脇役剣聖、森を警戒する
盗賊は、半分ほど倒されると撤退した。
ずっと奥の方で見ていた首領……なかなかやるかもしれん。引き際を見極められる司令官は強い。
というか、まるで俺たちの強さを図っているようにも見えた。
ま、考え過ぎかな。それより、サティだ。
「サティ。大丈夫か?」
「はい。あたし、ちょっと行ってきますね」
サティの顔色がちょっと悪い。どこに行くのかと思って見ていると、盗賊に襲われそうになっていた女性のところだ。
サティが声をかけると、女性は嬉しそうにお礼を言ってサティを抱きしめる。サティは涙を流し、女性の胸に抱かれていた……もう、心配なさそうだ。
すると、ケインくんが来た。
「一線、超えましたね」
「ああ。もう大丈夫……一皮剥けた感じかな」
「はい。と……怪我人は出ていません。馬車や荷車も無事でしたので、盗賊の死体を処理したら出発します」
「ああ」
盗賊の死体は、集めて焼いて骨は埋める。
装備関係は回収したいところだが、荷物になるので持っていけない。質のいい装備でもないので、盗賊たちと一緒に埋めてしまう。
置いておいたら盗賊が回収に来るかもしれないしな。
商会の人たちは手慣れた感じで死体を焼き、埋めていく。
すると、サティが来た。
「あの、師匠。さっき、盗賊たちが襲ってきたとき、けっこううまく『磁力』を操れました」
「そっか。まぁお前は、磁力と雷の切り替えがヘタクソなだけで、どちらかだけなら発動もそこそこ早いし、技も豊富にある。とにかく、使い慣れていくしかない」
「はい!!」
サティも元気が出たようだ。
死体の処理が終わり、馬車は再び出発した。
◇◇◇◇◇◇
盗賊を追い払い、俺とサティはケインくんの乗る馬車へ。マルセイくんは外で護衛たちと警護している。なんか申し訳ないな。
「あの、ラスさん。実は少し気になることが」
「盗賊のことか?」
「え……?」
ケインくんは「ご名答」と、サティはポカンとする。
「どうも、さっきの襲撃が中途半端な気がして」
「俺も思っている。あー……俺の考え、言ってもいいか?」
「はい、お願いします」
サティは口を挟むべきではないと、俺とケインくんを交互に見ながら黙っている。
「さっきの襲撃は様子見だろうな。こっちの戦力を把握するのが狙いだろう。恐らく、二度目の襲撃がある」
「え、え……」
「さっきの襲撃してきた盗賊、いい装備を使っていたのは数人だけで、残りは微妙な装備ばかりだった。盗賊団の中でも使えないヤツを決死隊にして、こっちの人数、スキル、装備、荷物なんかを把握してたんだろ。首領っぽいヤツはすぐ撤収できるような位置にいたし、その周りを固めていた連中もなかなか強そうな感じだった」
「さすがですね。実はボクも、同じことを考えていました」
「ああ。普通は、一度の襲撃を乗り越えたら、もう襲撃はないと油断するモンだ。恐らくだが……次、襲撃があるとしたら、さっきの盗賊団の『本隊』が来るだろうな」
「……こちら、ご覧ください」
ケインくんは、アルムート王国までの地図を出す。
そして、車内で広げ、ペンでいくつかマークをした。
「襲撃するとしたら───……どうしても通らないといけない森が一か所あります。他にもルートはありますけど、襲撃するなら森の中か……」
「いや、そこじゃない」
「え」
俺はケインくんの地図に、もう一つマークをした。
「森の出口だな」
「……なぜです?」
「あからさますぎる。確かに森の中は身を隠しやすいし、襲撃にはもってこいだ。でも……王都に行くルートでは必ず通る森なんて、普通に考えたら最も警戒する場所だ。しかも盗賊たちは一度襲撃している。森の中で防護系のスキルを展開する可能性もあるし、攻撃系スキルを持つ護衛たちが最大級の警戒をする可能性もある。だったら……森を出て安心したところを狙って、不意を突く」
「……な、なるほど」
「あくまで一案だ。なんとなくだけど、この盗賊の首領は馬鹿じゃない。思いもよらない手段を使う可能性もあるってこった」
「……し、師匠、すごい」
「では、どうします?」
「……よし、こうするか」
俺は『森抜け』のアイデアをケインくんに説明。さっそく実行することに。
◇◇◇◇◇◇
「さて、頑張りますかね」
俺は一人、馬車の屋根に立っていた。
進んでいるのは森。小鳥や虫の鳴き声がけっこう聞こえる。日があまり差さないので薄暗く、けっこう涼しい。
