閑話②/アロンダイト騎士団にて
「……何? サティだと?」
アロンダイト騎士団本部。
アルムート王城の一角にある、訓練場を兼ねた巨大な兵舎。イフリータは騎士団長室で、エニードからの報告を聞いた。
エニードは、見るからにイライラしていた。
「ああ。あのクソ野郎……今度見つけたらブチ殺してやる」
「……意外だな?」
「あ?」
「お前のことだ。プライドが邪魔し、私へなど報告せず、自分の手で始末をつけると思ったぞ。サティは今や平民、騎士団であるお前に手を上げれば、問答無用で処罰できる」
「ンなつまんねえぇことするかよ。どうせやるなら、徹底的に追い込んでやる」
「……おい、騎士の範疇を超えた制裁をするようなら、私が黙っていないぞ」
チリッと、イフリータの髪が少し燃えた。
神スキル『神炎』……アロンダイト騎士団でたった一人の神スキル持ちであるイフリータ。エニードはイフリータを怒らせたら面倒だと、舌を出す。
「フン。向こうだって、アタシが執念深いの知ってんだ。来るってわかれば警戒するだろうさ。襲撃なんて考えてねぇよ」
「それならいい。わかったらさっさと行け。私は忙しい」
イフリータの机には、書類が山積みになっている。
一枚一枚確認し、黙々と作業をしている少女に手渡した。
「カリア、頼む」
「は、はい~」
眼鏡をかけた、小柄な少女だ。
髪はクセッ毛で、荒事には向いてなさそうな気弱な少女に見える。
エニードは、今気づいたように言う。
「なんだ、いたのかよカリア」
「い、いましたよ~……エニードさん、暇ならお手伝いしてください~」
「ヤだね。そういう書くモン、学のねぇアタシには無理だ」
「ううう」
エニードはソファにドカッと座り、大きな欠伸をする。
すると、ドアがノックされ、金髪縦ロールの少女と、どこか眠そうな桃色ロングヘアの少女が入ってきた。
「失礼しますわ、団長!!」
「ブランゲーヌか。騒々しいぞ」
「団長!! アルムート王国騎士団と親善試合をするというのは、本当ですか!?」
「……どこで聞いた?」
「その反応……やはり、本当なのですね!?」
金髪縦ロールこと、ブランゲーヌは目をキラキラさせた。
すると、桃髪ロングヘアの少女が欠伸しながら言う。
「団長、ごめんなさい……くぁぁ、王国騎士団が噂話してて、聞いちゃった」
「ロディーヌ。全く、盗み聞きはするなと言っているだろう」
「ごめんなさい……ふぁぁ」
謝ってはいるが、ロディーヌは眠そうだった。
すると、またしてもドアがノックされる。
「失礼する。団長殿、追加の書類をお持ちした」
長い黒髪の少女だった。凛とした表情で、追加の書類をテーブルに置く。
あっという間に、室内はにぎやかになった。
「おお、皆さん、お揃いでござるな。何やら楽しそうでござる」
「やれやれ……」
イフリータはため息を吐く。
「まぁ、あとで全員に伝えるつもりだったし問題ない。ブランゲーヌの言う『親善試合』はある」
「「「「!!」」」」
「親善試合?」
部屋に入ってきたばかりのリンは首をかしげる。ロディーヌがボソボソとなぜか耳打ちで事情を説明すると、「おお、楽しそうでござるな!」とニコニコ笑いだした。
「親善試合という名だが、実際はそうじゃない。アルムート王国騎士団、そして我らアロンダイト騎士団、どちらが優れているか優劣をつける大会だ」
イフリータがそう言うと、全員がニヤリと笑う。
「お父様のおかげで、アロンダイト騎士団は今や王国を代表する騎士団と言っても過言ではない。そして、アルムート王国騎士団を解体し、一般兵として運用する案も出ている……我々が、王国の兵を率いる騎士団となる日も、そう遠くない」
「ああ、ついに!! ふふ、野蛮な男の騎士たちを足蹴にして、私たちが上に立つ日が……!!」
ブランゲーヌがゾクゾクしている。
ロディーヌが、ブランゲーヌの頬をツンツンするが、何やら卑猥な妄想をしているのか反応がない。
「ブランゲーヌ、ロディーヌ、カリア、リン。今でこそ部隊は十三あるが、お前たちはアロンダイト騎士団『
「お待ちを。団長殿……王国騎士団にも、神スキルの持ち主はいますぞ」
「……第一部隊、七大剣聖の娘エミネム・グレムギルツか。ふん、そいつは、私が直々に相手をすることになりそうだ」
「ケッ……『
イフリータは、不敵な笑みを浮かべた。
エニードはつまらなそうに舌打ち……だが、何か思いついたのか、イフリータに言う。
「なあ団長様よ。その親善試合……相手は、アルムート王国騎士団なんだよな?」
「そう言っている。まあ、さすがに全団員同士を戦わせることはない。代表者を選び戦うことになる。建前はあくまで、『騎士団同士の主戦力の戦力向上』が目的だ。他の騎士たちは主戦力である我らの戦いを見て、闘志を燃やし、自己鍛錬に精を出す……というのが狙いだな」
「ほほ~……なぁ、親父に頼み事したいんだが、いいか?」
「……何をするつもりだ」
エニードは、この中の誰よりもあくどい笑みを浮かべ、親指を立てて首を掻っ切る真似をした。
「なぁに。生意気なサティを、公開処刑できるかもと思ってな」
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