脇役剣聖、サウナに大喜び

 三日ほどかけて鉱山を全て調査。ハドの村に戻った。

 村に戻り、屋敷に戻ると……そこには、山積みの資材。

 ケインくんが言う。


「あ、サウナの資材、届いたみたいですね」

「お、ぉぉぉ……!! つ、ついに」

「師匠、興奮してますね」

「サウナ……王都で人気の《蒸し風呂》でしたっけ。私、聞いたことあります」


 サティとエミネムが資材を眺めつつ首を傾げた。あまりパッとこないのかも。

 とりあえず、サウナは置いておく……落ち着け、落ち着け。

 俺はケインくんに言う。


「まず、こ、鉱山の調査報告をしないとな。うん。いろいろわかったこともあるし」

「師匠、サウナの資材チラチラ見ながら言っても……」

「あ、あはは。えっと、報告をしませんとね。今、屋敷にみんな集まっていると思いますので」


 名残惜しいが、今は報告をしなければ。

 俺はサウナ造りの職人さんたちにしっかり挨拶。話を聞くと、すでに木材などはカットされているため組むだけでいいらしい。人数もいるので、試運転含め今日中には完成するとのことだ!!

 テンションを押さえつつ、ギルガたちの元へ。


「戻ったか。ラス、ランスロットから手紙が届いているぞ」

「…………」


 戻るなり、ギルガが俺に手紙を押し付ける。

 ちなみに、サティたちは部屋に戻った。あいつらは俺の弟子であって、開拓には関係ないからな……まぁ、魔獣退治とかは手伝ってもらうが。

 手紙を受け取ると、フローネが言う。


「鉱山については、こっちで詰めておくから。あんたはちゃんと手紙確認しなさいよ」

「……こういう時って嫌な予感しかしないんだよ」

「はいはい。ほら、自分の執務室行きなさい。こっちは鉱山の調査報告聞くんだから」


 フローネに背を押され、俺は自分の執務室へ。

 俺の執務室。

 そこそこ大きなデスク、ちょっと豪華な椅子、書類棚、来客用のソファにテーブル、そしてテーブルの上には花瓶がある普通の部屋だ。村の住人であるお手伝い婆さんたちが掃除してくれるので、汚くはない。

 壁には、ちょっと前まで普段使いしていた『ウルフソード』が掛けられている。

 今は『冥狼斬月』を常に使用している。腰のベルトから外し、デスクに立てかけ、俺は椅子にどっかり座って手紙をデスクに置く。


「あ~……見たくねぇ」


 椅子は回転式。くるりと回転し、背後の窓を足で開ける。

 いい風が吹き、このまま仕事を終えて風呂に行きたくなる……が、窓から声が聞こえて来た。


「そっち支えておけ!!」「おっす!!」

「しっかり固定しろよ!!」「魔道具、こっちに設置だ!!」


 窓を覗くと……職人たちが、サウナを建設していた。

 本当にカッコいい連中たちだ。サウナ。そう、俺のサウナを作る職人たち。

 筋肉ムッキムキのスキンヘッド職人、刈り上げの職人、刺青の入った職人……ああ、サウナを作るために、みんな頑張っている。

 それなのに、俺は……王都からの手紙を見たくないからって、こんな。


「……よし!! ありがとう職人たち、元気をもらった!!」

 

 職人パワーをもらい、俺は手紙を開封した。


「……何?」


 内容は、デッドエンド大平原で『虎』の魔獣が活性化している。とのこと。

 『虎』の魔獣……そういえば、鉱山にも出た。


「調査した鉱山は四つ。その全てに魔獣は出たが……そういや、全部『虎』の魔獣だったな」


 長く、ギルハドレッド領地に住んでいるが、『虎』の魔獣はあまり見かけない。

 いても一匹二匹。討伐レートも低い大したことのない魔獣が殆どだ。

 だが、今回は違った。討伐レートBはありそうな『レッドワイルド』を中心に、多くの虎魔獣が出てきた。

 

「……あまり気にもしていなかったが、何か嫌な予感するな」


 そういえば、ラクタパクシャが言っていた。


「『破虎』ビャッコ。虎の七大魔将……七大魔将で、危険なヤツか」


 『冥狼ルプスレクス』の治めていた領地を奪った、七大魔将で最も危険なヤツ。

 そいつがもし関係していたら? 

 いやまさか、そんなはずはない……恐らくだが。


「……気を付けろ、んで近いうちに王都へ来い、か」


 ランスロットの手紙には、そう書かれていた。

 また、『デッドエンド大平原』の調査をしなくちゃいけないのかもな。

 俺は、『冥狼斬月』を見る。


「……なあ相棒。お前の『牙』と俺の『牙』なら、七大魔将だろうと斬れるよな」


 ラクタパクシャがギルハドレッド領地に来てから、俺は考えていた。

 もし──ほかの『七大魔将』が、上級魔族や中級~下級魔族を率いて攻めてきたら。

 今の俺は、七大魔将を倒せるのだろうか。

 

「…………」


 答えは、わからない。

 ルプスレクスやラクタパクシャのような七大魔将もいる。もしかしたら、対話できるかもしれない。

 でも……問答無用な奴もいる。それこそ、ラクタパクシャが言う『破虎』みたいなやつも。

 今の俺は、斬れるのか。

 俺は、『冥狼斬月』を手に立ち上がる。


「───…………『閃牙』」


 抜刀、納刀。

 常人には、鍔鳴りしか聞こえなかったと思う。

 花瓶に差してある花。花弁の一枚が細切れになりテーブルに落ちた。

 

「…………堕落、か」


 ラクタパクシャは、俺は堕落したと言った。 

 でも……俺は、この十四年、一日たりとも訓練を欠かしたことはない。

 今の俺なら、斬れる。


「常に、最悪の事態を想像しておけ……そういや俺、ギルガたちに偉そうなこと言ったっけな。あいつらが今も訓練続けてるのって、そういうことなのかね」


 剣をデスクに立てかけ、再び椅子に座る。


「とりあえず、ランスロットに返事書くか。王都に行くのは、開拓が落ち着いてからだ。あっちには団長も、ランスロットもいるし、ラストワンもいる……七大魔将が現れても、何とかなるだろ」


 俺は『開拓落ち着いたら王都に顔を出す』と返事を書く。

 

「よし。ケインくんにお願いして、王都へ運んでもらうか──……」


 と、椅子から立ち上がった時だった。


「……ん?」


 窓が、コツコツ音を立てた。

 小さな何かが、窓を叩いていたのだ。

 それをよく見ると、見覚えのある『鳥』だった。


「……ビンズイの、『セキレイ』か?」


 それは、桃色の小鳥。

 だが、様子がおかしい。

 羽がボロボロで、身体の至る所が欠けていた。

 窓を開けると、小鳥はフラフラと飛び、俺のデスクへ。


「お、おい……」


 小鳥は、小さな嘴で俺のデスクに文字を掘る。

 それは──シンプルな言葉だった。


『ラクタパクシャ様、負けた、たすけて』

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