現在、俺は一人で馬車の護衛をしていた。
「『開眼』」
目を開き、周囲を確認する。
怪しい、不自然な力の流れを見極める。
虫が動き葉が揺れたり、葉っぱが落ちてひらひら揺れたり……いろんな流れが見える。
「ラスさん、あまり無茶しないでください」
「大丈夫だって」
森抜けの方法───それは、俺が一人で馬車の護衛をして、護衛たちはたっぷり休んでもらう。
俺が七大剣聖だとみんな知っているので、不安よりむしろ安心して休んでいる。こういう時、この七大剣聖って肩書はありがたいな。
「とはいえ───……常時『開眼』は、ちょっとキツイわ」
十代だったころは、朝から晩まで『開眼』しててもぴんぴんしてたんだが……今はちょっとキツイ。やっぱ老いってスキルに影響するのかな……団長とか、歳重ねてさらにスキルが強くなってるけど。
そして、馬車が走ること数時間……今のところ、不自然な感じはない。
あと数十分で、森を脱出できる。
「……確定だな」
森には、何もない。
恐らく、森の出口か、その先か。
俺は剣の柄に手を添え、ケインくんに言う。
「ケインくん。馬車を走らせたまま、護衛を起こして準備させてくれ」
「……やはり、いますか?」
「恐らくな。少なくとも、森の中には何もいない。森から馬車が全部出たら、矢の一斉射撃くらいあるかもしれん」
「……っ」
「とりあえず、用意だけ。俺は迎撃態勢に入る」
それだけ言い、先頭を走る馬車の屋根に上る……すると。
「師匠!!」
「おま、危ないぞ!! 馬車に戻れ!!」
「あたしなら、飛んでくる矢を止められるかもしれません。矢じりって鉄ですし」
「お前な……仮にできるとして、ぶっつけ本番でできるのかよ」
「わ、わかりません。でも……できるなら、やりたいです」
「……自分の身と、ケインくんの乗る馬車だけでいい。残りは俺がやる」
「でも」
「サティ、我儘言うな」
「……はい」
そして、馬車が森から出た瞬間───……『流れ』が変わった。
空を切る何か。俺は力の流れの方を向き、眼を閉じた。
「『大開眼』」
目を開け、飛んで来る『矢』を見る。
距離は百メートルほど。草場に伏せた状態での一斉発射。
矢の数は百ほど……さっきの盗賊の本隊に違いない。
さすがに、これだけの数を斬るのはめんどくさい───……が、斬る。
「『閃牙』」
大開眼状態なら、時間が緩やかに感じられる。
俺は飛んで来る矢を全て斬り、馬車の上に戻った。
大開眼状態解除───……すると、空中で矢がバラバラに両断された状態で落ちる。
「敵襲!! 盗賊の本隊だ!!」
叫ぶと、馬車から護衛たちが飛び出した。
草場に伏せていた盗賊たちも立ち上がり、一斉に剣を抜く。
中には、さっき見たボスもいた。矢が全部両断されているのを見て舌打ちする。
「サティ、敵はかなり手練れだ。混戦になるから大技は使うな!! お前のスキル制御じゃ味方を捲き込む!!」
「は、はい!!」
さて、混戦か……相手は百人の盗賊、こっちは十人ほどの護衛に俺、マルセイくん、サティ。
はっきり言って滅茶苦茶不利だが……みんな、俺がいると知っているので勇敢に立ち向かってる。
「さて、俺も仕事する───……」
と、気合を入れた時だった。
上空から、刀身が反り返った『曲刀』が、クルクル回転しながら落下した。
「……ん?」
「な、何ですか? け、剣?」
「こいつは……」
すると───……同じ形をした曲剣が、いくつも回転して落ちてきた。
サティが警戒、双剣を抜く───だが俺は叫んだ。
「全員!! 撤退!! 馬車に戻れ!!」
「えっ!?」
サティが驚愕する。
護衛たちは、俺が何かすると思ったのか、一斉に撤退。
盗賊たちが一斉に向かってくる。
「し、師匠!! ど、どうすれば」
「ああ、大丈夫」
俺も、柄に乗せていた手を外し、馬車の屋根にどっかり座った。
「いいタイミングだ。まさか、お前の獲物だったとはな」
「ははっ」
俺の隣───馬車の屋根に飛び乗った男。
軽薄そうでニヒルな笑顔、胡散臭いサングラス、編み込んだ金髪に、リーゼントヘア。
俺に向かって軽く手を挙げたのは。
「よーうラス、久しぶりじゃねぇか」
七大剣聖序列四位『無限』ラストワン・テンカウントだった。
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