脇役剣聖、リラックス

 ラストワン。

 七大剣聖、序列四位の剣士。剣士といっても、こいつはちょっと……いや、かなり特別だ。

 ラストワンが指を鳴らすと、『曲刀』が現れてはクルクル回転する。


「悪いなラス。こいつは、オレの案件だ」

「別にいいけど。あー、楽できるわ。じゃ、あとは頼む」

「ちょ、師匠!! リラックスしすぎです!! お久しぶりですラストワン様、その、お手伝いを!!」

「ははは。いらねーって。ま、見てな」


 ラストワンが馬車から飛び降りた。

 そして、向かってくる盗賊に向けてダッシュ。


「『Two hundred《トゥ ハンドレッド》』」


 ラストワンが指を鳴らすと、空中に大量の曲刀が現れ回転。ラストワンが手を盗賊たちに向けると、回転する曲刀が盗賊たちに飛んでいく。そして、ブーメランのように軌道を変え、曲刀が盗賊たちを一気に切り刻んんだ。


「な、なにあれ……すごい」

「ラストワンの神スキル、『神増かみまし』だ。見ての通り、あいつは触れたモンを何でも増やす。とにかく増やす。で、あんなふうに投げて戦う。集団戦で、あいつに勝てる組織はないぞ」

「す、すごい」

「ちなみに、素の剣技も強い」


 ラストワンは、東方だか南方で手に入れた『曲刀』を気に入り、自分の剣として使ってる。神スキルで数を大量に増やし、一気に投擲して戦う殲滅戦を何より得意としてる。

 どのくらい増やせるのか? 試してみたが、二千を超えても「まだいける」みたいな感じだったので検証していない。

 まぁ、あの盗賊はラストワンの案件みたいだし、任せていいか。


「ケインくん。あとはあいつに任せて、ここから離脱しよう」

「え!? い、いいんですか!?」

「ああ。あいつの案件らしいし」

「し、しかし……七大剣聖が戦っているのに、素通りするのは」


 真面目だな。まぁ……なんであいつの案件なのか、事情くらいは聴いてもいいかな。

 とりあえず、ラストワンが戦っているのを眺めながら、俺は欠伸をした。


「師匠……ほんとに、手助けとか」

「いらないって。ほら見ろよ、もう首領とその取り巻きくらいしかいない」


 サティも、馬車の上で寝転んでいる俺の隣で座っている。

 ラストワンが首領に何かを言うと、首領の顔色が悪くなる。そして、無数の曲刀を生み出して側近たちを始末し、首領の首に剣を突きつけた。


「おお、終わりそうだ」

「す、すごい……百人くらいいたのに、十分もかからず制圧しちゃった」


 お、ラストワンが首領の首を両断した……盗賊、あっけなく終わってよかったぜ。


 ◇◇◇◇◇◇


 ラストワンが、盗賊の首領の首片手に戻ってきた……そんなモン見せながら持ってくんなよ。


「ようラス。ははっ、聞いたぜ~? お前、団長に喧嘩売ったんだってな!!」

「……会うなり何だっつの」

「団長、ずっとイライラしてたからな。っと……久しぶり、サティちゃん」

「ラストワン様!! お久しぶりです!!」

「お、元気だな。うんうん、いい感じだぜ」

「お前な……その生首、なんとかしろ」


 ラストワンは「おっと」とつぶやき、持参した袋に首を入れる。

 周囲にもう盗賊の気配はない。馬車や積荷の確認、ついでに死体の処理をするために停車中だ。

 ケインくんは指揮を執り、マルセイくんもその手伝い。

 というわけで、ラストワンには俺が話を聞くことに。


「で、なんでここにいるんだ? しかも一人で」

「コイツ、この辺りじゃけっこうデカい盗賊団の首領でな。ウチの娼館の女たちを攫いやがったんだ。で、頭に来たからアジトをブッ潰して女を取り返した。首領もブチ殺そうと思ったけどいなくてな。アジトにいた盗賊に、ここで襲撃するって話を聞いたんだ。まさか、お前がいるとは思わんかったぜ」

「なるほどなぁ」


 ラストワンは、王都で一番でかい娼館を経営している。爵位を与えられるが拒否して、その代わりに王都の一等地と大金をもらって開業する変わり者だ。

 ラストワンは、ニヤニヤしながら言う。


「いろいろ聞いたぜ? 団長に喧嘩売って、団長の愛娘連れて領地行ったんだろ? で、団長の息子と一緒に再び王都へ……くくっ、団長がどんな顔するかマジで楽しみだぜ」

「うるせっ!!」

「それと、上級魔族」


 ラストワンは、真面目な顔で言う。


「ワリーな。手助けできればよかったんだけどよ……お前がギルハドレットに戻った直後、お前と接触することを禁じられちまったんだ。ま、団長の私怨だけど、逆らうわけにはいかなかった」

