脇役剣聖のそこそこ平穏な日常。たまに冒険、そして英雄譚。～自称やる気ゼロのおっさんですが、レアスキル持ちの美少女たちが放っておいてくれません～

脇役剣聖、本格的な修行……の、前に

「さて、さっそく本格的な修行に入ろうか！！」

「は、はい。あの……なんだかすっごくやる気満々ですね」

「ははは、そんなことはないぞ？」

　まぁ、素晴らしい計画を思いついたからな。

　さて、サティに頑張ってもらう前に……質問だ。

「サティ、前にも言ったが、これからお前を鍛える。まずは剣技、そして身体能力を上げることから始める」

「は、はい！！」

「ランスロットから習った剣技を全て出し切れ。で、俺を殺しに来い」

「え……こ、殺すって」

「それくらいの気合で来い。それと武器は真剣でいく。ま、俺は木刀だけど」

　用意したのは二本のショートソード。

　サティに両方渡すと、一本を腰に差し、もう一本を右手で持ち構えた。

　が、少し不安そうに言う。

「あの、あたしだけ真剣……」

「……はぁ。お前さ、俺に当てるつもりだとしたら───さすがに、俺を舐めすぎだぞ」

「っ！！」

　少し強めに威嚇すると、サティの顔がこわばった。

　俺は木刀を突きつける。

　サティが緊張しつつ、俺に剣を向けた。

「い、行きます！！」

「おう」

　サティが真っすぐ向かってくる……うん、走る姿勢はいい。手に剣を持っても、腰に剣を差しても上半身はブレていない。たぶん、基礎訓練はしっかりこなしていたんだろう。

「はぁぁぁぁぁっ！！」

「ふむ」

　上段斬り、中断袈裟斬り、からの打ち上げ。お、打ち上げと同時に腰を捻って二本目を抜刀、そのまま連続攻撃……ふむふむ、即興とは思えないほど技を組み立てているな。

　たぶん、二本目の剣を使った技を独自で開発していたんだ。ま、拙いけど。

「やぁぁぁ！！」

「とりあえず───……わかった」

「えっ」

　俺は木刀の切っ先で、サティの手首のツボを軽く突く。すると、手が開き剣が落ちる。

　落ちた剣を空中で軽く叩くと、剣が回転して俺の両サイドの地面に突き刺さった。

　唖然とするサティ。俺は木刀を肩で担いで言う。

「正直、なかなかだ。王国の騎士団に所属する新兵クラスの腕はある。才能もあるみたいだし、このまま摸擬戦を続けて技を磨いて……どうした？」

「い、いえ……その、師匠がすごすぎて、その……あたし、本当に強くなれるのかって」

「……あー」

　しまったな。自信を失いかけるようなことになっちまった。

　だから俺は指導に向かない……うーん、どうすっかな。

　同じか、ちょっと上くらいの実力者がいれば、切磋琢磨できるんだが。

「───……ようやく、見つけたわよ」

「ん？」

　と、そんな声が聞こえてきた。　

　振り向くと、そこにいたのは青いショートヘアの少女。

　腰には細身の剣。ミニスカ、青い鎧を着た女剣士……あ、この子。

「エドワド爺さんの孫、フルーレだっけ？　え、なんでこんなところに」

「決まっている。序列六位ラスティス・ギルハドレット……あなたに、入れ替えの勝負を挑むためよ！！」

「……あー」

　やべ、そういやそんな約束したっけ。

　というか……まさか、ギルハドレット領地まで来るなんて思わなかった。

　フルーレは剣を抜く。

「さぁ、勝負よ！！」

「ちょっと待った」

　と、俺はフルーレを制する。

　フルーレはあからさまに嫌そうな顔をしたが、剣を下げた。

「……何？　あなた、自分で言ったことを破るつもり？　次に会うとき勝負するって」

「いや、勝負するかも……って話だ。今は、弟子の育成で忙しい」

「弟子？」

　と、フルーレはようやくサティを見た。

　そして、すぐに視線を俺に戻す。

　こいつ、素直だな……もしかしたら、いけるかも。

「だったら、終わってからでいいわ。立ち合いなさい」

「待て待て。なぁ……相談があるんだ」

「……何よ」

「お前さえよければ、サティの修行に付き合ってくれないか？」

「えっ……し、師匠？」

「……意味不明なんだけど」

　フルーレは嫌そうな顔をしたまま首を傾げた。

　一蹴しないあたり、こいつは話を聞くだけの冷静さはある。いや……素直なんだろうな。

「いいか？　俺はこれから、サティを強くする」

「ええ」

「毎日修行をする。で、俺はへとへとになる。お前はそんな俺に勝負を挑んで勝とうとしている……ってわけだ」

「…………ふむ」

「だから、俺と勝負したいなら、一緒にサティを鍛えるんだ。互いに疲れ切った状態で戦うなら対等だ。あーでも俺、領主の仕事もあるしなぁ……手伝い、欲しいなあ」

「なるほどね」

　フルーレはニヤリと笑った。

「いいわ。手伝ってあげる。その代わり、食事と宿は提供しなさい。同じ条件で戦わないとフェアじゃないものね」

「そうそう。なんだ、話がわかるじゃないか」

「ふふ、当然」

「じゃ、今日はもう休め。宿を手配してやるから、しばらくはそこで寝泊りしな」

「ええ。ありがとう」

　村の宿にフルーレを向かわせると、サティは言う。

「あの、師匠……あの人、七大剣聖なんですよね？」

「まあな」

「なんというか……その、すっごい純粋ですね。師匠の口車に、乗せられちゃったというか」

「素直なんだろうなあ……まぁ、難癖付ければ、俺と戦うこともなさそうだ」

「騙すのはちょっと酷いかと……」

「ははは。お前の訓練相手だと思えばいいだろ。まぁそうだな……あいつが王都に帰る日とかに、全力で相手してやるくらいの報酬は出してやるか」

　こうして、フルーレがサティの修行相手として、ギルハドレット領地に滞在することになった。