集う剣、集う牙
サティは双剣、そして全身に雷を纏わせると、紫電に輝き髪が逆立った。
エミネムは風を纏い、フルーレは冷気を纏う。
その三人を見て、ラストワンは思う。
「いや~……強くなったな」
「同感。でも、あの『愛虎』と渡り合えるかどうかは微妙なところ。ラストワン、タイミングは任せるわ」
「おう。あの三人に合わせて行くぞ。へへ、久しぶりの合体技、楽しもうぜ?」
「嫌」
ラストワン、アナスタシアは笑う。
二人は気配を完全に断ち、サティたちの戦いの邪魔にならないよう、岩場に身を隠す。
そして、三人の中で誰よりも早く、エミネムが突撃する。
周囲に竜巻を六つ生み、どこから出したのか六本の槍を風で操作する。
「
風を纏った六本の矢がコントンに向かって真っすぐ飛び、エミネムも渾身の突きを放つ。
だがコントンは指をパチンと鳴らす……それだけで、コントンの姿が煙に巻かれ消えた。
しかし、エミネムは槍の向きを縦に変え、竜巻の勢いを増加させる。それだけで周囲のモヤが一気に消し飛んだ。
「フルーレ様!!」
「任せて」
フルーレが細剣を指揮棒のように振るうと、地面が一気に凍り付き、何本もの氷柱がせり上がる。
「『
「!!」
モヤが晴れ、コントンの姿が見え──地面からせり上がる氷柱がコントンを捕えかけた。
だが、コントンは自身の領域のモヤを爆発的に増やし、一瞬で姿を消す。
自身に有利な領域。吸うだけで発情してしまうモヤ……すでに、エミネムの『風』では対処不可能なほどにモヤが三人を包み込み、エミネムが胸を押さえ崩れ落ちた。
「すみ、ませ、ん……!!」
「くっ……」
フルーレも崩れ落ちる……だが、サティだけは無事だった。
雷が、サティに触れるモヤを焼いていた。
どこからか、コントンの声が聞こえる。
『そう。吹き散らすんじゃなくて、焼くのが正解。やるじゃない』
「どうでもいいです!! あたしは──あなたを、倒す!!」
サティの周囲が紫電に包まれ、モヤが一気に燃えた。
そして、サティの背後に……爪を伸ばし、牙を剥き出しにしたコントンが迫る。
サティも気付いていたのか、振り返って双剣を振る。
「──ッ!?」
コントンは驚愕した。
速い。サティの動きが、いつもの数倍……数十倍に、跳ねあがっている。
雷による全身強化。恐るべき速度の斬撃が、コントンを捕える。
野生の勘による、命の危機を感じたコントン。
今のサティの刃は、自分の命を斬り裂く。
少し傷付け、支配下に置く。そのために爪で斬ろうとしたが、判断を誤った。
このままではまずい。
「───……ッチ」
コントンは舌打ちし、全速力で回避……だが、サティの斬撃が。
「『
自分なりに身に付けた、雷と双剣による高速の斬撃。
ラスの真似ごと……本人には遠く及ばない速度だが、今のサティ最速の斬撃が、コントンの両爪を切り裂く。そして、爪が砕け散った。
「くっ……届かないっ!!」
斬撃は、コントンの爪だけを砕いた。
サティは崩れ落ち、高鳴る心臓を抑えつける……コントンのモヤを吸ってしまい、身体がガクガク震えだした。
コントンは、本当に驚いていた。
「驚いたわ。あなたの剣……私の命を狩るところだった」
「くっ……」
「あなたが成長したら、私だけじゃない……お父様にも届くかもね。だから、ここで狩る」
コントンの爪が伸び、サティに向けられた。
そして──コントンが腕を振りかぶった時だった。
「───……いくわよ、ラストワン」
「おう。任せとけ」
そんな声が、聞こえてきた。
◇◇◇◇◇◇
「行くぜ、『
ラストワンはアナスタシアの蛇腹剣、その分離する蛇腹部分に触れると、刀身であるエッジ部分が爆発的に増え、伸ばした状態でも十メートルほどの長さの蛇腹剣が、一気に百倍の千メートル……一キロほどの長さにまで伸びた。