「気にすんな。上級魔族っつっても、大した連中じゃなかったしな」

「……師匠、その『大した連中じゃない』魔族に、私やフルーレさんは殺されかけたんですが」

「あ、ああ。悪い悪い」

「ほほう、サティちゃんも言うようになったな。それに……いい顔してる。ラスはいい師匠か?」

「はい!!」

「ははっ、そりゃ安心だぜ」


 笑っていると、ケインくんがやってきた。


「お久しぶりです、ラストワンさん」

「よ、久しぶりだな、ケイン」

「……あれ、知り合いなんですか?」


 サティがケインくんとラストワンを交互に見る。


「ああ。互いに経営者だしな。柄は違うけど、横の繋がりはあるモンさ」

「まさか、こんなところにいるとは思いませんでしたよ」

「ははっ、さーて……そろそろ行きますかね」

「なんだ、お前も一緒に行くのか?」

「いいだろ? 歩きでここまで来たんだ。乗せてくれよ」


 というわけで、ラストワンも一緒に王都へ向かうことになった。


 ◇◇◇◇◇◇


 盗賊襲撃から、特に何もなく馬車は進んだ。

 魔獣が何度か現れたが、サティが頑張ってくれたおかげで、俺とラストワンは何もしていない。

 そしてようやく、王都が見えた。


「あー……着いちまった」

「ははっ、諦めろ。終わったらウチの店で遊んでいいからよ」

「そりゃいいな」

「遊ぶ? そういえば……ラストワン様のお店って」


 おっとサティ、それ以上はナシだぜ。

 ラストワンもわかっていたのか、話題を変えた。


「それと、飲みにも付き合えよ。いろいろ話したいこともあるしな」

「お前の奢りな」

「おいおい、フツーは年長者が出すモンだろ」

「金欠なんだよ。わかってんだろ?」


 そう言うと、ラストワンは笑う……こいつはいつも明るい。七大剣聖の中でも一番明るい男だ。

 ラストワンは真面目な顔で言う。


「そういや、ランスロットの話、したっけか」

「……いや」

「…………」


 サティの肩がぴくっと動く。

 俺は視線だけでラストワンに語る、『やめとけ』と……だがラストワンは『聞いとけ』と目で語る。


「サティちゃん、あんまりいい話じゃないけど、言っていいか?」

「……お願いします」

「まず、上級魔族の件。王都じゃなぜかランスロットの手柄になってる」

「……はい?」

「お前も戦ったことにはなってる。だが、どうもランスロットが中心となって上級魔族に対処したことになっててなぁ……しかも、城下町でも『ランスロット様が上級魔族を討伐する指揮を執った』って話が、『ランスロット様が上級魔族を討伐した』にすり替わってる。吟遊詩人なんて、ランスロットを英雄とする歌まで作って歌ってやがる」

「……あー」

「それで、団長の機嫌は悪い。なーんもしてないのに、ランスロットが指揮を執ったってことで、アロンダイト騎士団が動いたことにもなってるし。すぐに動かなかったアルムート王国騎士団は批判までされてるぜ」

「おいおい、マジか……」

「今じゃ、アロンダイト騎士団は王都で英雄扱い。スキルを持つ女の子たちの入団が殺到してるって話だ。お前、ずっと領地に引きこもってたし、報告も手紙一つで終わらせたしな。それに……お前、自分の手柄に無頓着だから」

「…………」


 ラストワンは肩をすくめて、どこか呆れたように言う。


「前にも言ったけど、ランスロットの増長はお前にも責任あるからな。ちゃーんと、話すなら話せ」

「…………」

「それと、サティちゃん」

「は、はい」

「王都は今や、アロンダイト騎士団が大人気だ。団員に会っても、喧嘩しないようにな」

「そ、そんなことしませんから!!」


 サティは全力で否定した。

 あーあ……手柄とかどうでもいいけど、やっぱランスロットと話さないとダメか。


「それにしても、なんで王都が見えるタイミングで、こんな話するんだ?」

「決まってんだろ。会う早々、団長やランスロットの話なんかしたら、王都に向かう道中嫌な雰囲気になるだろうが」

「そりゃそうか……さすが、気遣いの天才ラストワン」

「ははっ、そんな愛称初めて聞いたぞ?」


 ラストワン、何だかんだでいい奴だ。

 奢ってとは言ったが、屋台で奢るくらいはしてやるか。

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