぜか、フル-レも付いてきた……まぁ、いいけど。
向かったのは、王都の裏路地。
王都にもスラム街みたいな無法地帯があるが、ここはその手前。
ぼろいレンガ倉庫。室内からは、鉄を打つ音が響いている。
横開きのドアを開け中に入ると、すごい熱気だった。
「婆さん、いるか?」
「ほ、こりゃ懐かしい。十年ぶりくらいかの」
カウンターに座っていたのは、八十を超えた婆さんだ。
奥からは鉄を打つ音がする。作業場で鉄を打つのは、筋骨隆々のヒゲマッチョだ。
「わぁ……すごいです」
「あの人が、鍛冶師? すごい威圧感」
「……ラス、娘が二人もできたのかい?」
「んなわけあるか」
「じゃあ嫁かい? お前さん、子供に手を出すほど相手がいないとはねぇ」
「うっせ。ってか、そうじゃねぇよ。仕事だ仕事。依頼だよ」
「ほほ、依頼かね……どっちのだ?」
婆さんは、サティとフルーレを交互に指さす。
俺はサティを指差した。
「武器は双剣だ。形状とか、長さとかは本人から聞け」
「わわっ」
俺はサティの背を押して前へ。
婆さんは、サティにいろいろ質問をしたり、身長や手の大きさを図る。
「……ここがあなたの剣を打った鍛冶場なのね。あの人が鍛冶師……鍛冶師、初めて見たわ」
「あ? ああ、鍛冶師な」
「ここに来るの、久しぶりなの?」
「まぁな。『冥狼斬月』を打ってもらって……最後に来たのは、俺が王都を去る前だったかな」
「ふーん」
すると、サティが戻ってきた。
質問攻めにあったようで、少しフラフラしている。婆さん、話長いし早口だからな。
「ラス、代金」
「ああ。これでいいか?」
出したのは、指先ほどのルプスレクスの骨。
銀色の骨を手に取り、ルーペで確認……満足したのか、ニヤリと笑った。
「いいね。じゃあさっそく作ろうかね……ダグラス!!」
「へい、師匠!!」
「「……え?」」
筋骨隆々の、いかにも『鍛冶師』っぽい男ダニエルが立ち上がり、婆さんに向かって頭を下げた。これに驚いたのはサティ、フル-レだ。
ま、驚くと思って黙ってて正解だったぜ。
婆さんは首をコキっと鳴らすと、ダグラスが手渡す槌を手に取る。
「え? え? お、おばあちゃん?」
「ちょっと……まさか、あんな老人が?」
「老人ねぇ……ま、見てろ」
すると、婆さんの身体に艶、ハリが戻っていく。身長も伸び、身体つきも変わる。
あっという間に、二十台後半ほどの、ワイルドな美女が、大きな槌を片手で弄びながら、俺たちに向かってウインク。ダグラスがとろーんと魅了されていた。
「三時間!! そこで待ってな」
「はは、はい!!」
婆さんは、さっそく作業を始めた。
すると、フル-レが俺の袖を引く。
「ちょっと、何よあのお婆さん……あんな、一気に若々しくなって」
「あれが婆さんのスキル、『
「まさか、女性で鍛冶師なんて……」
「ダグラスが鍛冶師って思ったろ? ま、それも間違っていない。婆さんが仕事する相手は、気に入った相手だけだからな」
「……すごいわね」
婆さんの横顔を見て、フル-レは感心したように目をキラキラさせていた。
◇◇◇◇◇◇
三時間後。
「ほれ、持っていきな」
「わぁ……」
なんともまぁ、見事な双剣があった。
片刃の、ロングロードのような双剣……だが、左右で長さが違う。
一本目は普通より少し長く、もう一本はその半分ほどの長さだ。
「婆さん、長さ……あー、何でもない。プロの作品に意見するほど馬鹿じゃない」
「わかってんならいい。小娘、どうだい?」
「……すごい」
鞘、ベルトも新調し、サティは腰に下げる。
ちなみに鞘とベルト。婆さんが鍛冶をしている間、ダグラスがせっせと作ってた。
「すごくしっくりきます。私の、新しい双剣……」
「折れたり、切れ味悪くなったらまた来な。ま、ルプスレクスの骨を使ったんだ、そう簡単に折れはしないと思うけどね」
「何? おい婆さん、ルプスレクスの骨使ったのか?」
「ああ。あの小娘見てたら使いたくなってね。それに、『神雷』だったか……ルプスレクスの骨と相性がいい。もう溶解したりしないはずさ」
「……お婆さん、ありがとうございました!!」
サティはペコっと頭を下げる。
婆さんは、キセルをふかしながら言った。
「婆さんじゃない。ローデリカって名前があるんだ。さ、用事済んだら出て行きな」
婆さんは、ハエでも追い払うようにシッシと手を振る。
邪険にされながらも、サティは笑顔で頭を下げた。
◇◇◇◇◇◇
婆さんの鍛冶屋を出て、俺は言う。
「サティ、俺とフル-レは王城に行く。お前は……」
「サティ。王都の東門を出て真っすぐ進むと、見晴らしのいい平原があるわ。そこで、スキルと剣の練習でもしなさいな」
「はい!! 師匠、フル-レさん、行ってきます!!」
サティは行ってしまった。
まぁ、試し斬りとかしたいだろうし、今日はスキルの訓練はしていない。
フル-レを見ると、答えを用意していたのかスラスラ言う。
「安心して。東の平原に魔獣は出ないわ。昔から、私が訓練に使っていた場所でもあるの」
「そうかい。ま、今のサティなら、中級魔族でも出ない限り、問題ないだろ……たぶん」
「何よ、その『多分』って」
俺とフル-レは、のんびり歩きながら王城へ向かうのだった。
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
「……東の平原ね」
ラス、フル-レは気付かなかった。
鍛冶屋の外で、サティを見張っていた人影……エニードの存在を。
「へへ、話をする前に……ちょっと揉んでやるのもいいかもなぁ」
エニードは、サティの後を追って王都の東門へ向かうのだった。
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