閑話③/そのころの王都

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……っぷは!! マジでキッツ!!」

「うるさい……!!」

「どうした。その程度か?」


 アルムート王国王都、七大剣聖専用特殊訓練場にて。

 ラストワン、アナスタシアの二人は、七大剣聖最強でありアルムート王国騎士団総団長であるボーマンダと対峙していた。

 ラストワンは両手に曲刀、アナスタシアは蛇腹剣。

 対するボーマンダは、身の丈以上の大剣を肩に担いでいる。


「その程度では、『臨解』の先にある『神器』にはたどり着けんぞ」

「団長、マジバケモノっすね……オレ、アナスタシアを同時に相手して、そんな余裕そうで」

「ふ……まあいい。少し休憩だ」


 すると、ボーマンダの剣が消える。

 そう、この大剣はボーマンダの神器。


「便利っすね、団長の『撃神器エッケザックス・ノヴァ』……出し入れ自由とか羨ましい」

「感心する暇があったら、自分を追い込め。すでに『枷』を外したお前たちには、もう自分を追い込むことでしか『神器』を使う手立てはない」

「あの、団長……」


 と、アナスタシアが挙手。


「神器は『神スキル』の一部。『枷』を外すのと何か関係があるのですか?」

「……これは極秘事項だ。それに、お前たちには当てはまらんぞ」

「でもでも、興味あるっすね」


 ラストワンは近くの椅子を手に取り、『神増』の力で増やす。

 そして、アナスタシアとボーマンダの前に置き、自分が最初に座った。

 ボーマンダ、アナスタシアも座る。


「……『神器』は、神スキル持ちが持つ最強武器だ。『臨解』を持ち神を解放し、『神器』を振るい敵を殲滅する……これこそ、大昔は当然だった、神スキル持ちの戦いだ」

「すっげ……『臨解』でさえヤベーのに、神器とかマジすか」

「だが、問題はその方法だ」

「「?」」


 ラストワン、アナスタシアが首を傾げる。


「神スキルの『枷』を外す方法はわかるな?」

「ええ。七大剣聖に伝わる『神魔解放』にて、神スキルを刺激する。そして、顕現した神を倒し、神の力を覚醒させる」

「七大剣聖なら誰もが知ってる方法っすね」


 ラストワンがサングラスをずらし、ニカッと笑う。

 ボーマンダは続けた。


「それが一般的な方法。だが……本来の方法ではない」

「「え?」」

「本来は神スキルを刺激し、神を完全に顕現させ、討伐するのだ」

「まま、待った!! 団長、『神の完全顕現』はご法度でしょうが!! オレら七大剣聖が『神魔解放』を行う際に最も気をつけなきゃいけないことっしょ!?」

「そうだ。完全開放された神は、七大魔将を超える力を持つ……もし王都で神が完全顕現すれば、半日と待たず王都は更地になるだろうな」

「……マジ?」

「そして、完全顕現した神を倒し、認めさせることで、『神器』が使用可能になる。神器とは、持ち主のために形を変えた神そのもの。神器を覚醒させるだけで、通常の『枷』を外した以上に力を得る……お前たちはいわば、不完全な状態で『枷』を外した状態だ。神器を覚醒させれば、上級魔族なぞ敵ではない」

「「…………」」


 ボーマンダは煙管を取り出し、煙草に火をつける。


「七大剣聖で神器を覚醒させたのは、ワシ、ランスロット、ロシエル、ラスティスだな」

「ろ、ロシエルも!?」

「ああ。あ奴は天才だ。才能だけならラスティスをも超える」

「マジか……なあオレ、今日何回『マジか』って言った?」

「知らないわよ。でも……ふふ、面白いじゃない。神器を覚醒させれば、もっと強くなれるのね」

「そうだ。お前たちは一度、『神魔解放』で枷を外している。あれは二度使うことができん技だ……力で屈服させることができなければ、強い意志で内なる神を動かす以外、方法はない……徹底的に追い込むぞ。死ぬなよ」


 ボーマンダは煙草を消し、立ち上がり……ニヤリと笑う。

 ラストワンとアナスタシアが顔を見合わせると、立ち上がる。


「上等っすよ。さ、頼みますぜ団長」

「本気で行きます。殺す気で」

「……フ。面白い」


 ラストワン、アナスタシアの修行は、まだまだ続く。


 ◇◇◇◇◇◇


「お疲れ様でした、イフリータ」

「はぁ、はぁ、はぁ……!!」


 アルムート王国郊外の大平原にて。

 イフリータは全裸で倒れ、息も絶え絶えだった。

 それもそのはず……たった今、内なる『神』が完全顕現し、呑み込またばかりなのだ。

 イフリータは立ち上がり、両手を見つめる。


「……す、すごい」


 両手が一気に燃え上がる。それだけじゃない。全身が一気に燃え上がると、イフリータの右手に剣、左手に盾が現れた。


「お、お父様……これは」

「『神器』です。完全顕現した神を屈服させたことで、あなたは『臨解』と『神器』を両方手に入れた。少し、骨は折れましたがね」


 ランスロットの左腕が、重度の火傷となっていた。


「『炎神獣サラマンドラ』……恐ろしい敵でした。久しぶりに私も『神器』を使いましたよ」

「お父様……私のせいで」


 イフリータは神器を解除し、ランスロットの腕にそっと触れた。


「すぐに治療を……」

「ええ。ですがその前に……おめでとう、イフリータ。あなたは『神スキル』の高みに到達しました」

「あ、ありがとうござ……きゃっ!?」


 ようやく裸と気付き、イフリータは胸を隠す。

 ランスロットが上着を脱ぎ、イフリータにそっとかけてやると、イフリータが顔を赤くし、それでも嬉しそうにほほ笑んだ。


「ふふ、今のあなたとサティ、どちらが強いでしょうか」

「当然、私です!! お父様、私……お父様のために、頑張りますから!!」

「ええ、期待していますよ」


 ランスロットは、イフリータの頭をそっと撫でた。

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