だが、一キロの長さを誇る蛇腹剣をアナスタシアの筋力で持つことは不可能……。
「『
アナスタシアは、剣を振動させる。すると、長さ一キロある剣が暴れるようにビチビチ動き回り、一キロ先にある先端部分が激しく動き、一気に上空へ飛んだ。
アナスタシアは、剣を振り回す。
この時ようやく、コントン、サティ、エミネム、フルーレはラストワンとアナスタシアに気付いた。
「なっ……あなたたち、いつの間に」
「もう遅いぜ。な、アナスタシア」
「ええ。悪いけど──……もう、この蛇腹剣は止まらない!!」
アナスタシアが腕を振るうと、蛇腹剣の先端がまるで大蛇のように跳ねる。
地面を抉り、アナスタシアの『音』と『振動』による精密操作で、コントンに向かって行く。
ラストワンは、この時もアナスタシアの蛇腹剣の柄に触れ、今もエッジ部分を増やし、その長さを伸ばしていく。
腕力ではない。振動による操作で大蛇は突き進む。
「「『
ラストワン、アナスタシアの協力技に、コントンは狂気の笑みを浮かべた。
サティから離れ、迫りくる蛇腹剣の先端部分から逃げる。
だが、アナスタシアの精密操作で先端はコントンを狙う。その速度は音速に匹敵し、地面を抉り、衝撃波を生み出す。
フルーレが飛び出し、エミネムとサティを掴み全力で離脱。
「あの馬鹿二人!! こっちを巻き込むこと考えてないわっ!!」
フルーレが叫ぶが、アナスタシアとラストワンは止まらない。
そして、コントンは。
「ふふ、私もやっぱり《虎》ね……逃げるのは、性に合わないわ!!」
両手の爪を限界まで伸ばし、牙を剥き出しに、髪を逆立て、目が獣のように輝いた。
そして、ラストワンとアナスタシアの合体技を、両手の爪を使い真正面から受け止める。
「ぬギギギギギぎぃぃぃぃぃぃぃ──ッッッ!!」
爪に亀裂が入り、身体が押され、それでも真正面から受け止める。
本来、コントンは他者を操り、自分が手を下すのはトドメを刺す時だけ……だが、命の危機を初めて感じた今、そのスリルを限界まで味わいたいという気持ちが一気に膨れ上がった。
さらに、コントンは腐っても《虎》である。勇猛果敢な一族である以上、逃げるというのは己の細胞が許さなかった。
その意思を感じたのか、ラストワンとアナスタシアは笑う。
「ラスの言った通りかもなぁ!! アナスタシアよぉ、魔族ってスゲェぜ!!」
「ええ。七大剣聖として──敬意を表するわ!!」
蛇腹剣の大蛇、勇猛果敢な虎の爪。
互いに亀裂が入り、一気に砕け散った。
ラストワン、アナスタシアが吹き飛び、コントンも吹き飛ぶ。
周囲が土煙で覆われ、少し離れた場所にいたフルーレ、サティ、エミネムが息を飲んだ。
そして──土煙の中、現れたのは。
「…………ふぅ」
コントン。
ゆっくりと、フルーレたちの元に向かって歩いて来る。
三人は武器を構えるが……コントンは、満足そうに微笑み、空を見上げた。
領域が爆ぜ、青い空、白い雲が見える。
「あぁ──楽しかったわぁ」
満足そうに微笑み、コントンは崩れ落ちた。
その背中には、無数の蛇腹剣のエッジが突き刺さっており、刃の一つが心臓、核を貫通していた。
倒れるコントンを、土煙の中から現れたアナスタシアが抱きとめる。
「強かったわ……本当に」
アナスタシアも、無傷ではなかった。
コントンの爪が腕に刺さり、血が流れていた。
同じように、土煙の中から現れたラストワンも傷だらけだ。
コントンは満足そうに微笑み、静かに塵となっていった。
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